〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
27 / 34

27

しおりを挟む
 お母様は決して誰も憎んでいませんでした。
 かと言って、父のことを愛している訳でもありませんでした。
 要するに、この復讐は私の自己満足です。
 そして、全てが済んだ時に、相手が立ち上がれない様に気持ちを折っておくという保険をかけたものです。
「そう自分を責めなさんな」
 アダムズは私の頭を帽子の上から撫でます。

「あいつらは、いつかそうなる運命だったよ。お天道さんが見てなすったから、お嬢様の計画は成功してるんだ」
「そうね。ところでアダムズ、この庭は、公園にしたら皆が楽しめるかしら?」



 さてそれから私は、一週間のあいだアリシアを観察し続けました。

 ちなみに、彼女が居なくなった、ということが屋敷中に広がったのは、あれから二日後のことでした。
 それまでどの使用人も、アリシアが居ないことに何の気も留めていなかったのです。
 アリシアは社交界デビューしてからというもの、知り合った殿方達と何かと遊び歩き、時には朝帰りのこともあった様です。
 ロゼマリアもまた、その様な生活で父を落とした女でしたから、幽霊騒ぎ以前までも、娘のその様な行動には大して口を挟みませんでした。

 そう、この復讐には順番があるのです。
 アリシアが最後なのは、両親の口を塞いでからの方が良いからです。
 毎日毎日医者が来て、まず父の方の診察をしています。
 基本的にはただの「かゆみを伴う皮膚炎」は、ひにち薬ですから、そろそろ良くなってくる頃です。
 ですが、父が半正気になった頃には、ロゼマリアが寝付いたままになっています。
 ふと気付いて「奥方はどうした?」と聞いても、皆口籠もるばかりの中、とうとう父はロゼマリアの部屋へと入っていきました。
 すると、扉が開く音でざっ、とベッドヘッドへと身体を寄せる妻の姿がある訳です。

「誰、誰なの、貴方?」
「そうだ、お前の夫だよ。心配かけて済まなかった」
「いいえ違う違う、私の夫はそんな顔じゃない」

 そう言って、毛布を引き被り、蓑虫の様になってしまいます。
 その手首には包帯が巻かれています。

「先生!」

 済まなそうな顔で、医者は首を横に振ります。

「奥様は幽霊を見たと思い込んで、そのままバルコニーから落ちそうになったんです。ですが、何かで手首が括られていて助かったのですが」

 これです、とリボンを差し出した。

「これは……」
「古いものですな。よく切れなかったと思いますよ。全体重を片手首に集中させたため、手首と肩が脱臼、その上手首自体は骨折、あともう少し遅かったら手首から先が壊死しかねなかったですぞ」
「わ…… 私が知らぬ間にそんなことに…… だ、だが何で妻は、私のことが判らないんだ?」
「さて。人の心というものは闇深いもので」

 医者はそう言うしかできなかった様です。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

とある侯爵令息の婚約と結婚

ふじよし
恋愛
 ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。  今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

クレアは婚約者が恋に落ちる瞬間を見た

ましろ
恋愛
──あ。 本当に恋とは一瞬で落ちるものなのですね。 その日、私は見てしまいました。 婚約者が私以外の女性に恋をする瞬間を見てしまったのです。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...