上 下
7 / 23

第7話 朝飯でハッシュドポテト

しおりを挟む
 翌日は目がまぶしかった。
 結局、その晩はコノエの部屋に泊まり込んでしまった。家にはあれからすぐに友達の家でテスト勉強するとか何とか電話して、……無論、そんなことはした記憶はないのだが。
 実際、コノエの本棚には高校生の普通に持つような参考書だの本だのは全く見あたらない。
 カバンは持っていたが、中身はすかすかの俺達じゃ、勉強どころではない。それに、奴の本棚にはそれどころか、何やらもっとぶ厚い本が並んでいたりする。
 飾りですよ、と奴は言って笑ったが、ぱらぱらと繰ると、あちこちに書き込み、手ずれ。使い込んだ跡。その書き込みは時には英語だったりすることもある…… 本当にこいつのもんなんだろうか? とふと思ってしまうほど。
 だがどうにもこの二人の前で、それがどうしてなのか、俺は聞けなかった。
 俺達はだらだらとその晩は、どうでもいいことを話したり、TVを見たり、奴の持ってるたくさんのCDを物色したり、音楽雑誌を見たり、通いつけのライヴハウスの日程表から次の予定を考えたり……
 他愛ない笑い。時間が過ぎていくのが早かった。
 眠くなったので眠ろうと思ったら、タキノが閉じてある方のマットレスを拡げて、もう一つのマットレスとくっつけた。そして、一緒に寝よ、と言って、結局俺達は三人で川の字になって眠ったのだ。
 まあ疲れていたから眠ったのはいいんだが――― 問題は朝だった。
 起きた瞬間は、そこが何処だかさっぱり判らなかった。それに制服のズボンにシャツ、多少ゆるめてはあったが、そのままずるずると眠りに入ってしまったのだ。さすがにシャツはくしゃくしゃだった。
 そしてそれは自分だけじゃない。隣で寝ていたコノエもそうだったし――― タキノもそうだった。
 着ていた大きめの襟ぐりの服から肩がのぞいていた。つるんと丸くて細くて。だけど身体全体をきゅっと縮めて、横に眠っているコノエにすりよるようにして、短い髪を乱して、すやすやと眠っていた。
 コノエはコノエで、それがいつものことであるかのように、実に安らかな顔をして眠っている。何だかなあ、と思いつつ、俺はのそのそと起きあがって、時計を横目に顔を洗いに行った。
 鏡の中に映る自分を見て、さすがにシャツくらいは借りたくなった。コノエを揺り起こし、眠っているタキノを残して、野郎二人で外に出た。

 初夏の太陽は、朝でも何でもひどくまぶしい。
 学校に歩いて行けない距離ではないことに感謝した。借りたシャツを着て、だらだらと歩いていく。
 まだ時間はあったので、駅前のファーストフード店に入って、モーニングセットを頼んだ。そして窓際の席に陣取って、少し早めに登校してくる我が校の生徒の姿を眺めていた。どうもこの時間に来る連中は足取りが軽い。
 と、コノエは、コーヒーを口にしながら、外を指さした。

「マキノ?」
「そ。彼氏も早そうですねえ」
「ピアノ弾きに行くんじゃないか?」
「んー…… どうでしょうねえ」

 曖昧な奴の答えには無視して、窓の外を眺め続けながら、俺はハッシュドポテトを口にする。熱いうちは、やっぱり美味いもんだ。

「キミと同様、どっかへ昨夜は泊まり込んだのかも」
「ふん。何かそう思える点があるのかよ」
「なあんか、シャツがいまいちしゃんとしてないですよ」

 くすくす、と笑いを含めて奴は指摘する。確かに。何となくネクタイもややいい加減そうに見える。

「彼氏はわりといつも小綺麗にしてるんですよね」
「よく見てるな」

 やや嫌みを込めるが、それには笑って答えない。代わりにコーヒーをもう一口、とわざとらしくすする。

「で、相手が、キミに対するワタシのようにシャツを貸せない人ってことも考えられますな」
「女かな」
「可能性は無くもないですがね」
「……何かまだ何か言いたそうだな」

 じろりと奴の方を見た。

「いや、ただあの時見た彼氏のまわりには、女はいなかったような気はしますがね」
「ああ、あのバンド」
「だから単に、遊びに行ってそのままずるずると泊まり込んでしまったということは考えられると」
「俺のように?」

 そう、と奴はうなづいた。ふうん、と俺は再び外へ視線をやる。既にマキノの姿はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遥かなウタ

堀尾さよ
青春
私は完璧な「可愛い」美少女。 幼馴染のウタちゃんは、私の「可愛い」お友達。 もう二度と戻れないけれど、私は本当に本当に、ウタちゃんが大好きだったんだよ。 「ハルカの唄」の姉妹作です。 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/519338466/555789268】

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

真っ白のバンドスコア

夏木
青春
親父みたいに、プロのバンドとして絶対にデビューしてやる! そう意気込んで恭弥が入学した羽宮高校には軽音楽部がなかった。 しかし、多くのプロが通ってきたバンドコンテストの出場条件は「部活動であること」。 まずは軽音楽部を作るために、与えられた条件を満たさなければならない。 バンドメンバーを集めて、1つの曲を作る。 その曲が、人を変える。 それを信じて、前に進む青春×バンド物語!

One-sided

月ヶ瀬 杏
青春
高校一年生の 唯葉は、ひとつ上の先輩・梁井碧斗と付き合っている。 一ヶ月前、どんなに可愛い女の子に告白されても断ってしまうという噂の梁井に玉砕覚悟で告白し、何故か彼女にしてもらうことができたのだ。 告白にオッケーの返事をもらえたことで浮かれる唯葉だが、しばらくして、梁井が唯葉の告白を受け入れた本当の理由に気付いてしまう。

ひなまつり

はゆ
青春
茉莉は、動画配信チャンネル『ひなまつり』の配信者。 『そんな声でよう生きてけるな』言われてから、声にコンプレックス持って、人と話すの怖なった。 現実逃避先はライブ配信サイト。配信時に絡んでくる<文字列>が唯一の相談相手。 やかましくて変な<文字列>と、配信者〝祭〟の日常。 茉莉は、学校の友達が出来へんまま、夏休みに突入。 <文字列>の後押しを受け、憧れの同級生と海水浴に行けることになった。そやけど、問題が発生。『誘われた』伝えてしもた手前、誰かを誘わなあかん――。 * * * ボイスノベルを楽しめるよう、キャラごとに声を分けています。耳で楽しんでいただけると幸いです。 https://novelba.com/indies/works/937809 別作品、桃介とリンクしています。

僕の一番長い日々

由理実
青春
ほっこり・じんわりと心を癒し、心を揺さぶる。そんな、感動を呼び起こす為のテーマは、色々あります。 動物やペットとの交流のお話。素敵な恋のお話。おじいちゃんおばあちゃん達とのエピソード。 今年はオリンピックイヤーなので、スポーツを題材にした作品もアリかもしれません。 そんな中で、人と同じ事を書いても埋もれるだけだと思いまして、敢えてダークなテーマを取り上げました。 ちょっとしたボタンの掛け違いが原因で、登校拒否になってしまった少年と、その出来事を通して家族の絆を深めて行き、最後には、希望の光に満ちた世界に導かれていく物語を描きました。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...