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4 レイラン、お客様だ
しおりを挟む「リンちゅわぁ~ん! 他の姐さん達が嫌がる男ってどんな男なのぉ~?! 人口のどれくらいをしめてるの?! ちゃんと毎日私にお客は来るのぉぉ?!」
私は部屋に戻り、胡蝶姐さんから貰ったお菓子を賄賂に、私の担当禿のリンちゃんに教えてもらうことにした。
まぁさ、見た目があれでも男なんて、不潔じゃなければちんこさえ生えててくれれば、最悪いいけどさ、でもやっぱりおじいさんとかデブとか口臭きついヤツとかばっかりってのは嫌だよね。
「レイラン様、落ち着いてください。大丈夫です、毎日とはいきませんが、お客様はきますよ。」
毎日来ない?! うそでしょ……毎日セックスできないの? ……全然大丈夫じゃない……。
「それで、たまにしか来ないその嫌われ者達はどんな男なの?」
人口割合が少ないのかなぁ……。
リンちゃんは私の質問に、幼いながらにも、少し言いにくそうにしながらも一生懸命言葉を選んで話してくれた。
「……その……館長様のような感じの……その……。」
「え!? 館長って、シアさん!? シアさんがどうして嫌われてるの?!」
驚くことに、リンちゃんの話によれば、この世界では、シアさんのような私からしたらイケメンの男性は、よくわからん“なんとか鬼”に似ているとされ、忌み嫌われ、もはやゲテモノ扱いなのだそうだ。
特に、その“なんとか鬼”は女性や子供を好んで食べてしまうとかなんとかで、特に女性から恐れられているとか。
それとは逆に、豊穣の神とされる、これまた“なんとか神”の影響で、女性同様に太った男が見目がいいとされて、人気があるらしい。
……刷り込みって恐ろしいね。
「館長様も、本当は目が悪くないのに眼鏡をしているそうです。先代からここを任されたのも、妓女の方々とどうこうなる心配がないからだ、と聞きました。」
ふーん、顔を隠すためのダテ眼鏡って事ね。難儀な事よ。
でも待って待って待って、それじゃぁつまり、私が相手をするのは、シアさんのようなイケメンばっかり、ってこと?!
超ラッキー! 最高でしょ! あ、でもイケメンって大抵セックスへたくそだからな……独りよがりってか……なんていうか……。まぁ、主導権先に握っちゃえばこっちのものでしょ。
「リンちゃん、私も痩せてて美しくないからさ、ゲテモノ扱いされてる人達の専門で行こうと思う! お金払いもいいなら、たっぷりサービスして、延長延長で稼がせてあげるって、シアさんに伝えといてくれる?」
「レイラン様! そんなっ!」
リンちゃんは、涙を浮かべ私を止めようとしている。
「いいの、リンちゃん……心配しないで、私がその人達を一人残らず全員引き受ければ、他の姐さん達には安心して働いてもらえるでしょう?」
「レイラン様……なんという事でしょう……。」
ごめんよリンちゃん……数少ない私のお客様を、誰かに取られるわけにはいかないのだよ。
こうして、私はこの妓館始まって以来の、“ゲテモノ専用遊女”となったのだった。
「……レイラン、来たばかりで悪いが、お客様だ。」
私の異世界での遊女デビューのチャンスは、翌日すぐに訪れた。
「あの方は武に秀でた名家の御方だ、粗相のないようにな。少し、体力がいるかもしれないが、大丈夫か?」
「オッケー、昨日してないし、たっぷり寝たから朝までコースでも大歓迎!」
「……そうか、ならいいが……無理はするなよ。」
優しいねぇ~……そんな気の毒そうな顔しなくても、いいのに。
「失礼いたします。」
この店では、ひとまずお座敷でお酒や食事を済ませてから、続き間のヤリ部屋でベッドイン、というシステムらしい。
じれったいが、仕方あるまい。
ムードを大切にする世界なのだろう。
キャバ嬢にでもなったつもりで、接待すればいいんだよね? っと……余裕しゃくしゃくで頭を下げてお客様の待つ部屋に入る。
「顔をあげろ。」
あ~ん、男らしい、いい声。
「……。」
なななな!
……異世界のゲテモノ、舐めてました。
想像を絶するイケメン、現る。
「なんだ、この店もとうとう俺にお前のような貧相な女を出すようになったか……。」
「っな! ……っ。」
前言撤回。絶対ヒーヒー言わす。
でもしょうがない、これがこの世界での私の評価だ。
でも、がぜん燃えてきた。
つまり私は、自分の技量だけで、相手を満足させられるかどうかで、この先この世界でやっていけるかが決まってくるという事だ。
「旦那様、そんなことをおっしゃらず、たまには違うタイプもお試しになってみてはいかがですか?」
身体が軽いから、どんなプレイもどんな体位も出来ますよ! ……仕方ない、イケメンだから、さっきの言葉は許す!
「まぁいい、お前も俺の相手は嫌だろうが、我慢してくれ。」
酒をあおりながら、吐き捨てるようにそんなことを言うので、一体どの顔で? どの口で? と思ったが、これがこの世界だった。早く慣れなければ……。
「旦那様はどんなお酒がお好みですか?」
「……。」
酒を注ぎながら適当に話を振ったのに、返ってこない。静かに飲みたいタイプなのだろうか?
しかし、チラっとイケメンを拝むと、その顔は少し驚いたように私を見ていた。
「……話しなど無理にせずともいいぞ。酒だけ注いでいればいい。」
「無理などしておりませんわ。そうだ、私も少し頂いてもよろしいでしょうか?」
私は、ムズムズするようなこの話し方に我慢できず、お酒のチカラを借りることにした。
「……。」
よし。
なんと、イケメンは客であるにも関わらず、私にお酒を注いでくれた。なんだ、いい人じゃん。一緒に呑みたいんじゃんかっ!
注がれた酒を、私は喉をあけ一気に流し込む。
……本当はビールがいいけど、この際、アルコールならなんでもいいや。
「なかなかいい飲みっぷりだな。ほれ、もう一杯どうだ。」
「ありがとうございます。」
よし、この調子で、高いお酒を入れさせて……って、私キャバ嬢も行けたかもしれないな。なんてことを考えながら、私はどんどん酒を口にしていく。
この人を酔わせてつぶしてしまうと私の楽しみが遂行できなくなるので、それは避けないと。幸い、私はザルだ。トイレは近くなるけど、いくら飲んでもセックスに支障はない。
……はずだったのだが、異世界の酒だからかな? 私の身体の分解スピードが遅い~!
「だ、旦那様、私、思いのほか酔いが……少しペースを落としますね。」
「なんだ、勢いが良かったのは初めだけか。まぁいい、俺の相手など、酔っていなければできぬだろうからな。」
またそんな事言ってぇ~、こんなイケメンのくせして嫌味かな? 嫌味なのか? ん? なんだね、このツルツルのお肌はっ。このキラッキラした綺麗なお目々はっ! けしからん。
それに、どうせ脱いだらいい身体してるんでしょ~、武に秀でたおうちとか言ってたしぃ~、さぞかしあちらも立派なのでしょうねぇ~。
と、久しぶりに感じる酔いの感覚に、楽しくなった私はそんな事を考えながら、イケメンの腰元に熱い視線を送る。
「……っ! お、お前……。」
「……っえ?」
嘘!?
「……なんか聞こえました?」
「……。」
どうやら、全部口に出てしまっていたようだ。
「すみません……こんなに酔ったの久しぶりでっ……えへへっ」
いや、もうこの勢いで隣のヤリ部屋に連れ込んじまうか?
……って、私が連れ込むんかい! あははは! 楽しくなってきた。
「……悪い、飲ませすぎたようだな……とにかく、水でも飲め。」
イケメンが私から酒を取り上げ、代わりに水を手渡してきた。
これはチャーンス!
「自分では飲めそうにありません……飲ませてくださいませんか?」
「……。」
すると、なぜかストローが出てきた。
準備良いなコノヤロー。
でも、この人ここにヤリに来たんでしょ? なら、さっさとやりましょうよ!
と、叫びだしたかった。
「……今日は……ひと仕事終えてな、昂っているんだ。」
「それでこちらに?」
「ああ。」
なぜか、突然、会話をしてくれるようになった。
「どんなお仕事かお聞きしても?」
「それは言えない。怖がるだろうからな。」
言えないんか~い。仕事聞いて怖がるなんて……何かな? 警察? 何も悪い事してないけどさ。
でも、何でもいいよ。
「……昂っていらっしゃるなら、私が鎮めて差し上げますわ……。」
「……お前、名は?」
「レイラン、と申します。」
え、今から自己紹介始まるの?振り出しに戻るの?
「……レイラン、今からお前を抱く。いいな?」
違った! ただの紳士的な前置きだった! もちろんです! 待ってました! いちいち、確認不要です!
「もちろんですわ、こんな貧相な身体で申し訳ございませんが、ご満足いただけるように誠心誠意努めます。」
「…ふ、悪いが、頼むぞ。」
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