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14 後宮へ

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「レイラン、お前にお客様だ。そっちのお客様ではないから、襲うなよ。」
 
 まだ日の高い時間に、お客だと言ってシアさんが連れて来たその男性は、少しジョルジュに似たイケオジだった。
 
 ってか、シアさん? 襲うなよってなんだ、それは! 私を猛獣みたいに……。
 
 
 ジョルジュに似たイケオジは、基本使う言葉が難しくて、“詳しいことは今は言えぬが”ばかりで、おまけになんか回りくどくて、結果、何を言っているかよくわからなかった。
 
 ただ、聞こえて理解できた言葉は……。
 
『お前の得意な事で、困っている者たちの手助けをしてもらいたい。』
 
 つまりそれは、困っているイケメンを救う、という話に違いない。だって、それ以外、遊女の私に何が出来るっていうの?
 
 きっと、恥ずかしくて妓館に来ることが出来ない、いいとこのお坊ちゃん達に、女を教えてあげるとか、デスマーチで残業頑張っててここに来れないイケメン達にスッキリしてもらう、とか、そんな事を頼まれているに違いないと思った私は、二つ返事で了承した。
 
 一緒に話を聞いていたシアさんは、私の返事に、すこぶる心配そうな顔をしていたが、イケオジは私を借りている期間はその分の料金を支払うと約束したので、シアさんも最後は胡散臭い笑顔ではあったが、快く送り出してくれた。
 
 この短期出張サービスにおいて、私は一つ条件を付けた。
 それは、リンちゃんも一緒に連れていくこと。
 今となっては、“リンちゃんなくしてレイランなし”と言えるほど、私にはリンちゃんが欠かせない存在となっている。
 
 イケオジは、禿一人くらい問題ない、として、私は無事にリンちゃんと一緒に、どこだか聞くのを忘れた目的地へと向かったのだった。
 
 
 
 
 
「……っレ、レイラン様っ……も、もしかしてここは……っ」
 
 目的地に到着するや否や、何かに気付いたリンちゃんが、突然震えて私にしがみついた。
 
「っ? それにしても、その禿も大したものだな、私を見ても平気そうに見える。」
 
 リンちゃんの動揺から私の気をそらすように、さっきまで無言だったイケオジが突然話しかけてきたではないか。……なんだ、怪しいな。
 
「私のお客様を見慣れてますし、そのお客様方のお人柄の良さもきちんとわかっている子ですので、当たり前です。いい子でしょ?」
 
 怪しいと思いつつも、リンちゃんを褒められて嬉しい私は、自慢する。しっかりと自慢した後で、震えるリンちゃんの頭を撫でて、どうしたの? と聞いた。
 
「レイラン様、そちらの旦那様にお尋ねください、もしやここは……っ」
 
「おっと! つきましたぞ。さぁ、荷物は運ばせるゆえ、そのまま中に入ってくれ。」
 
 またもリンちゃんの言葉を遮るように被せてきたイケオジ。……怪し過ぎるな。
 
 空気を読み過ぎる幼女、リンちゃんは、イケオジが自分の言葉を遮ったことに何かを察知し、それ以降黙ってしまったが、ずっと私にしがみついて震えている。
 
 一体、ここはどこだと言うのだろうか? 鬼の住家だとでも? ……あ、イケメンの住家かしら?
 でも、今更リンちゃんがイケメンたちに怯えるわけはない。
 
 そんな疑問を抱きながら、通された部屋はとんでもなく豪華な造りの和洋室だった。部屋付きの半露天風呂まである。
 
「レイラン殿には、ここでお過ごし頂く。」
 
「……。」
 
 私は無言でグっと、親指を立てた。が、イケオジには理解してもらえなかった。まぁいい。
 
 一方リンちゃんは、豪華な部屋を見て、ほんの少しキョロキョロとしている。少し落ち着いたのだろうか、良かった。
 
  
 この部屋は、離れというやつなのか、隣接する建物は見当たらない。
 ここに来るまでにもだいぶ歩いてきたが、その間に人の住んでいそうな部屋は無かった気がするので、行為の最中に思いっきり声を出しても問題なさそうだ。
 
 ここにイケメンたちが通って来るのだろうか?
 うひょ~楽しみ。
 
 
 
 
 
 
 
 ……と、思っていたのに……。
 
 
「レイラン様、ここはおそらく“後宮”の中だと思います。」
 
 と、リンちゃんが私に耳打ちをした。
 
 ……。
 
 こうきゅう? コウキュウ……? ……あ、もしかして後宮?!
 
「なに言ってんのリンちゃん、後宮って女しか入れないところでしょう? そんな地獄みたいなところに、私が呼ばれるわけないじゃん。あはははっ……?」
 
 笑い飛ばすも、リンちゃんは不安気な表情を崩さないので、私は無言でイケオジをじっと見つめて、回答を求めた。
 
「……ゴホン……その禿の言うとおりです。ここは後宮の中でも、最も位の低い十番目の妃のために用意されていた居室なんだが、今は十番妃は欠番ゆえ、空き部屋であるここをそなたに使ってもらう。」
 
「……は? ……なら、後宮ってまじなの? なんで私が欠番の嫁の部屋にいるの?」
 
 そんなことより、ここって男子禁制じゃないっけ? 来れるのって……一人だけじゃね? ……は?
 
 
 
 
 
「この……嘘つき野郎! 私をこんな所に連れてきてどうするつもりなのよ!」
 
 ひどい、私のデリバリーイケメンライフはどうなるの?! 迷える童貞イケメンは?! 疲れマラのイケメンはどこ!?
  
「な、なぜそのように声を荒げるのだ! お前のような女なら、誰もが憧れる場所であろうが!」 
 
 憧れる? こんな男子禁制の場所のどこに憧れる要素があると言うのか。 
 
「私をそこら辺の女と一緒にしないで! いーい? 私はね、“三度の飯よりセックス同衾が好き”なのよ! 後宮・・なんか、死んでもごめんだわ! 今すぐここから出して! 花街に帰しなさいよ!」
 
 
 私の決め台詞と共に、開いた口がふさがらない様子のイケオジは、ひとまず落ち着け、と言い、説明を始めたが、結局納得できないまま、得たものと言えば、イケオジの名前が“キョンシー”だと言うことだけだった。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 ジュンシーは、私の怒りが収まるまで逃げようとするかのように、しばらく席を外す、と言って部屋から出て行った。
 
「ったく……キョンシーめ……。」
 
「レイラン様、ジュンシー様ですよ。」
 
 うん、わかっているよ、リンちゃん。訂正ありがとうね、本当にキョンシーで覚えちゃいそうだったよ。
 
「それにしても、どうしよっかリンちゃん……私、講師なんて無理だし、絶対嫌だし、イ◯ポとか治せないし……荷物は置いて、逃げちゃう?」
 
「……そうですね、逃げた方がいいかもしれません、後宮とは死人が絶えない恐ろしいところだと聞きました。」
 
 し、死人が絶えない?! なんて物騒な……誰だ、リンちゃんの耳にそんな物騒なことを吹き込んでいる奴は……だから、ここに来た時あんなに怯えて震えていたのか。
 
 いつもは私の無茶ぶりを止めてくれるリンちゃんが、逃げる方に一票くれたということは、よほどここにはいたくないのだろう。連れてきちゃった私も、ちょっと責任を感じてしまう。
 
 
 
「よしリンちゃん、思い立ったが吉日、善は急げだよ。逃げよう。私の変装セット持ってきてる?」
 
「っはい! もちろんです!」
 
 
 ……素晴らしい、リンちゃんはやっぱり出来る子だ。
 
 
 
 
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