168 / 168
円盤太陽杯優勝者の供述
10(結)
しおりを挟む
周囲の護衛騎士なり侍従なりは、その様子を注視しているが、彼等は将棋には詳しくない。
だが皇帝は円盤にガングル・バレスの細かく設定した配置の意味を理解し、その上で対戦している様だった。
いや、対戦というよりは、対話だ、と護衛騎士の一人は内心思った。
実際時々二人は声に出す。
だがそれ自体が、戦術の一環であるかの様に、互いにその言葉をまた咀嚼して駒の動きに反映させるかの様だった。
……十五時間くらい経った時に、一旦休憩となった。
睡眠と食事をする様に、と皇帝はガングル・バレスに命じた。
「了解しました」
広い卓一杯に置かれた巨大な円盤には、おびただしい数の駒が置かれている。
「私もここで少々食べて寝る。交代する者があるなら、今のうちにしておくことだ」
周囲は二人の集中度合いについていけなかった。
ずっと立っている中には、雰囲気に呑まれて脳貧血を起こす者もあるくらいだった。
起きて顔を洗い、頭の中をすっきりさせた上で再び盤に向かう。
政務に関しても「よほどの緊急事態でなければ後にする」と皇帝は言い切り、結局この状態が、四日続いた。
立ち会った護衛騎士は交代に次ぐ交代。
何よりこの空気に耐えられな、と解放されるとぐったりする者が多かった。
そしてガングル・バンスが最後に王の駒に肉迫した際、皇帝は「負けました」と頭を下げた。
周囲はどよめいた。
皇帝がスパイ容疑者に頭を下げるとは!
ありえない!
「陛下!」
さすがにその場に居た最も高い地位の護衛騎士や侍従は声を上げた。
「黙るがいい。私は今までずっと、この帝国が海外から攻撃される場合について、この者と対戦していたのだ。そしてこの者に私は負けた。すなわちそれは、この男の持つ才能は消してはいけないということだ。ガングル・バンス!」
「はい」
思わず皇帝の声に、彼はその場に直立する。
「其方を私の直属の軍師として迎えよう」
「へ、陛下!」
「ただし! 一応他の目もある。其方から自由は奪う。宮中は自由にして構わぬが、外へ出ることは許さぬ。そして名を変えよ」
「自分はそもそも出場した段で殺されると思っておりましたので、そこはもう、陛下のお望みのままに。名もできれば付けていただければ」
「うむ、それでは――」
*
この後しばらくして、南西辺境伯令嬢がイスパーシャ王国の第二王子の元へと「婚約者」として派遣されることとなる。
彼女は皇帝の命により、この一件を確実なものとして調べ上げる様にと指示された。
やがてその結果として、第二王子は死亡し、第三王子がイスパーシャ王国を継ぐことなるのだが、それはまた別の話である。
だが皇帝は円盤にガングル・バレスの細かく設定した配置の意味を理解し、その上で対戦している様だった。
いや、対戦というよりは、対話だ、と護衛騎士の一人は内心思った。
実際時々二人は声に出す。
だがそれ自体が、戦術の一環であるかの様に、互いにその言葉をまた咀嚼して駒の動きに反映させるかの様だった。
……十五時間くらい経った時に、一旦休憩となった。
睡眠と食事をする様に、と皇帝はガングル・バレスに命じた。
「了解しました」
広い卓一杯に置かれた巨大な円盤には、おびただしい数の駒が置かれている。
「私もここで少々食べて寝る。交代する者があるなら、今のうちにしておくことだ」
周囲は二人の集中度合いについていけなかった。
ずっと立っている中には、雰囲気に呑まれて脳貧血を起こす者もあるくらいだった。
起きて顔を洗い、頭の中をすっきりさせた上で再び盤に向かう。
政務に関しても「よほどの緊急事態でなければ後にする」と皇帝は言い切り、結局この状態が、四日続いた。
立ち会った護衛騎士は交代に次ぐ交代。
何よりこの空気に耐えられな、と解放されるとぐったりする者が多かった。
そしてガングル・バンスが最後に王の駒に肉迫した際、皇帝は「負けました」と頭を下げた。
周囲はどよめいた。
皇帝がスパイ容疑者に頭を下げるとは!
ありえない!
「陛下!」
さすがにその場に居た最も高い地位の護衛騎士や侍従は声を上げた。
「黙るがいい。私は今までずっと、この帝国が海外から攻撃される場合について、この者と対戦していたのだ。そしてこの者に私は負けた。すなわちそれは、この男の持つ才能は消してはいけないということだ。ガングル・バンス!」
「はい」
思わず皇帝の声に、彼はその場に直立する。
「其方を私の直属の軍師として迎えよう」
「へ、陛下!」
「ただし! 一応他の目もある。其方から自由は奪う。宮中は自由にして構わぬが、外へ出ることは許さぬ。そして名を変えよ」
「自分はそもそも出場した段で殺されると思っておりましたので、そこはもう、陛下のお望みのままに。名もできれば付けていただければ」
「うむ、それでは――」
*
この後しばらくして、南西辺境伯令嬢がイスパーシャ王国の第二王子の元へと「婚約者」として派遣されることとなる。
彼女は皇帝の命により、この一件を確実なものとして調べ上げる様にと指示された。
やがてその結果として、第二王子は死亡し、第三王子がイスパーシャ王国を継ぐことなるのだが、それはまた別の話である。
2
お気に入りに追加
2,412
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(47件)
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
まだ読んでいる途中なのですが、この構成や流れ、語り手など、も〜ものすごく楽しいです!引き込まれてます!裏話的に詳細を知っていけるのも嬉しいです。時間をとって引き続きじっくり楽しみます。ありがとうございます!
感想ありがとうございます!
構成はちょっっと人を選ぶかな、という感じはするのですが、お気に召していただいて嬉しいです!
肝心な事を忘れてた…(笑)♥
( ゚д゚ )彡そう!別視点から見たら分かる部分も
あり…やっぱり納得です👍
何回も蜜蜂杯では1でも3でも思わず涙腺が
弱くなりました😭しつこいくらい(笑)
個人的に❤あの場面、印象深い❤
伝えたくて再度、感想投稿してしまいました♥
おお、熱い再度ありがとうございまする!
m(__)mm(__)mm(__)m
感謝感謝でございます。
本編+番外編も完結お疲れ様でした♥
蜜蜂杯の場面は…なんか凄く切なくグッと
来るものがある…(。ŏ﹏ŏ)
表現力が無いから上手く言えないけど…
大筋が分かっての三人の最期だからこそ
余計に(~ ̄³ ̄)~
(・(ェ)・)熊と小動物もイイけど…(笑)
はい全編完結でございます。ありがとうございますm(__)m
同じ場面でも、別の視点から見るとどうだろう、ってのありました。
細かい点は番外1で書いたので、3では1の前後を中心に致しました。セルーメの意識が飛んだあとのことはあの話では判らなかったので。
熊と小動物ー♪ そしてその場合小動物系の方がリードするのに萌え。