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辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい
31 セレジュ妃と思われる相手との対戦
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「少し支度があるのでお待ちください」
そう言われ、お茶を用意される。
やはり他で呑むものより美味い。
「本当にここでもらうお茶は美味い。何か特別な茶葉でも使っているのか?」
召使いにバルバラは訊ねた。
「特別…… なのでしょうか。ともかく私達はここに持ち込まれている茶葉でできるだけ美味しく淹れているだけなのですが」
「凄く美味しいんで、できればうちでも仕入れたい。後でうちの厨房の者を向かわせるので相手先を教えて欲しい」
「判りました。側妃様にお伝え致します」
「厨房のことも側妃様がわざわざ?」
「お茶に関してだけなのですが……」
俺達は顔を見合わせた。
マスリーにはあちこちで使われている茶葉のことも調べてもらわなくてはならない。
「お待たせしました」
そう言って、やはり扇で半分顔を隠したセレジュ妃が現れた。
そして用意された盤の上、ゆっくりとバルバラとの対戦が始まった。
俺も目を凝らす。
だがおかしい。
これは本当に素人の手だ。「駒を動かす程度」の腕の者の動きだ。
ところでこの時、バルバラの後に俺が居る様に、セレジュ妃の後にも召し使いが居た。
ボンネットをかぶり、済ました顔で、時々ちらちらと盤面をうかがっている。
一方、指し手のセレジュ妃は盤面に対し、あの時の食い入る様な視線は無かった。
と言うより、俺は少し奇妙な感じを覚えていた。視線が違う。雰囲気が違う。
そしてこう考えていいものか、と思う様な問いが自分の中に浮かぶ。
――これは本当にセレジュ妃か?
真後ろに立った召使いは前掛けの下に手を入れ、静かに控えている。
だがこちらの盤面への視線の方が強い。
だが俺は女の顔に関しては、化粧をしていると区別が付きづらい。
本当にどうか、というのは。
「負けました」
相手側から声がする。
「ありがとう。クイデ様と確かに筋が似てますな」
「そう仰られれば何より……」
やはり語尾を濁す。
そして俺達はさっさとその場を立ち去った。
離れまで来た時、俺はバルバラに訊ねた。
「あれ、別人でしたよね」
「そうだな」
「え、そうでした?」
ゼムリャは俺達の当然の様な会話に驚く。
「ゼムリャにはセレジュ様に見えたか? 私の対戦相手は」
「はい。と言うか、セレジュ様は割といつも扇で顔を半分隠しているし、整ってはいるけど全体的には地味な顔立ちで、化粧も眉と唇はくっきりとしてますが、あとの印象が薄くて。あと声も控えめなので、ああこんなものかな、と」
「あれな、後の召使い。あれがセレジュ妃だ」
「え」
さすがにそれに関しては俺も少し驚いた。
顔は判らない。
それこそゼムリャ同様、覚えているのは大きな部分であり、薄化粧にしか見えない召使いとは同一人物とは思いがたい。
だが言われてみれば、あの盤面を見据える視線の強さは、確かにあの時のものだった。
「ほんの少しだけど、私の前に居た相手の背中が軽く震えた。後から動かす駒の配置を指示していたのだと思う。私の前に居た指し手は本当の素人だ。そして、適当に負ける様に誘導していた」
「お嬢はそれに対してどう打ってました?」
するとバルバラは大きく息を吐いてこう答えた。
「私は結構真面目に打ってたんだぞ」
「え」
「本当に?」
「たぶんお前より強い。ずっと」
そう断言されると、なかなか怖いものがあった。
そう言われ、お茶を用意される。
やはり他で呑むものより美味い。
「本当にここでもらうお茶は美味い。何か特別な茶葉でも使っているのか?」
召使いにバルバラは訊ねた。
「特別…… なのでしょうか。ともかく私達はここに持ち込まれている茶葉でできるだけ美味しく淹れているだけなのですが」
「凄く美味しいんで、できればうちでも仕入れたい。後でうちの厨房の者を向かわせるので相手先を教えて欲しい」
「判りました。側妃様にお伝え致します」
「厨房のことも側妃様がわざわざ?」
「お茶に関してだけなのですが……」
俺達は顔を見合わせた。
マスリーにはあちこちで使われている茶葉のことも調べてもらわなくてはならない。
「お待たせしました」
そう言って、やはり扇で半分顔を隠したセレジュ妃が現れた。
そして用意された盤の上、ゆっくりとバルバラとの対戦が始まった。
俺も目を凝らす。
だがおかしい。
これは本当に素人の手だ。「駒を動かす程度」の腕の者の動きだ。
ところでこの時、バルバラの後に俺が居る様に、セレジュ妃の後にも召し使いが居た。
ボンネットをかぶり、済ました顔で、時々ちらちらと盤面をうかがっている。
一方、指し手のセレジュ妃は盤面に対し、あの時の食い入る様な視線は無かった。
と言うより、俺は少し奇妙な感じを覚えていた。視線が違う。雰囲気が違う。
そしてこう考えていいものか、と思う様な問いが自分の中に浮かぶ。
――これは本当にセレジュ妃か?
真後ろに立った召使いは前掛けの下に手を入れ、静かに控えている。
だがこちらの盤面への視線の方が強い。
だが俺は女の顔に関しては、化粧をしていると区別が付きづらい。
本当にどうか、というのは。
「負けました」
相手側から声がする。
「ありがとう。クイデ様と確かに筋が似てますな」
「そう仰られれば何より……」
やはり語尾を濁す。
そして俺達はさっさとその場を立ち去った。
離れまで来た時、俺はバルバラに訊ねた。
「あれ、別人でしたよね」
「そうだな」
「え、そうでした?」
ゼムリャは俺達の当然の様な会話に驚く。
「ゼムリャにはセレジュ様に見えたか? 私の対戦相手は」
「はい。と言うか、セレジュ様は割といつも扇で顔を半分隠しているし、整ってはいるけど全体的には地味な顔立ちで、化粧も眉と唇はくっきりとしてますが、あとの印象が薄くて。あと声も控えめなので、ああこんなものかな、と」
「あれな、後の召使い。あれがセレジュ妃だ」
「え」
さすがにそれに関しては俺も少し驚いた。
顔は判らない。
それこそゼムリャ同様、覚えているのは大きな部分であり、薄化粧にしか見えない召使いとは同一人物とは思いがたい。
だが言われてみれば、あの盤面を見据える視線の強さは、確かにあの時のものだった。
「ほんの少しだけど、私の前に居た相手の背中が軽く震えた。後から動かす駒の配置を指示していたのだと思う。私の前に居た指し手は本当の素人だ。そして、適当に負ける様に誘導していた」
「お嬢はそれに対してどう打ってました?」
するとバルバラは大きく息を吐いてこう答えた。
「私は結構真面目に打ってたんだぞ」
「え」
「本当に?」
「たぶんお前より強い。ずっと」
そう断言されると、なかなか怖いものがあった。
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