1 / 34
1
しおりを挟む
「お前がこの家に居る意味なんてもう何も無いんだマニュレット! 今すぐ出ていけ!」
そう言って父は玄関の扉を指しました。
その父の背後では、義母と異母妹がにやにやと笑っています。
「わかりました。では」
そう言った途端、頬を平手打ちされました。
「何だその言い方は。屋根のある家で今まで住まわせてくださりありがとうございました、飢えずに食べさせてもらってありがとうございました、だろうが!」
私はそのまま何も言わず、扉の方へと歩いて行きました。
ねえ、私はこの家だけは好きだったのよ。
私が何も可も知り尽くした貴方だけはね。
*
私の家が父、マゴベイド男爵と、その後妻ロゼマリア、そして異母妹のアリシアによって支配される様になったのは、私が8歳の時でした。
元々この家は、私の亡くなった母のものです。
マゴベイド男爵家は直系の母に婿取りをしたことで現在があるのです。
ですがその母は私が8歳の時に亡くなりました。
婿という立場を、祖父母が同居していた二年は我慢していた父も、遠方の領地へと越してしまって以来、別邸に置いた愛人の元に通う様になり、この館に居着くことはなかったのです。
男爵家を保つための職務は必然的にお母様に回ってきました。
お母様は激務の中を縫って、私の相手をしてくださいましたが、その姿は見るたびにやつれていきました。
元々身体が強いひとではなかったのです。
だから身体だけは頑丈な男を婿に、と同じ男爵家でも貧しいが故に身体を使う仕事にも取り組んでいた父が、祖父のお眼鏡にかなったということです。
ですが一度結婚して、私が出来たことで安心した祖父母は、どうも父のその育ちから来るずる賢さや劣等感には気付かなかった様です。
母はそのことを祖父母には伝えませんでした。
知っていたのです。
伝えたところで父はきっと祖父母を言いくるめてしまうと。
ですから母は私に常に言っていました。
「いい? マニイ、この家は貴女のもの。貴女は全てを知っていてね。たくさん、たくさん、ここには大事なものが隠してあるんだから……」
そして身体が本当に弱った頃、私に「絶対に無くさない様に」とロケットをかけてくれました。
「私が死んだら、あの男は絶対に貴女を酷い目に合わせるわ。でも大丈夫。この家が貴女を守ってくれる。だから他の全てを取り上げられても、これだけは手放しては駄目よ」
その中には写真ではなく、小さく小さく折りたたんだ紙が入っていました。
今の私では見ても判らないだろう、とお母様も言っていました。
だから私はただひたすら、これを取られないでいることだけを守ってきました。
そう言って父は玄関の扉を指しました。
その父の背後では、義母と異母妹がにやにやと笑っています。
「わかりました。では」
そう言った途端、頬を平手打ちされました。
「何だその言い方は。屋根のある家で今まで住まわせてくださりありがとうございました、飢えずに食べさせてもらってありがとうございました、だろうが!」
私はそのまま何も言わず、扉の方へと歩いて行きました。
ねえ、私はこの家だけは好きだったのよ。
私が何も可も知り尽くした貴方だけはね。
*
私の家が父、マゴベイド男爵と、その後妻ロゼマリア、そして異母妹のアリシアによって支配される様になったのは、私が8歳の時でした。
元々この家は、私の亡くなった母のものです。
マゴベイド男爵家は直系の母に婿取りをしたことで現在があるのです。
ですがその母は私が8歳の時に亡くなりました。
婿という立場を、祖父母が同居していた二年は我慢していた父も、遠方の領地へと越してしまって以来、別邸に置いた愛人の元に通う様になり、この館に居着くことはなかったのです。
男爵家を保つための職務は必然的にお母様に回ってきました。
お母様は激務の中を縫って、私の相手をしてくださいましたが、その姿は見るたびにやつれていきました。
元々身体が強いひとではなかったのです。
だから身体だけは頑丈な男を婿に、と同じ男爵家でも貧しいが故に身体を使う仕事にも取り組んでいた父が、祖父のお眼鏡にかなったということです。
ですが一度結婚して、私が出来たことで安心した祖父母は、どうも父のその育ちから来るずる賢さや劣等感には気付かなかった様です。
母はそのことを祖父母には伝えませんでした。
知っていたのです。
伝えたところで父はきっと祖父母を言いくるめてしまうと。
ですから母は私に常に言っていました。
「いい? マニイ、この家は貴女のもの。貴女は全てを知っていてね。たくさん、たくさん、ここには大事なものが隠してあるんだから……」
そして身体が本当に弱った頃、私に「絶対に無くさない様に」とロケットをかけてくれました。
「私が死んだら、あの男は絶対に貴女を酷い目に合わせるわ。でも大丈夫。この家が貴女を守ってくれる。だから他の全てを取り上げられても、これだけは手放しては駄目よ」
その中には写真ではなく、小さく小さく折りたたんだ紙が入っていました。
今の私では見ても判らないだろう、とお母様も言っていました。
だから私はただひたすら、これを取られないでいることだけを守ってきました。
52
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。


愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる