〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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29 ダズウッド陸軍大佐夫人ブリジットが語る①

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 ああシャーロット様、その銃の下りは何となく判りますわ。
 うちの夫はほら、陸軍でしょう?
 海軍でしたらまた違う感覚なのでしょうが、陸軍の場合、割と直接的に血を見ることになりますからねえ。
 特に夫が軍に従事する様になってから、もう、アフガンやらトランスヴァールやらズールーやら。
 私からしたら遠い場所の話で、夫から聞く死者の数もだんだん慣れっこになってきてしまったんですね。
 慣れって怖いんですよね。
 特に夫の様に上の階級になってしまうと、もう一人一人を人間として把握していると気持ちが持たないから、あくまで数字で片付けないとやっていけない、とのことでしたのよ。
 でもこんなに大量の人が死ぬ様になったのは、やっぱり銃であり火器ですわね。
 ただそこで、本当にそこにある遺体は戦死したものなのか? という話はよく聞くんですって。
 戦場で死んでいるひと達はまず当然の様に、戦闘で死んだと思われているでしょう?
 だけどそこで、数が合わない、ということも度々あるんですって。
 基本的に、遺体はその場に葬ることになりますわね。
 多くなればなる程。
 あとは状況如何ですか。
 それこそ昔の戦争の様に、名乗って始まりと終わりがはっきりしている様なものなら遺体も持ち帰ることもできるかもしれませんけど……
 ああ、防腐できませんから、やっぱりその場で埋葬致しますか。
 特に、まるで知らない土地、違う文化の中での殺し合いというのは、気も抜けないし予想も付かないことが多いんですって。
 ほら、だからこそエレノア様の旦那様の様に、判らない土地のことを知っている方が、軍の方に協力を求められる訳で。
 言葉だけでなく、風習とか宗教とか。
 その意味では、ほら、特に我が国というのは、島国ですからついつい我々の慣習が基本だと思ってしまいがちじゃないですか。
 大陸の方、特に国境線が曖昧な場所、文化はこちらと近いのに、他国の文化も入ってきてるところではまた違うんでしょうね……
 ただ、それだけに我々の国の軍隊の兵士だったら遺体でも何かわかる、って言うんですよ。
 持ち物だったり、何かちょっとした癖とか……
 で、たまに顔が潰れているから判らないけど、これはわが軍のものではない、っていうの、報告が来るらしいんです。
 そして時には、軍服を着せた女の遺体もあるそうなんですよ……
 ぱっと見には判らないんですって。
 髪を切って軍服を着せていれば。
 まあそれだけ、私達って男と女の格好が違うってことですからね。
 あと、華奢な男は居ても、……筋肉ばりばりの女はあまり…… 市井はともかく、私達の周囲には居ませんからね……
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