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 私はこれを読むと、すぐに立ち上がり、寮監の元に向かった。
 そして休暇願いを出し、家に戻った。
 離れへ飛び込むと、母に手紙を見せた。

「……あああの子! 幸せでいるのね……」

 母は心底嬉しそうに泣いていた。

「お母様、お母様はローズ姉様のことは」
「複雑な気持ちはあったわ。何よりまだ私も若かったから、シェリルのことを思うと苛立ちや、怒りや、そういうものが溜まって…… 本当にあの子には可哀想なことをしたわ。あの子自身には何の罪も無いのに」
「お姉様がお父様に困った目で見られているのも」
「ええ、気付いてました。だからこそ、できるだけ遠ざけようともしていました。いくらシェリルの面影があるからと言っても、実の娘に向ける視線じゃあありません。……だから、私は正直あの子が駆け落ちした時ほっとしたのです」
「お母様は、お姉様のあの行動に怒っていたのでは」
「厄介なことになった、とは思いました。さすがにスキャンダルですからね。でもこれであのひとからはきっぱりあの子が逃れられると思うと、ほっとしたのですよ。でもその一方で、あの子が居ないことに喜んでしまっている自分も居たことに、私は」
「罪の意識を持ってしまったのですね」

 母はうなづいた。

「それでずっと、こちらで」
「ありがとうベリー。私はこれでようやく思い切りができたわ。貴女方、娘二人が嫁いだらあのひととは別れます。離婚という形にはならずとも、この家を離れようと思います」
「いいえお母様、マギーはともかく、私のことは気にしないでください。そんなことを言っていたら、いつになってもお母様は辛いままです」
「ベリー……」
「マギーは明るくてあちこちから話が色々来ています。きっと結婚も早いでしょう。お母様、そうしたら、二人でしばらく国を離れてあちこちを回りませんか? お母様はずっと気鬱だったんです。きっと療養するに良いところは大陸にあると思いますの」

 ふふ、と母は笑った。

「それはいいわ。そして何年も回ってきましょう」
「フランスの有名なお菓子屋にも行きましょう。そして思う存分美味しいお菓子を食べましょうよ」

 それから私はハルバートや母の実家とも相談し、その話を進めていった。
 父には内緒で。
 私達が出発したのは、父が出張で家を空けている時だった。
 一応理由を書いた手紙はしっかり残してきたが、母の実家が父を止めてくれるだろう。
 幾らでも父を責める点はある。
 シェリルのこと、ローズのこと、そして母の気鬱の原因。
 祖父母はきっと父を締めてくれるだろう。

「ああ…… いい風ね。今までのくさくさした気持ちが飛んでいきそうだわ」
「そんなものはここで飛ばしていきましょう!」

 大陸へ渡る船の上、私と母は風を受けながら、しばらく離れる母国を眺めた。
 帰る頃には、何か変わっているだろう。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

芹香
2023.02.09 芹香

あれもこれも、いちいち 感想を書くのもストーカーチックかな?と思いましたが、少しだけ。

お母様 素敵です。

綺麗なだけの浮わついた妹と 綺麗な女に惑わされて 本能優先で 娘に危険な目を向けてたアホな夫を (許しているかどうかは別として)受け入れて、家族を保っていた。凄いですね。

お母様と、キチンと観察して 気が付いた、賢い末の妹ちゃんが幸せになると良いですね。

江戸川ばた散歩
2023.02.09 江戸川ばた散歩

そうなんです。
形がかっちりとしているところの奥様というのはたいへん……
だからこそ脱出できた姉は「母親」の気持ちをよく知っていたのですね。
気付いた彼女達は幸せになると思います。

解除
UR10k
2022.04.21 UR10k

江戸川ばた散歩さんの作品、いつも面白く拝読しております。

この作品はいつになく穏やか(笑:))でサラッと終わり、いつものひねりの効いた作品とはまた一味違うなぁと感じました。

引き続き新作を楽しみにしております。

江戸川ばた散歩
2022.04.21 江戸川ばた散歩

いつもありがとうございますm(__)m
ネタ元は殺伐としているのですが、今回は最初はですます調で書いてたせいかも(笑)。
あれは柔らかくなるんですよね。
あと冒頭に突っ込まないでみたのがでかいかと!
一日一作短編目標なんでがんばりますー!

解除

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