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「お前がこの家に居る意味なんてもう何も無いんだマニュレット! 今すぐ出ていけ!」
そう言って父は玄関の扉を指しました。
その父の背後では、義母と異母妹がにやにやと笑っています。
「わかりました。では」
そう言った途端、頬を平手打ちされました。
「何だその言い方は。屋根のある家で今まで住まわせてくださりありがとうございました、飢えずに食べさせてもらってありがとうございました、だろうが!」
私はそのまま何も言わず、扉の方へと歩いて行きました。
ねえ、私はこの家だけは好きだったのよ。
私が何も可も知り尽くした貴方だけはね。
*
私の家が父、マゴベイド男爵と、その後妻ロゼマリア、そして異母妹のアリシアによって支配される様になったのは、私が8歳の時でした。
元々この家は、私の亡くなった母のものです。
マゴベイド男爵家は直系の母に婿取りをしたことで現在があるのです。
ですがその母は私が8歳の時に亡くなりました。
婿という立場を、祖父母が同居していた二年は我慢していた父も、遠方の領地へと越してしまって以来、別邸に置いた愛人の元に通う様になり、この館に居着くことはなかったのです。
男爵家を保つための職務は必然的にお母様に回ってきました。
お母様は激務の中を縫って、私の相手をしてくださいましたが、その姿は見るたびにやつれていきました。
元々身体が強いひとではなかったのです。
だから身体だけは頑丈な男を婿に、と同じ男爵家でも貧しいが故に身体を使う仕事にも取り組んでいた父が、祖父のお眼鏡にかなったということです。
ですが一度結婚して、私が出来たことで安心した祖父母は、どうも父のその育ちから来るずる賢さや劣等感には気付かなかった様です。
母はそのことを祖父母には伝えませんでした。
知っていたのです。
伝えたところで父はきっと祖父母を言いくるめてしまうと。
ですから母は私に常に言っていました。
「いい? マニイ、この家は貴女のもの。貴女は全てを知っていてね。たくさん、たくさん、ここには大事なものが隠してあるんだから……」
そして身体が本当に弱った頃、私に「絶対に無くさない様に」とロケットをかけてくれました。
「私が死んだら、あの男は絶対に貴女を酷い目に合わせるわ。でも大丈夫。この家が貴女を守ってくれる。だから他の全てを取り上げられても、これだけは手放しては駄目よ」
その中には写真ではなく、小さく小さく折りたたんだ紙が入っていました。
今の私では見ても判らないだろう、とお母様も言っていました。
だから私はただひたすら、これを取られないでいることだけを守ってきました。
そう言って父は玄関の扉を指しました。
その父の背後では、義母と異母妹がにやにやと笑っています。
「わかりました。では」
そう言った途端、頬を平手打ちされました。
「何だその言い方は。屋根のある家で今まで住まわせてくださりありがとうございました、飢えずに食べさせてもらってありがとうございました、だろうが!」
私はそのまま何も言わず、扉の方へと歩いて行きました。
ねえ、私はこの家だけは好きだったのよ。
私が何も可も知り尽くした貴方だけはね。
*
私の家が父、マゴベイド男爵と、その後妻ロゼマリア、そして異母妹のアリシアによって支配される様になったのは、私が8歳の時でした。
元々この家は、私の亡くなった母のものです。
マゴベイド男爵家は直系の母に婿取りをしたことで現在があるのです。
ですがその母は私が8歳の時に亡くなりました。
婿という立場を、祖父母が同居していた二年は我慢していた父も、遠方の領地へと越してしまって以来、別邸に置いた愛人の元に通う様になり、この館に居着くことはなかったのです。
男爵家を保つための職務は必然的にお母様に回ってきました。
お母様は激務の中を縫って、私の相手をしてくださいましたが、その姿は見るたびにやつれていきました。
元々身体が強いひとではなかったのです。
だから身体だけは頑丈な男を婿に、と同じ男爵家でも貧しいが故に身体を使う仕事にも取り組んでいた父が、祖父のお眼鏡にかなったということです。
ですが一度結婚して、私が出来たことで安心した祖父母は、どうも父のその育ちから来るずる賢さや劣等感には気付かなかった様です。
母はそのことを祖父母には伝えませんでした。
知っていたのです。
伝えたところで父はきっと祖父母を言いくるめてしまうと。
ですから母は私に常に言っていました。
「いい? マニイ、この家は貴女のもの。貴女は全てを知っていてね。たくさん、たくさん、ここには大事なものが隠してあるんだから……」
そして身体が本当に弱った頃、私に「絶対に無くさない様に」とロケットをかけてくれました。
「私が死んだら、あの男は絶対に貴女を酷い目に合わせるわ。でも大丈夫。この家が貴女を守ってくれる。だから他の全てを取り上げられても、これだけは手放しては駄目よ」
その中には写真ではなく、小さく小さく折りたたんだ紙が入っていました。
今の私では見ても判らないだろう、とお母様も言っていました。
だから私はただひたすら、これを取られないでいることだけを守ってきました。
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