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2 キョンシー
しおりを挟む「レイラン、今更駄々をこねるでない。お前も納得して来たのだろう?」
「納得なんてっ! ……したっけ?」
いいや、行き先が後宮だなんて知っていれば絶対にこの男の話には乗らなかった。
そもそも、この男はここに来る前、私にこう言ったのだ。
『お前の得意な事で、困っている者達の手助けをしてもらいたい。』
それってつまり、やっぱりここでも“ゲテモノ扱い”されて、セックスする相手がいなくて困っている人と、してあげろって事でしょう?
童貞くんの筆おろし案件かと思って、張り切って来たのに!
「こんな女だらけの場所で、誰の何を助けろって言うのよ! 後宮にいる男は、大事なものがないのよね? ……私が助けて欲しいわよ。……ったく。」
「まったく、お前はどこにいても品がないな……。ここにおられる妃達に、陛下を喜ばせる手練手管を教えてやって欲しいと言っているんだ。」
「っはぁ~?! こんな場所にいらっしゃるお上品なお嬢様方に、私の人生のすべてをかけてつちかった技を教えろですって?! たった一本のちんこの為に?! 嫌に決まってんじゃない。」
大体、皇帝って何様なわけ? こんなに何人も無駄に女を遊ばせておいて、満足していないとでも言うの?
……あ、皇帝様だった。この国で一番偉い人だったね。っふん。
「ねぇ、お妃様は何人いるの? 一人くらい、名器がいるでしょ? そこに適当に出し入れさせときゃいいじゃないの。」
ってか、そもそも、この男は何なの? 後宮に入れるって事は、こいつも大事なものがないわけ?
……私は思わず男の股間に視線を向ける。
「っ……まったくお前は……誰かが聞いておったらどうなることか……っ! ……妃は全部で九名いらっしゃるが、陛下は、未だどの妃とも同衾されてはおらんのだ。それどころか、正式な皇后も決められてはいらっしゃらない。」
九人?! 野球チームが作れるじゃん。
それなのに、誰ともヤッてないとか……それってまさか……。
「皇帝って……イ〇ポなの? ……まずは、そっちの治療が先なんじゃない? うん……まぁ、その件に関しては、ちょっと同情するわ……ごめん。」
「……お前と言うやつは……。」
イ〇ポじゃしょうがないな。イ〇ポじゃ。
……立たぬなら、立たせてみよう、皇帝ちんこ。
なんちゃって。
何歳なのかわからないけど、精神的なものなら厄介だしね。この世界では、薬でどうにかならないのかな?
「ところで、今更だけど、貴方は何者なの?」
「……お前、私が誰かも知らずについてきたというのか? ……はぁ……恐ろしい奴だ……私の名は、俊熙(ジュンシー)だ。陛下より直々に命を受け、後宮の管理を行っている。」
「オッケー、キョンシーね。」
「ジュンシーだ。」
キョンシーってば、ちょっと口うるさいけど、見た目はなかなかのイケオジなのに、ブツが無いなんて、もったいない……。
そもそも私は、こんな“花街”だとか“後宮”だとか“遊女”だとか言う、時代錯誤どころか、全てが違うのこの世界の人間じゃない。
つい半年前まで、東京・吉原の高級風俗店の人気風俗嬢だったのだから。
私にとって風俗街である吉原は、生まれ育った場所でもあり、庭みたいなもの。本当の親の顔なんて知らないし、どこにいるのか、生きてるのかすらわからないし、興味もない。
赤ん坊だった私を拾って育ててくれた、風俗店の店長だけが、私の親と呼べる唯一の人だ。
店長は吉原の超高級風俗店の雇われ店長で、今じゃ齢40のおっさんだが、私を拾った時は20代だったはず。
よくもまぁ、20代の若者が、赤ん坊なんて拾って育ててくれたと思う。
店長は、背中にド派手な和彫を背負っていて、その筋の人なのは間違いないけど、子供には優しい人だったの。
私は物心がつくと、とにかく店長の役に立ちたくて仕方なくて、手当たり次第に色んな事を頑張った。
掃除に料理に洗濯……しかし、店長はそのどれもを私から取り上げて、“ガキはガキらしく勉強してろ”って言って、よりにもよって、勉強を私に強要したんだよね。
店長は、“学をつけろ”というのが口癖で、テストでいい点をとると、それはそれは大げさなほど褒めてくれたものだ。
私はそんな店長が、親じゃなくて、男として大好きだった。
店長は毎年、私を拾った日を誕生日として、ささやかながらお祝いをしてくれていたから、私は14歳の誕生日から、プレゼントとして、店長に“抱いてくれ”と頼み始めたんだよね。
でも店長は、私を小馬鹿にして子供扱いをし続けて、結局抱いてくれる事はなかった。もちろん、誕生日プレゼントは毎年きちんと別に用意されていたんだよ。憎たらしいでしょ。イケメンかよ。
結局、私は店長に高校まで行かせてもらい、18歳の誕生日に店長を脅したの。
“店長が抱いてくれないなら、今夜から店に出て、客をとる”ってね!
それで店長はようやく観念してくれて、それはそれは丁寧に丁寧に、私を女にしてくれたの!
店長は本当にセックスが上手で、私は処女ながらにセックスの気持ち良さに目覚めてしまったよね。
いやはや目覚めすぎちゃったの。
店長に毎晩毎晩抱いてくれ、と強請り続けたけど、体力が保たん、と最後には見放されちゃって、仕方なく店のボーイとセフレになって、発散してたさ。
もちろん、店長も知ってたと思う。ボーイの子も、店長と同じ感じのその筋の人だったから。
あ、私、馬鹿だけど、学校の健全な男の子達には一切手は出してないからね。うん。
それでなんやかんやで、20歳になった私は、満を持して店長の店で嬢としてデビューしたの。念願だったから、凄く嬉しかった。
店長は最後まで駄目だって言ってたけど、“なら違う店に行く”って言ったら、観念したよね。
吉原育ちで昔から店長の拾い子として、お店のお姉様達から色んな意味で可愛がられて育った私は、メキメキと頭角を現して、すぐに客がついたし、人気も出た。
駆け出しの頃は、とにかくセックスに狂ってて、一日に何人相手をしたかすら覚えてないや!
私にとって、風俗嬢とは天職だった。
まぁ、店長がヤバい性癖の客や、危ない薬なんかを使うような客には、私をつかせなかった事も大きいと思うけどね。それに一応、会員制の超高級風俗店だし。
おかげ様で、怖い思いはあんまりしたことない。
そんな感じで毎日楽しく働きながら、店長に沢山お金を稼いでもらって、やっと恩返しができる一石二鳥の生活を送りはじめたというのに……。
半年前のあの日、よく覚えてないけど、変なコスプレした客に変な薬を飲まされて、そのままグッスリ眠っちゃって……目が覚めたら、このわけのわからん設定の世界にいたんだよね。
しかもバスローブ一枚で、なんか舗装もされてない道端にいたんだよ? 誰だか知らないけど、色々雑だよね。
どっかの田舎に捨てられたのかと思ったけど、なぁんか街の人達の服装も、顔の造りも、髪の色とかも、まぁ~カラフルだしさ、色々と様子がおかしいと思ったよね。
こりゃ相当ヤバい薬盛られたな! って、その場で諦めて開きなおったの。
でもさ、待てど暮せど薬が抜けなくてさぁ~。
あ、こりゃあれか、異世界ってやつか?
って、結論に至ったわけ!
私、冴えてるでしょ!
色んな客がいるからさぁ、色んな話しが出来るように知識だけは豊富なんだよね。
私、基本的には馬鹿だけど、世界情勢とか、政治とか投資とかの話しだって出来ちゃうんだぞ?
……まぁ、全部店長に言われて頑張ってお勉強してたんだけどね。
店長、心配してるかな?
嬢がバックレるなんて珍しくないから、気にもしてないかな……。
心配してくれてるといいな。
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