〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
205 / 208

197 引っ越し、そして二つの消息②妹の消息

しおりを挟む
 引っ越しをしてしばらくした頃、テンダーのもとに、また別の手紙が来た。
 何処か気の抜けた様な宛名の文字。
 見覚えがある様な無い様な。
 住み込みのメイドから受け取ると、自室の扉をきっちり閉めてから封を開けた。

 ――親愛なるお姉様

 手紙はそう書き出されていた。



 大変ごぶさたしております。
 お姉様はお元気でいらっしゃいますか。
 その節はたいへんごめいわくをおかけ致しました。
 わたしはいまも病院にいます。
 でも、昔にくらべてとても気持ちがらくになっています。
 食べ物とのつきあいはまだまだです。
 少し気を抜くと頭の中いっぱいが食べ物欲しい、となってしまうので、先生と薬とおはなし合いのくりかえしです。
 この病院にはいったころは本当にひどかったそうです。
 おぼえていないのですが、ベッドにしばりつけられたこともあったということです。
 今のわたしは、あのころのわたしがどうしていたのか、よく思い出せません。
 ただ、すこし前から、わたしの頭も少しずつはっきりしてきました。
 そうしたら、わたしをここに連れ出してくれたのがお姉様だということも、少しずつ思い出されてきました。
 どこからどう、というわけではないのですが。
 とても、今まで、ずっと、ごめんなさい。
 そして、あのとき連れ出してくれて、ありがとうございました。
 お母様が亡くなったという知らせもお父様から聞きました。
 お母様はわたしのこともお姉様のことも何も口にしなかったと聞きました。
 そうしたら、わたしの頭の中もなんとなく晴れやかになったような気もしました。
 お母様が亡くなったことを悲しめないのはどうなのか、と今のわたしの先生に聞くと、

「あなたがそう思ってしまうことは仕方のないことだから気にすることはない」

 そう言われました。
 あれだけかわいがってもらったのに、と言うと、

「本当にそうだったかな?」

と、昔のことを少しずつ先生は聞いてくれます。
 うちは、とてもおかしかったのですね。
 お母様はおかしかったのですね。
 お父様は、弱かったのですね。
  そしてわたしには、自分がなかったのですね。
 今ここで、入院しているひとたちと話すときがあります。
 はじめはどこか違う国のはなしのように感じていたのですが、ある時から思うようになりました。
 心配して家族がやってきてくれるのがごく当たり前の家なんだって。
 身分とか、ここでは知らされません。
 わたしの家のこともみんな聞きません。
 病気を治して子供に会いたいと泣く女の人とよく話します。
 わたしの子供たちは、お姉様のおかげでちゃんとした育ち方をしていると夫から聞きました。
 わたしは子供たちの顔も思い出せません。
 でもいつか、会えたらいいなと思います。
  いつまでかかるかわかりませんが、わたしが退院することができたなら、ひょうばんだというお姉様の楽に着られるというスカートをつけてみたいものです。

 それではさようなら。
 お元気でいらっしゃることを願って。

 あなたのおろかな妹、アンジーより



 テンダーは読み終えると深くため息をついた。
 ああそれでも、そのくらいには回復したのか、と。
 と、同時にこれからも長くかかるのだろうな、ということを容易く想像ができた。
 ただ、この手紙はテンダーに一つのことを知らせてくれた。
 妹にとってもまた、母の存在は重石だったのだ、と。
 そしてテンダーは改めて母について思う。
 産んでくれたことは感謝する。
 それなりの頭をくれた血をつないでくれたことは感謝する。
 だがそれ以外のことについては、どれだけ負の感情を持っても構わないのだ、と。
 改めてテンダーは大きく声を立ててしばらく笑った。
 それに気付いた彼がやってくるまで、その笑いは止まらなかった。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...