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3 美の象徴?

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「すみませーん!」
 
「……?」
 
 とにもかくにも、バスローブ一枚という姿で異世界に来てしまった私は、さすがにこれではまずいと思った。
 そこで、自分にできることなど一つしかないと考え、道行く人……それも、無駄に何往復もして私の事をチラチラと見ていた、肥ったスケベそうな男に道を尋ねることに。
 
 言葉は問題なく通じるようなので、一安心。
 
 
 偶然話しかけただけのそのスケベそうな男は、なんともご丁寧に、“近くだから”と言い、目的地まで道案内をしてくれ、そして、別れ際にこう言った。
 
「君、ここの遊女になるの? ここは敷居が高いけど、俺、絶対になんとかして通うよ! じゃ、またね!」
 
 私が彼に案内してもらったのは、“この辺りで一番高級な、女を買える店”だ。
 
 なので、彼の去り際のご挨拶・・・は、ある意味顧客ゲットの嬉しい言葉だったりする。あんまりタイプじゃないけど、まぁいいだろう。
 
 
 
 私はこの店の営業時間外であろう真昼間に、正面から堂々とその店に入り、掃除をしていた幼い少女に声をかけ、一番偉い人責任者を呼んでもらった。


 そして奥から気怠げに現れた、眼鏡の和服のような格好をした男性に、開口一番、ここで働かせて欲しい、と大きな声で元気よく、願い出てみた。
 
 
 
 
 
「ここは妓館ですよ。今は、遊女以外必要ありません。」
 
 場所を移し、事務所のような場所へ通されたかと思えば、“君、ここがどこだかわかって言ってんの? ”とばかりに、無表情でお断りされてしまった。
 
「もちろんわかってます。遊女として、働きたいんです。」
 
「……。」
 
 ……表情の読めない男だ。
 
「……借金でもあるのですか?」
 
 ああ、そうか、普通はこういう所は借金のかたに、とか、食い扶持減らしのために家族に捨てられたり、出稼ぎのために、とかなんだっけ? この世界、どういう時代なんだろう……。服装も和服みたいだけど、あんまり見たことないし。
 
 なんて、気にしている場合ではない。
 
「現状、見てのとおり私は着るものもないですし、お金も住む所もないんです。ですが、借金もありません。」
 
 借金どころが、日本の銀行口座には店長が受け取ってくれずにいる、投資やら何やらで稼いだお金が沢山あるっていうのに……。
 
「ならば、当面の生活費を貸してあげますから、ウチのような店ではなく普通に昼間に空いている店で働きなさい。貸したお金は、ゆっくり返してくれればいいですから。」
 
 え? 雇ってくれないの? 嬢なんて、男の数だけタイプが違うんだから、いくらいてもいいじゃん。私みたいな、異世界人、絶対お買い得だと思うけど!
 
 それにしても、ここのオーナーさん? なのかわかんないけど、この人、こんなにお金好きそうな顔してるくせに(失礼)、どんだけいい人なの? 雇われ店長で、あんまりやる気ないのかな?
 それとも、私みたいな怪しい格好した女は、警戒されてる?
 
「私はここで働きたいんです。別に、お給料もそんなにいりません。毎日お風呂に入れて、清潔なお布団と食事があれば、わりとそれで十分です。」
 
 どうせ、異世界で大金稼いでも、することもないしね。
 
 ただ、異世界人がどんなセックスするのかは、とても興味があるので、早々に客を取らせてもらいたい。
 
「……正直に言いましょう。貴女のように借金もなく、売られたわけでもなくしてここにやってくる女性は、“やっぱり私には無理でした”、“耐えられません”、と言って逃げ出すのが目に見えています。……お引き取りを。」
 
 ははぁ~ん、そういう事ね。
 わかるわかる、どこの世界も一緒なんだぁ~!
 
「オーナー? ……支配人? 店長? ……安心してください! 私、こう見えて他の店で大人気の嬢……遊女・・だったんですよ! ですから、経験者ですし、ここがどういうところかも知ってますので、逃げ出したりはしませんよ!」
 
 私は親指を立て、ウィンクを飛ばす。
 
「……他所で? 大人気などと、嘘はいけませんよ。」
 
「嘘じゃなりませんよ! 今はこんな格好ですけど、それなりに……っあ、技術テスト、してみます? 合格だったら、雇ってくれませんか? 私、ここがいいんです。この街で一番高級な店がいいんです。」
 
 高級な店なら、変な客はそんなにいないだろう。さすがの私とて、病気をうつされたりケチケチしたような男はいやだ。
 
「……。」
 
 たぶん店長さんであろう男性は、じっと私を見定めるかのように見た。よく見たら、ちょっといい男かも。あっちも立派だったらいいんだけど。
 





「そんなに自信があるなら、他の者を呼んできましょう。」
 
「え? どうしてですか? 貴方でいいですよ! ほら、サクっと終わらせちゃいましょ! ねっ!」
 
「っ君! ……いくら雇ってもらいたいからとは言え……ゴホン……そこまでしろとはいいませんので、安心しなさい。」
 
 ちょっと、意味が分からない。他の男を呼んで、そいつ相手にテストするなら、あんたでも同じなんですけど。
 
「貴方が自分で体験して、即決してくれるのが一番じゃないですか! ほら! 下だけ脱いで! ん? この服、どうなってんの?」
 
 着物なら、合わせをめくればいいかと思ったが、この服、スラックスがついてる。めんどくさい構造だな。
 しかし、私の手にかかればそれくらいなんてことはない。
 私は店長さんをソファーに押し倒し、逃げられないようにお尻を彼の顔に向けて上に乗った。
 
 スラックスの中から彼の恥ずかしがりやな息子を取り出す。
 
「なぁ~んだ、あんなこと言ってて、ちゃんと元気じゃない。」
 
「君っ! いいかげんにっ! ……っ!」
 
 口ではそう言ってたって、ここは妓館……技術ある者が勝つのだ。
 
 ……と、思っていたのだが、店長さんったら溜まっていたのか、私が技を披露するまでもなく、すぐに出してしまった。
 
「……え?」
 
「……っ!」
 
「もう一回、イケます?」
 
「っ結構だ!」
 
 そのまま、ドンッと、彼の上から突き飛ばされはしたが、結果的には採用が決まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……いいですか? 貴女のような女性がここで客を取りたいなら、もっと太りなさい。」
 
「え?! 嫌ですよ、この体型を維持するのに、どれだけ努力してると思ってるんですか!」
 
「……?」
 
 
 と、この時に店長さんが疑問を浮かべていた理由は、後に判明する。 
 
 
 なんとも有難いことに、遊女には一人一部屋の居室と、世話をしてくれる禿かむろと呼ばれる子供一人つくそうで、私なんかのお世話をしてくれる禿は、最初にここに来た時に入り口で声をかけた少女の、凛(リン)ちゃんといった。
 
 ひと通りこの妓館について説明を受けた後、この妓館の稼ぎ頭に挨拶をしに行ったのだが……その女性の容姿がなんとも衝撃的だった。
 
「胡蝶さん、紹介します。今日から遊女として働く“玲蘭(レイラン)”です。」
 
 胡蝶さんと呼ばれたこの妓館のナンバーワンは、何とも豊満なボディをしていらっしゃった。
 顔はとても美人なのだが、身体がだらしなさすぎるというかなんというか……。
 
「っまぁ! 綺麗な子じゃない、仔空(シア)。良さそうな子が入ってくれて嬉しいわ。よろしくね、レイラン。」
 
 ……店長さん、シアって言うんだ。
 
「よろしくお願いします、胡蝶姐さん。」
 
「……姐さん? ……あっははは! 姐さんだなんて、面白い子ね。気に入ったわ、是非とも貴女には頑張ってもらいたいから、もっともっと太って人気者になりなさい。ほら、これをあげる。」
 
 どうやらこの世界では、先輩を“姐さん”とは言わないようだ……でも、私は呼ぶぞ。

 胡蝶姐さんがくれたのは、何ともカロリーの高そうなお菓子だった。こんなの食べてるから、そんな身体になるんだ、と、喉元まで出かかったが、耐えた。
 
 それにしても、この世界の男は、太った女性が好きな人が多いのだろうか? シアさんも、さっき私に“太れ”と言って来たし、人気ナンバーワンがあの体型だ。
 
 そしてそれは確信に変わる。
 
 続いて紹介されたナンバーツーとナンバースリーも、見事なわがままボディをしていたのだ。
 もちろん、顔は一級品の美人さんなので、なんだかすごくすごくもったいない気がしてならない。
 身体を売らずとも普通に金持ちと結婚して、働かなくても生活できそうな人達なのに……。

 私は少しの勇気を振り絞って、シアさんに尋ねた。
 
「あのシアさん! あ、すみません勝手に名前呼んじゃって。でもシアさん、もしかして何ですけど、ここって、“太った人専門”ですか?」


 私、入店する店を間違えてしまったかもしれない。と思った。
 
「……まぁ、ウチは見目麗しい女性が多い・・・・・・・・・・店だとは言われておりますね。ですが、高級店をうたう店はどこもこのような感じですよ。」
 
 いや、確かに、顔はみんな麗しい。顔はね! でもさ、身体がさ! まるで乳牛のようでしたけど!
 
「え、どこもあんな体型の女性ばかりって事ですか?!」
 
「ええ、それが美の象徴ですからね。」
 
 ……美、美の象徴……? まぁ、好みは人それぞれだけども……美の象徴とまで言っちゃうの? あのわがままボディが?
 
「それならつまり、私はとんでもなく美しくないってことですか?!」
 
「……ですから、みんなに“太れ”と言われたでしょう? せっかく顔は悪くないのですから。」
 
 なるほど、顔の美的センスは私も間違ってはいなかったみたいだ。
 
 でもでもつまり、この世界じゃ太らないと客を取れないってこと!? なんじゃそりゃ! 嫌じゃ!
 
 ……でも待てよ? この店に案内してくれた男性は、私を気に入っていたようだぞ。
 
「ちなみに、私みたいな女でも少なからず需要はありますよね? む、胸は結構ありますし!」

 所詮、胸も脂肪だ。それで勝負出来ないだろうか。
 
「……どうでしょうか。いるとしたら、自分好みに太らせてから……などと考える変態くらいでは?」
 
 ぐはっ! 男は狼よってか?!
 
「……ですので、悪いですが貴方にはしばらく、他の遊女達が嫌がるような男性の相手をしていただくことになります。見た目があれなだけで、皆様身元はしっかりされておりますし、金払いも良く、紳士的な方達ばかりですので、目をつぶって頑張ってください。それが嫌であれば、貴女も太ればすぐに人気が出ますよ。」
 
 
 
 ……なぬ!?


 
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