〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
47 / 50

46 13人目の「私」が語る⑧

しおりを挟む
「ああ、もうあと三人なんですね」

 シャーロットはつぶやいた。

「イヴリン様、私言わなかったけど、一つ思いついたことがありましたわ」
「何かしら」
「毒のありか」
「毒のありか? ストリキニーネの?」
「ええ、青年の身体から見つからなかった、ということですけど、もし彼がかつては目が見えていた、ということなら…… 片目を義眼にしていたという可能性は無かったかしら、と」

 イヴリンは押し黙った。

「何故そう思うのかしら」
「夫の関係で過去の毒に関する事件を調べたことがあったの。イヴリン様、貴女のそれは、配役が少しずれてらっしゃる。殺された義姉様というのは、実は居ないのでは?」

 はあ、とイヴリンはため息をついた。

「ええ。それがおわかりなら、そう。義姉は死んでないのですわ。そしてあの青年は、私の不義の子。私の不始末を兄がずっと隠していたのですわ。そして義姉が不憫がって世話をしていた子。だからあの子はあのきょうだい達を知っていたのですわ。あの子は義眼の中にストリキニーネを隠していて、それで皆を殺し、私も殺し、自分も死のうと思ったのでしょう。ただあの子にとって、誰よりも恐ろしい人間が一人居たんですよ。それが兄です」
「何故兄上が」
「お義姉様はあの子を実の子の様に可愛がっていたのですわ。それが兄にはどうにもたまらなかったのでしょう。ただでさえ妹が犯した罪の子だというのに、自分の妻の愛情まで、とそれで兄はおそらく、あの子を亡き者にしようとしたんですわ。おそらくその時、ぎりぎり見えていた片目も見えなくなって。それで義姉様はおそらく、私の近くに彼を逃がしたんですわ。私が静養しているところに。そして私がそういう彼を見過ごすことができないだろうことを知っていて。ただ誤算があったの」
「誤算?」
「私はあの子の育ってからの顔も知らなかったのよ。だからあくまで他人として接していたの。だけど何人かがあの毒で殺された時、もしや、と思ったの。あの子は嗅覚がとても優れていたわ。だから人の固有の匂いに敏感だった。その中で嗅ぎ覚えのある相手が居ると知ったの。そう、それは自分を殺すだろう、兄につながると思い込んで」
「そうね」

 私はそれに付け加えた。

「そして貴女も殺された。毒で。貴女はあの話の中で殺される順番を変えていた。貴女は義姉の役だったのでしょう?」
「ええそう。そしてその後は? やはりあの子は湖に身を投げたのかしら?」
「残念ながら。彼は貴女が死んだということで、とうとう貴女の兄の出番となったの。そして警察に捕まり…… あとは判るでしょう?」
「ええ、それをどうしても私は見たくなかった。だからこそ、あの子が私に差し出した毒を飲んだのかもしれない」
「毒だと気付いていたの?」
「何となく、兄につながらあのきょうだいが殺されるなら、私も殺されるだろうとは思ってましたの。それで殺されるなら仕方がないと。やはり苦しかったですけど。あの子はどうやって死んだのです?」
「さあ、それは本人に訊いた方が」

 私は暗闇を指した。
 そこには何も無い。
 だがイヴリンは笑みを浮かべ、そこに腕を広げて飛び込んでいった。
 後には闇が残った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎌倉呪具師の回収録~使霊の箱~

平本りこ
ホラー
――恐ろしきは怨霊か、それとも。 土蔵珠子はある日突然、婚約者と勤め先、住んでいた家を同時に失った。 六年前、母に先立たれた珠子にとって、二度目の大きな裏切りだった。 けれど、悲嘆にくれてばかりもいられない。珠子には頼れる親戚もいないのだ。 住む場所だけはどうにかしなければと思うが、職も保証人もないので物件探しは難航し、なんとか借りることのできたのは、鎌倉にあるおんぼろアパートだ。 いわくつき物件のご多分に漏れず、入居初日の晩、稲光が差し込む窓越しに、珠子は恐ろしいものを見てしまう。 それは、古風な小袖を纏い焼けただれた女性の姿であった。 時を同じくして、呪具師一族の末裔である大江間諭が珠子の部屋の隣に越して来る。 呪具とは、鎌倉時代から続く大江間という一族が神秘の力を織り合わせて作り出した、超常現象を引き起こす道具のことである。 諭は日本中に散らばってしまった危険な呪具を回収するため、怨霊の気配が漂うおんぼろアパートにやってきたのだった。 ひょんなことから、霊を成仏させるために強力することになった珠子と諭。やがて、珠子には、残留思念を読む異能があることがわかる。けれどそれは生まれつきのものではなく、どうやら珠子は後天的に、生身の「呪具」になってしまったようなのだ。 さらに、諭が追っている呪具には珠子の母親の死と関連があることがわかってきて……。 ※毎日17:40更新 最終章は3月29日に4エピソード同時更新です

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜

君影 ルナ
ホラー
・事例 壱 『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。 何故『自分』はあの集落に向かっている? 何故『自分』のことが分からない? 何故…… ・事例 弍 ?? ────────── ・ホラー編と解決編とに分かれております。 ・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。 ・フィクションです。

ill〜怪異特務課事件簿〜

錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。 ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。 とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

白蛇の化女【完全版】

香竹薬孝
ホラー
 舞台は大正~昭和初期の山村。  名家の長男に生まれた勝太郎は、家の者達からまるでいないもののように扱われる姉、刀子の存在を不思議に思いつつも友人達と共に穏やかな幼少期を過ごしていた。  しかし、とある出来事をきっかけに姉の姿を憑りつかれたように追うようになり、遂に忌まわしい一線を越えてしまいそうになる。以来姉を恐怖するようになった勝太郎は、やがて目に見えぬおぞましい妄執の怪物に責め苛まれることに――  というようなつもりで書いた話です。 (モチーフ : 宮城県・化女沼伝説) ※カクヨム様にて掲載させて頂いたものと同じ内容です   

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...