〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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34 ルーカス軌道会社社長夫人レイチェルが語る②

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 急ごしらえの貴婦人というのは、とても辛いものですわ。
 シャーロット様、マーゴット様、貴女方は学問畑で優秀な方に嫁ぐだけあって、元々のお家がある程度以上学のあるものでしょう。
 イヴリン様、フレア様、貴女方は数代続く大きな商家に嫁がれたことを考えると、やはり貴婦人教育をある程度お受けになったでしょう。
 ですが、私の時代の成り上がりというものはそういうものではなく。
 本当に世界が違うことをひしひしと感じつつ、それでも何とかやっていくものなのですわ。
 で、私の友なのですが、やはりというか何というか。
 身体もですが、気持ちがどうしようもなく疲れてしまって。
 元々の素地が無いところにむ慌てて教育を詰め込んだものですから、一杯いっぱいになってしまったんですね。
 その上、若いものですから、妊娠出産も結構繰り返し……
 その間にどんどん展開していく夫の事業のために、私の母とか、その界隈の商会の奥方達から、夫人としてできることは何かを教わったり……
 元々彼女は「少し大きめの店の女将さん」程度が良かったのですわ。
 ただ、たまたま事業がそういう時期だったことが彼女の不幸だったのですわ。
 不幸――そう、不幸ですわ!
 元々教養もダンスも楽器もさほどのものでもなく、言葉遣いも付け焼き刃。
 努力すれば何とかなるという場合もあります。
 私はどちらかというとそれでしたからまだ良かったんですわ。
 負けず嫌いですし。
 でも皆そういう性格ではないでしょう?
 私は友人の優しい、大人しい性格が好きでしたわ。
 穏やかな笑みと、野の花を「綺麗な形だから」とガラスのコップに淹れて窓辺に置いて楽しむ様な感性がとても好きでした。
 でもそんな暇も無く、ただもうひたすら追いまくられ。
 やがて夜会などに出ると、彼女自身知らぬ間に、ぽろぽろと涙がこぼれていたり、言葉が出なかったり……
 彼女の夫は、さすがに心を病んでとは言えなかったため、肺を悪くしたから転地療養ということにして、別居させました。
 子供達は常に遊びに行っていて、何とかやっている様ですが、お互いに寂しいのはどうしようも無い様です。
 社交のパートナーには、一種のマナー教師の様な女性を連れて行くことが多くなり、気付くとまるで愛人の様な形になっていると聞きましたわ。
 無論妻として一番愛しているのが彼女であったとしても、やはり離れて暮らしているというのはどうにもならないものがあるものですわ。
 彼女は気付くと厨房へ出向いて料理をするのですが、メイドが時々「奥様が時々包丁をじっと見ていらして怖いのです」などと聞くと、やっぱりあの社会はとても怖いと思ってしまうのよ。
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