上 下
32 / 50

31 クレイグ伯爵夫人ローズマリーが語る①

しおりを挟む
 視察! 看護婦!
 ああ、そんなこと私は思いもしませんでしたわ。
 だってそう、看護婦などというのは、不潔な戦場で無闇に働かされるだけの者、ろくな仕事、場所ではないと私は思っていましたもの。
 やはりずいぶんと変わりましたこと。
 それに戦争の仕方も。
 そう、でも昔も悪いものではないのですのよ。
 私のこの格好にしても、それこそ断頭台の王妃の流れみたいなものなのですから。
 そう、結局貴女方がそうやって身体を締め付けて沢山の下着で膨らめているのは、心のどこかで、あの時代を再び繰り返したくないと思うからですわ。
 だってそう。ポーレット様、マーゴット様、レイチェル様、エレノア様。
 貴女方の様にお尻を突き出す格好の形は、私から見れば、過去に遡ったかの様ですもの。
 お祖母様の時代の様な!
 とは言え、私もまた、これは古代ギリシアの流れなのですから、もっと昔と言えば昔なのでしょうけど!
 確かに薄着すぎて、風邪から肺炎になる者も多かったですけど……
 それでも貴女方よりは下着は楽でしたわ。
 ただね、やはりこういうものも、あのコルシカ生まれの男が失脚したら、いきなり変わってしまったのでしょうね。
 そしてまた、貴女方の様な格好に逆戻りなんですのよ。
 ところであのコルシカ生まれの男が皇帝の地位についた時には、さすがに私も驚きましたわ。
 そしてきっとあの国の人間は相変わらず何処かネジが外れているのではないかと思った程ですのよ。
 そう、ネジが外れていると言えば。
 どんな時代であっても、頭のネジが外れている様なひとは居るものなのですね。
 私がそのひと紹介された時、そのひとは自分をとある国の伯爵夫人、と言っていたのですわ。
 ところが別の日になると、自分は何でここに居るのか、国へ帰らなくては、ということを言って使用人を困らせるんですの。
 でもまた別の日になると、ちゃんと伯爵夫人だ、って言い張るんですのよ。
 ただし、彼女は夫である伯爵というひととは一緒に居た訳ではないんですの。
 彼女の保護者は、伯爵でも子爵でも、ましてや侯爵でもなく。
 非常に裕福な、新大陸の商家だったのですわ。
 私は夜会に夫と出かけた際に彼女をその保護者から紹介されたのですけど、確かに伯爵夫人らしい所作や言葉、そして教養に感心しましたの。
 だって私が出会った時には、そのひとの方がずっと歳上だったのですもの。
 ところが、昼間に夫とその保護者になっている商家に訪問とすると、伯爵夫人と言う彼女と、違う自分はそんなものではない、という彼女と両方見掛けてしまったのですわ。
 保護者の方は、あれは病気なのだ、とよく言っておりましたの。
 調子が良い時に、夜会には参加させるのだ、と。
 でも何故そもそもその商家の主人が、伯爵夫人を名乗る彼女の保護者なのかしら。
 私はそう夫に尋ねてみたんですの。
しおりを挟む

処理中です...