23 / 34
23
しおりを挟む
「おはようアダムズ」
「おはようございますお嬢様、いやあなかなか昨晩は大変でしたよ」
くふふ、とアダムズは笑います。
そう、さすがに致命傷になってはいけないので、アダムズの見回りの時間と合わせて今回のことは行ったのです。
昨晩、見回りのアダムズが、ベランダから何かに手首を縛られて吊る下がっているロゼマリアを「見つけ」ました。
すぐに男手が呼ばれ、彼女は引き上げられました。
ですが彼女の手を縛っていたのは、古い、色あせたリボンです。
そしてデルフィニウムが散らばっています。
無論私はちゃんと縄ばしごで降り立った天井窓から立ち去っています。
ちゃんと寝て、騒ぎの件は今朝になってから報告をもらうという次第です。
「いやもう皆これは前の奥様の幽霊だ祟りだなんだ、って大騒ぎで」
「そうでしょうねえ」
ふふ、と私も笑う。
「今日は戻るわね。そして最後の仕掛けを考えなくては」
*
「なかなか上手くいっている様ですね」
フレライ会計事務所に戻ると、ギルバート様がまだ少年の格好のままの私に近づいて来ました。
「ええ」
「でも、致命傷は負わせないんですね?」
私は首を傾げてギルバート様の方を見ました。
「徹底的ではない、とおっしゃいます?」
「いや、優しいなあと」
「そんなこと無いですわよ。だって、次に考えているのはちょっと致命傷になりそうなことですもの」
「それは物騒な」
そう言いながら、彼は8年前のショートブレッドを私に差し出しました。
「最終的には、家を没収することにするのは判っているのに、わざわざ痛めつけるのは残酷だと思います?」
がしがし、とショートブレッドを噛みながら、私は彼に問いかけました。
「さて。復讐というのはしたいと思う本人がそれだけの覚悟をもっているものなので、当事者ではない僕には何とも」
「私は残酷だと思う?」
「お嬢様!」
スペンサーが私に駆け寄ってきて、ぽんぽん、と背を優しく叩いてくれます。
「幽霊とかって言うのは――」
奥からフレクハイトさんが新聞に視線を送ったまま、声を上げます。
「見てしまうだけの何かが、その本人の中にあるからだ、ということだと私は思うがね」
「お嬢様、あの女が奥様の幽霊が出た、ということでパニックを起こしたならば、それはあの女の中にある何かに負けてるんですよ。私がもし奥様の幽霊に出会ったなら、お元気ですかと言います」
「……幽霊に元気も何も無いと思うけど」
「いずれにせよ、お嬢様が八年、それ相応の扱いを受けなかったことに対しては、私どもも腹立たしいのです。ですので存分におやり下さい」
そうね、と私は最後の仕掛けをする決意をしました。
「おはようございますお嬢様、いやあなかなか昨晩は大変でしたよ」
くふふ、とアダムズは笑います。
そう、さすがに致命傷になってはいけないので、アダムズの見回りの時間と合わせて今回のことは行ったのです。
昨晩、見回りのアダムズが、ベランダから何かに手首を縛られて吊る下がっているロゼマリアを「見つけ」ました。
すぐに男手が呼ばれ、彼女は引き上げられました。
ですが彼女の手を縛っていたのは、古い、色あせたリボンです。
そしてデルフィニウムが散らばっています。
無論私はちゃんと縄ばしごで降り立った天井窓から立ち去っています。
ちゃんと寝て、騒ぎの件は今朝になってから報告をもらうという次第です。
「いやもう皆これは前の奥様の幽霊だ祟りだなんだ、って大騒ぎで」
「そうでしょうねえ」
ふふ、と私も笑う。
「今日は戻るわね。そして最後の仕掛けを考えなくては」
*
「なかなか上手くいっている様ですね」
フレライ会計事務所に戻ると、ギルバート様がまだ少年の格好のままの私に近づいて来ました。
「ええ」
「でも、致命傷は負わせないんですね?」
私は首を傾げてギルバート様の方を見ました。
「徹底的ではない、とおっしゃいます?」
「いや、優しいなあと」
「そんなこと無いですわよ。だって、次に考えているのはちょっと致命傷になりそうなことですもの」
「それは物騒な」
そう言いながら、彼は8年前のショートブレッドを私に差し出しました。
「最終的には、家を没収することにするのは判っているのに、わざわざ痛めつけるのは残酷だと思います?」
がしがし、とショートブレッドを噛みながら、私は彼に問いかけました。
「さて。復讐というのはしたいと思う本人がそれだけの覚悟をもっているものなので、当事者ではない僕には何とも」
「私は残酷だと思う?」
「お嬢様!」
スペンサーが私に駆け寄ってきて、ぽんぽん、と背を優しく叩いてくれます。
「幽霊とかって言うのは――」
奥からフレクハイトさんが新聞に視線を送ったまま、声を上げます。
「見てしまうだけの何かが、その本人の中にあるからだ、ということだと私は思うがね」
「お嬢様、あの女が奥様の幽霊が出た、ということでパニックを起こしたならば、それはあの女の中にある何かに負けてるんですよ。私がもし奥様の幽霊に出会ったなら、お元気ですかと言います」
「……幽霊に元気も何も無いと思うけど」
「いずれにせよ、お嬢様が八年、それ相応の扱いを受けなかったことに対しては、私どもも腹立たしいのです。ですので存分におやり下さい」
そうね、と私は最後の仕掛けをする決意をしました。
30
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる