〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
11 / 50

10 サングス商会夫人イヴリンが語る①

しおりを挟む
「筆を舐める癖がある人に毒を盛った、って話を思い出したわ」
「何、それって画家の話?」

 ブリジットが口を挟む。

「ううん、うちのひと海外貿易の会社やっているでしょう? 特にここしばらく、東洋趣味で結構儲けさせてもらったって笑っていたのよ」

 そう言って、サングス商会夫人イヴリンは語り出す。



 東洋趣味って、ほら、結構あのクリスタル・パレスの展示会でも色々あったでしょう?
 で、うちのひとが目をつけたのは、あの極東の島国! 
 何か色々向こうでは政変とかあって、大変だったんだけど、まあおかげでそういう品は色々売れたって話も聞くし。
 で、筆の話ね。
 あの国も、清と同じで、筆記用具として、私達の様にペンを使わないのよ。
 細い筆なのね。
 それに固めた、ほらこのくらいの大きさの墨を、スレートの台? 
 何って言うのかしら、何か名前があるんだけど。
 ともかくスレートの平らな面で水と一緒に擦りだして、色んな濃さの黒い文字を巻紙に書き付けるんですって。
 向こうで二束三文で買い付けた紙の束があったから見たことがあるんだけど、まあ凄くうねうねした縦書き。
 絵入りで色刷りの冊子なんかもあって、それは印刷してあるんだけど、それでもうねうね。
 だけど向こうの人々って、案外それを読めるっていうのよ。
 特にエド? トーキョウ? に住んでるひと達は。
 そのエドだかトーキョウに変わるちょっと前なんだけど、偉いひとが唐突に亡くなったってことがああったんですって。
 それがね、何でもその筆に毒が塗ってあって……
 え? 何でそれが舐める、につながるかって?
 ええ、私もその辺りが聞いた時は上手く理解できなかったのだけど、何でも筆を使う前に舐める癖があるひとっていうのが、ある程度あるんですって。
 まあ、墨自体に毒がある訳ではないってことが大きいんでしょうけど。
 でもね、偉い人の癖を知っていた誰かがそこに毒を塗って平気な顔をしていたとしたら……?
 つまりね、私何が怖いって、政治的にもの凄く偉いひとが、ちょっとしたことで殺されそうになることなの。
 使われたのは砒素だったらしいのね。
 そう、こちらでも何かと殺人事件には使われるじゃない……
 そういう意味では、共通なのね、と思うと、ああ人間って怖いな、って。
 ……はいはい前置きが長いって。
 そう、だから、そういう事件があったのよ。
 とある知り合いの知り合いのお宅で、次々と家族が死んでいったって事件。
 公にはなっていないわ。
 だから偉いひとのところって怖いって言ったじゃない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎌倉呪具師の回収録~使霊の箱~

平本りこ
ホラー
――恐ろしきは怨霊か、それとも。 土蔵珠子はある日突然、婚約者と勤め先、住んでいた家を同時に失った。 六年前、母に先立たれた珠子にとって、二度目の大きな裏切りだった。 けれど、悲嘆にくれてばかりもいられない。珠子には頼れる親戚もいないのだ。 住む場所だけはどうにかしなければと思うが、職も保証人もないので物件探しは難航し、なんとか借りることのできたのは、鎌倉にあるおんぼろアパートだ。 いわくつき物件のご多分に漏れず、入居初日の晩、稲光が差し込む窓越しに、珠子は恐ろしいものを見てしまう。 それは、古風な小袖を纏い焼けただれた女性の姿であった。 時を同じくして、呪具師一族の末裔である大江間諭が珠子の部屋の隣に越して来る。 呪具とは、鎌倉時代から続く大江間という一族が神秘の力を織り合わせて作り出した、超常現象を引き起こす道具のことである。 諭は日本中に散らばってしまった危険な呪具を回収するため、怨霊の気配が漂うおんぼろアパートにやってきたのだった。 ひょんなことから、霊を成仏させるために強力することになった珠子と諭。やがて、珠子には、残留思念を読む異能があることがわかる。けれどそれは生まれつきのものではなく、どうやら珠子は後天的に、生身の「呪具」になってしまったようなのだ。 さらに、諭が追っている呪具には珠子の母親の死と関連があることがわかってきて……。 ※毎日17:40更新 最終章は3月29日に4エピソード同時更新です

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜

君影 ルナ
ホラー
・事例 壱 『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。 何故『自分』はあの集落に向かっている? 何故『自分』のことが分からない? 何故…… ・事例 弍 ?? ────────── ・ホラー編と解決編とに分かれております。 ・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。 ・フィクションです。

ill〜怪異特務課事件簿〜

錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。 ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。 とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

白蛇の化女【完全版】

香竹薬孝
ホラー
 舞台は大正~昭和初期の山村。  名家の長男に生まれた勝太郎は、家の者達からまるでいないもののように扱われる姉、刀子の存在を不思議に思いつつも友人達と共に穏やかな幼少期を過ごしていた。  しかし、とある出来事をきっかけに姉の姿を憑りつかれたように追うようになり、遂に忌まわしい一線を越えてしまいそうになる。以来姉を恐怖するようになった勝太郎は、やがて目に見えぬおぞましい妄執の怪物に責め苛まれることに――  というようなつもりで書いた話です。 (モチーフ : 宮城県・化女沼伝説) ※カクヨム様にて掲載させて頂いたものと同じ内容です   

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...