〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

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172 発表会の準備⑤新素材の上着

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「そうなると、まず何にしても早めに布を仕入れなくてはならないですね。あと、このスカートが無地の方ですが、こちらの方もやっぱり同じ南東の生地を使うんですか?」

 ポーレは訊ねた。

「生地が決まらないと、それに合う小物も考えることができないし」
「そうよね。だからまず生地の件は早急に手配するわ。キリューテリャにできるだけ沢山の見本を送ってもらって」
「いやそれはテンダー様自身が探しに行った方がいいと思うんですけど。色柄とかは直接見に行った方がいいに決まってます」
「でも今でさえ立て込んでいるのに」
「縫い子だけなら何とかなるでしょう? テンダー様これからどんどん服の生産を増やそうとする中で、自分が縫い子の役を延々続けるつもりですか?」

 容赦ない乳姉妹の言葉にテンダーはぐっと詰まる。

「他の人でもできることは他の人に任せればいいんです。貴女は的確な指示をすること。それが一番じゃないですか? 工房主としては」

 確かに、とテンダーは頷いた。

「そうよね。確かにポーレの言う通りだわ。色柄生地は私が直接買い付けに行くわ。ただ、その前に一つ」

 これ、とテンダーは以前にセレに勧められた生地を取り出した。
 元の糸の色のままのそれをテンダーは取り出してのびのびと少し引っ張ってみせる。

「あ、これ前に紹介されたけど、その時は」
「季節が季節だったからね。で、そのうちもう少し薄い生地もできたから、とセレから知らせがあったのよ。これであまりひらひらしないスカートと、同じ生地で、更に羽織る上着を作ろうと思うの」

 生地を手に取りつつ、確かに以前よりは元々の糸が細くなったのだ、と彼女達も納得する。

「春夏の、まだ暑くならない時にならいいですね。しっかりしている生地だし」
「でも、上着にするにはちょっと腰が無いんじゃないですか?」

 サミューリンは生地を曲げたり伸ばしたりしつつ問いかける。
 彼女にとってこの帝都で見かける上着は故郷のものと違い、だいたいきりっとしたものだったのだ。

「そう、それで試しに作ってみたのがこれ」

 大きな長めの襟と、広すぎない袖。
 前開き、胸より下で留める大きなボタン、両側のポケット。
 形そのものは男性の上着そのものと言っていい。
 だがそれが柔らかな生地に置き換わっただけで、印象はがらりと変わる。

「これは無地のスカートと同じものにするの。そうすると、中の…… シャツというにはどうなのかしらね、そもかく中の服の柄が引き立つんじゃないかと思って」

 で、とテンダーは付け足し、笑う。

「一着作ってみたの」

 え、と三人は驚いた。

「これは少し背の高い人の方が似合うと思うので、キリのサイズで作ってみたの。着てみて感想をぜひ。あ、中には色の暗いシャツを着てね」

 え、え、え、と戸惑いつつ、キリは押しつけられた上下と、その場で見繕った紺色のシャツを手にする。
 何かと工房では自身の身体で試すことが多いので、彼女はその場であっさりと着ていた服を脱ぐと、手早く三点を身に付ける。

「……案外足がちゃんと動くんですね」

 細めのスカートを履きながらキリは驚く。

「見た感じでは足が入るのか心配だったんですけど」
「そこは抜かりないわ。動けない服じゃいけないのよ。少なくともこの工房では。上着はどう?」

 キリは少し考えると、腕をぐるぐると回してみる。

「そうですね。確かに動かしやすい…… それに、妙な動きをしてもシワにならないんですね」
「あ、そうか! きりっとしない分、シワにもなりにくいんですね!」
「そ。と言うか、そもそも形をきっちりさせない、というのがこの上着の目的。肩が凝らない上着よ。それと中のシャツが色柄だったらそれはそれで映えると思うの。だからこれを色変わりの上下で沢山揃えてみたらどうかと思うの」
「濃い色で作った場合は、中のシャツが淡い色ならいいんじゃないですか?」
「そうね。でもとりあえずまだ濃い色の見本が来ていないの。その辺りはセレをせっついてみるわ」
「テンダー様、それでもあまりにもたらん、としすぎるところには留めることができる様にボタンを用意した方が」
「そうね、その辺りはポーレのセンスに任せるわ」

 え、と戸惑うポーレにテンダーは笑顔で。

「的確な指示じゃあなくって?」
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