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155 世代交代の時期⑥独立の準備
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少女達が来たことで幾つか工房に具体的な変化が訪れた。
まず彼女達は、実にポーレの教えをよく聞いたこと。
結果として、ポーレが一人でする分を二人ならあっさりと会得してしまったのだ。
「だからもう少しエイザンさんと会ってらっしゃいよ」
そんなテンダーやカメリアの言葉にポーレは微妙な表情をしたが、やがて外出が多くなった。
「何たって、ポーレももう二十代の真ん中も過ぎてしまったし。結婚するならそろそろ急いだ方がいいと思うわ」
「全くです叔母様。……私もあまりにもポーレに頼りすぎました。とは言え、私自身家事ができるという訳ではないので、もし結婚したら、の時のことと、独立するならどんな規模のものにするのかは考えておかないと」
だがポーレの気持ちを後で聞くと。
「結婚しようが仕事は続けます! 確かに貴女のことは放っておけませんが、他の雑役女中に全部任せるのもしゃくに障りますし」
「え、そこ?」
「そうですよ」
ふん、と鼻息荒くボーレはテンダーに向かい。
「私はそもそも一生テンダー様に仕えるために育ってきたんですから。結果として今縫製の仕事もできる様になりましたけど、それはあくまで結果で! 貴女が領主だったら領主の側近なり侍女なりになることを考えていたので、結婚したからって逃げられるとは思わないで下さいね」
「でも結婚して、子供も」
「そりゃ作りますよ。だからその時には、私のやり方を仕込んだ雑役女中を代わりに置きますし。だいたいテンダー様、独立して、小さい店のままでやっていくつもりですか? 私のことを思うなら、雑役女中一人で済む様な規模ではない工房に広げてくださいよ」
「で、でも最初は」
「だから、時間は充分あるでしょう? そして私でなくとも、ほら、あの子達の様に教えればできる人材を入れればいいんですよ。でも私という存在は、貴女にとって一人でしょう? その位置にずっと居たい、ということと、私の結婚は別です」
「そ、そうなの」
思わずテンダーは気圧されてしまった。
「で、独立するための工房の場所とか、考えているんですか?」
「――宛てはまあ、無い訳ではないわ」
大きくテンダーは頷いた。
*
「え、ここでいいの?」
エンジュは示された帳簿を見て思わず顔を上げ、友の顔をまじまじと見た。
財閥内不動産の持つ幾つもの空き店舗の中でも、それは格別小さなものだったのだ。
「こんな小さいところでできるの?」
「今の私なら、大きさはそれで充分。それに、何と言ってもここは『123』のすぐ側だし」
言葉の通り。
テンダーは、「123」のすぐ側にある、三階建ての細長い建物を借り入れたいと友に願った。
提供する、というエンジュに対し、テンダーはあくまで借りる、という形を故事した。
「今まで叔母様の工房ってことで、どうも私自身今一つ自分の服を『売る』ことに無頓着だった部分が多いのよ。だから援助してくれるってのは嬉しいけど、それはあくまでいつか返すものでいたいの」
「まあ、貴女らしいけど」
人の援助はありがたい。
だがそこで紐付きになってしまうのが怖い、ということはさすがにそこではテンダーも言わなかった。
無条件の出資者となると、どうしても何かしらの希望を入れなくてはならなくなる可能性はある。
「むしろ貴女の雑誌で取り上げてもらうことの方がずっと大きい――それに、前に言った件、どう? 編集会議で」
「ああ、あのこと」
それは「友」の中にある程度流行の服を自身で作成できる様な縫製教室の様なページを作ることだった。
「叔母様がこの先誰かしらに教える塾を開こうとしているし、私の服だったら割と素人でも似たものは作ることができるのよね」
「でもそんなことしたら、貴女の工房の売り上げに響かない?」
「や、それは逆だと思うの。作り方が出ていると言っても、だからと言って必ずできるとは限らないし、出ているからこそ着てみたくなる、っていうのもあると思うのね」
ふうむ、とエンジュは頷いた。
「ちょっとその辺りも皆の意見を聞いてみるわ。私の感覚では分からない部分もあるしね」
「是非お願い」
まず彼女達は、実にポーレの教えをよく聞いたこと。
結果として、ポーレが一人でする分を二人ならあっさりと会得してしまったのだ。
「だからもう少しエイザンさんと会ってらっしゃいよ」
そんなテンダーやカメリアの言葉にポーレは微妙な表情をしたが、やがて外出が多くなった。
「何たって、ポーレももう二十代の真ん中も過ぎてしまったし。結婚するならそろそろ急いだ方がいいと思うわ」
「全くです叔母様。……私もあまりにもポーレに頼りすぎました。とは言え、私自身家事ができるという訳ではないので、もし結婚したら、の時のことと、独立するならどんな規模のものにするのかは考えておかないと」
だがポーレの気持ちを後で聞くと。
「結婚しようが仕事は続けます! 確かに貴女のことは放っておけませんが、他の雑役女中に全部任せるのもしゃくに障りますし」
「え、そこ?」
「そうですよ」
ふん、と鼻息荒くボーレはテンダーに向かい。
「私はそもそも一生テンダー様に仕えるために育ってきたんですから。結果として今縫製の仕事もできる様になりましたけど、それはあくまで結果で! 貴女が領主だったら領主の側近なり侍女なりになることを考えていたので、結婚したからって逃げられるとは思わないで下さいね」
「でも結婚して、子供も」
「そりゃ作りますよ。だからその時には、私のやり方を仕込んだ雑役女中を代わりに置きますし。だいたいテンダー様、独立して、小さい店のままでやっていくつもりですか? 私のことを思うなら、雑役女中一人で済む様な規模ではない工房に広げてくださいよ」
「で、でも最初は」
「だから、時間は充分あるでしょう? そして私でなくとも、ほら、あの子達の様に教えればできる人材を入れればいいんですよ。でも私という存在は、貴女にとって一人でしょう? その位置にずっと居たい、ということと、私の結婚は別です」
「そ、そうなの」
思わずテンダーは気圧されてしまった。
「で、独立するための工房の場所とか、考えているんですか?」
「――宛てはまあ、無い訳ではないわ」
大きくテンダーは頷いた。
*
「え、ここでいいの?」
エンジュは示された帳簿を見て思わず顔を上げ、友の顔をまじまじと見た。
財閥内不動産の持つ幾つもの空き店舗の中でも、それは格別小さなものだったのだ。
「こんな小さいところでできるの?」
「今の私なら、大きさはそれで充分。それに、何と言ってもここは『123』のすぐ側だし」
言葉の通り。
テンダーは、「123」のすぐ側にある、三階建ての細長い建物を借り入れたいと友に願った。
提供する、というエンジュに対し、テンダーはあくまで借りる、という形を故事した。
「今まで叔母様の工房ってことで、どうも私自身今一つ自分の服を『売る』ことに無頓着だった部分が多いのよ。だから援助してくれるってのは嬉しいけど、それはあくまでいつか返すものでいたいの」
「まあ、貴女らしいけど」
人の援助はありがたい。
だがそこで紐付きになってしまうのが怖い、ということはさすがにそこではテンダーも言わなかった。
無条件の出資者となると、どうしても何かしらの希望を入れなくてはならなくなる可能性はある。
「むしろ貴女の雑誌で取り上げてもらうことの方がずっと大きい――それに、前に言った件、どう? 編集会議で」
「ああ、あのこと」
それは「友」の中にある程度流行の服を自身で作成できる様な縫製教室の様なページを作ることだった。
「叔母様がこの先誰かしらに教える塾を開こうとしているし、私の服だったら割と素人でも似たものは作ることができるのよね」
「でもそんなことしたら、貴女の工房の売り上げに響かない?」
「や、それは逆だと思うの。作り方が出ていると言っても、だからと言って必ずできるとは限らないし、出ているからこそ着てみたくなる、っていうのもあると思うのね」
ふうむ、とエンジュは頷いた。
「ちょっとその辺りも皆の意見を聞いてみるわ。私の感覚では分からない部分もあるしね」
「是非お願い」
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