26 / 34
26
しおりを挟む
こんこん。
あの馬車を見た日の翌々日、私はアリシアの部屋の扉を叩きました。
「何よ!」
ずいぶん苛々している様子です。
私は例の少年の格好をしていました。
「実はうちのアダムズじいちゃんが、奥様を落とそうとした奴を見たのを思い出したって……」
「何ですって!?」
アリシアは髪が逆立ちそうな勢いで私/アダムズの孫に尋ねます。
「誰だって言うのよ誰だって」
そう言いながら、アリシアは私の胸ぐらに掴みかかり、揺さぶります。
何って力でしょう。
帽子がぽろりと落ちました。
途端、私の長い髪がふわりと広がりました。
「ちょ…… あんた、マニュレット!」
私はすぐさま彼女に背を向けます。
逆上した彼女は、誰に頼むでもなく、私を追いかけてきます。
彼女の部屋は、現在使用人が何かと世話をしなくてはならない両親とは逆側にあります。
走り出したところで、人気は少ないのです。
そして私はこの館を熟知しています。
私の目的は、ただ一つです。
アリシアはどたどた、ととても淑女とは思えない動きで私を追いかけてきます。
階段を駆け下り、使用人の前を駆け抜け、そして厨房のある半地下に近い辺りの壁に私を追い詰めた――
はずでした。
彼女は私に飛びかかります。
そこで私は隠し扉を開け、彼女を押し込みました。
背中で扉を押し、そのまま鍵を掛けます。
そこは、あの缶入りショートブレッドや、瓶入りの水や炭酸水、そしてワインが幾らか保存してある小部屋でした。
この部屋の梯子は一旦天井裏に引き上げておきました。
窓は明かり取りに一つ。
彼女には決して届きません。
もし届いたとしても、そこから出られる程大きくもありません。
ええ、要するに私はこの部屋に彼女を閉じ込めたのです。
自分で考えて、胸糞悪いと思いました。
大体の計画は八年の間に、色んな部屋を使いながら考えてきたものでした。
特に幽霊は、大きくならないとできないなあ、と思いながら。
私は再び帽子をかぶると、悠々と外に出ました。
そして悶々とした気持ちで庭園の手伝いをします。
「何か辛そうですな」
「気持ちいいものではないの。でも一昨日、あの子が銀貨を投げた時、やっぱりこの方法にしようと思ったわ」
そう。
幾つも幾つもこの家の作りを使って復讐する方法を考えてきました。
それも、証拠を残さずにできるだけ精神を痛めつける方向のものです。
身体を傷つける方向だったら、簡単です。
彼等を事故に見せかけて殺すことですら難しくはありません。
でもそれでは意味がありません。
いつかこの家を出ていってもらう日に、何で自分がこんな目にあったのか、と腹立たしい思いを抱えていって欲しいのです。
その上で、また私に復讐を仕返す、というには心が折れる程度に。
ただそれを考えると、自分が時々嫌になるのです。
あの馬車を見た日の翌々日、私はアリシアの部屋の扉を叩きました。
「何よ!」
ずいぶん苛々している様子です。
私は例の少年の格好をしていました。
「実はうちのアダムズじいちゃんが、奥様を落とそうとした奴を見たのを思い出したって……」
「何ですって!?」
アリシアは髪が逆立ちそうな勢いで私/アダムズの孫に尋ねます。
「誰だって言うのよ誰だって」
そう言いながら、アリシアは私の胸ぐらに掴みかかり、揺さぶります。
何って力でしょう。
帽子がぽろりと落ちました。
途端、私の長い髪がふわりと広がりました。
「ちょ…… あんた、マニュレット!」
私はすぐさま彼女に背を向けます。
逆上した彼女は、誰に頼むでもなく、私を追いかけてきます。
彼女の部屋は、現在使用人が何かと世話をしなくてはならない両親とは逆側にあります。
走り出したところで、人気は少ないのです。
そして私はこの館を熟知しています。
私の目的は、ただ一つです。
アリシアはどたどた、ととても淑女とは思えない動きで私を追いかけてきます。
階段を駆け下り、使用人の前を駆け抜け、そして厨房のある半地下に近い辺りの壁に私を追い詰めた――
はずでした。
彼女は私に飛びかかります。
そこで私は隠し扉を開け、彼女を押し込みました。
背中で扉を押し、そのまま鍵を掛けます。
そこは、あの缶入りショートブレッドや、瓶入りの水や炭酸水、そしてワインが幾らか保存してある小部屋でした。
この部屋の梯子は一旦天井裏に引き上げておきました。
窓は明かり取りに一つ。
彼女には決して届きません。
もし届いたとしても、そこから出られる程大きくもありません。
ええ、要するに私はこの部屋に彼女を閉じ込めたのです。
自分で考えて、胸糞悪いと思いました。
大体の計画は八年の間に、色んな部屋を使いながら考えてきたものでした。
特に幽霊は、大きくならないとできないなあ、と思いながら。
私は再び帽子をかぶると、悠々と外に出ました。
そして悶々とした気持ちで庭園の手伝いをします。
「何か辛そうですな」
「気持ちいいものではないの。でも一昨日、あの子が銀貨を投げた時、やっぱりこの方法にしようと思ったわ」
そう。
幾つも幾つもこの家の作りを使って復讐する方法を考えてきました。
それも、証拠を残さずにできるだけ精神を痛めつける方向のものです。
身体を傷つける方向だったら、簡単です。
彼等を事故に見せかけて殺すことですら難しくはありません。
でもそれでは意味がありません。
いつかこの家を出ていってもらう日に、何で自分がこんな目にあったのか、と腹立たしい思いを抱えていって欲しいのです。
その上で、また私に復讐を仕返す、というには心が折れる程度に。
ただそれを考えると、自分が時々嫌になるのです。
31
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。


断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる