上 下
8 / 168

8 裁かなくてはならない内容② 

しおりを挟む
 乱、と聞いて貴族達はざわめいた。
 自分達の領地ではどうなのか、その様なことを考える者は居ないのか、唐突に彼等は不安になったのだ。

「今回私がこの国に赴いて、はっきりさせ、そして裁かなくてはならないのは、チェリ王国の王室を緩ませ、その上でトアレグ産の麻薬の大量輸出入ルートを作り、二国の国境線をゆるゆるにしようとしている者達、そしてそれが成功した暁には、トアレグの南、メテラとも組み、帝都の支配を離れようとしている一派です」

 そしてセインの方を向き、彼女は付け加える。

「つまりセイン殿、貴方はその一派にまんまと長年利用されていた、ということです」
「……そんな」
「貴方自身を罪には問えません。ただ貴方は疑問を持たない無知だっただけです。国王殿下、セイン殿に関する処分はお任せ致します。弱すぎず強すぎず、相応の処分を」

 国王は了解した、と短く答えた。
 その処分の方法自体で、自身もまた問われるのだろうと彼はよく知っていたのだ。 

「……殺されるのか?」

 セインは弱々しく訊ねる。

「それは私の領分ではありません。それとも、セイン殿は、自分が殺されるに値すると思っているのですか?」

 彼は黙り込んだ。

「その意味で、今回まず次代の国王候補であったセイン殿に誤った知識を植え付けたバーデン・デターム子爵当人に関しては帝国全土指名手配をかけ、見つかり次第帝国法における国家反乱罪を適用することになるでしょう」
「では、彼の家族、いや、我々一族は」

 先ほど詰問されたマクラエン侯爵は手を挙げ、質問した。

「一族の方々に関しては、その思想にかぶれた者が居ないか、後に一人一人個別の調査が入ります。問題の無い者にまで罪をなすりつけることは皇帝陛下のお嫌いになることです」

 マクラエン侯爵は、杖の持ち手をぐっと掴んだ。
 おそらく既に一族のそれぞれの領地に、手の者が配置されているのだろう。
 下手な動きをする者が無ければいい、と老侯爵は思うしかなかった。

「デターム子爵は『飛び地』を利用してもいました。あれを領地としている辺りにも問題がありました。そこから茶と共に麻薬が持ち込まれている形跡もあります。よって、デターム子爵家自体は取り潰し、飛び地は国王殿下、トアレグ王国と交渉し、買い取りさせる様に交渉を願います」
「了解した。それに伴う、トアレグとの国境線の強化もだな」
「よしなに」

 「飛び地」に関しては、実際代々の国王が放っておいたものだった。
 トアレグとの関係が友好的であるだけに、逆に「飛び地」があることで商業的には利益があるものと思っていた。
 だがそこに麻薬が混じるとなれば話は別だ。

「そこまでが、直接第一王子セイン殿、ひいては未来のチェリ王室を緩ませようとした元凶についてです。次に、これから緩ませようとした者に関しての審議を行います」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

処理中です...