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143 さすがに元凶に話を付けに行こう⑥
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「な、何を言っているの! テンダー! せっかく心を入れ替えてうちへ戻ってきたと思ったのに……」
「入れ替え? 何のことです? ああそうでした、変だと思ったんですよね、お母様、貴女が私の名を自発的に呼ぶなんてこと無かったはずだし」
「そんなことは無いわ、貴女の記憶違いよ」
「残念ながら私、あなた方、特に貴女に無視され続けたことは頭に刻みつけられているんですよ。忘れたくともひょっこり何かの拍子に出てくる程度には。それとも早めにお呆けになりましたか?」
「……まあこの娘は何ってこと言うの!」
「アンジーはもう見放したんですか? 貴女の大好きな綺麗な娘で無くなったから。テスも生まれた時に可愛くなかったから、また居ないことにしたんですよね」
「綺麗なものが好きで何が悪いの!」
「いえいえ別に好きであることは悪くありませんよ。でもアンジーをそれで甘やかしすぎた結果、あんな風に体型まで変わってしまったのに、貴女はそこで見放したんですよね? ぶくぶく膨れたアンジーは見たくないとでも?」
「当然でしょう」
その言葉に後ろで聞いていたタンダがギリっと歯噛みした。気を静める様にファン医師は手で合図する。
「では今私の目の前に居る貴女自身に対してはどうですか?」
テンダーは母親を鏡台の前に引き立てた。
「私の目から見ても、貴女はとても綺麗な方でした。態度がどうあれ、行動がどうあれ、貴女の容姿はとても綺麗でした。それは確かな事実。でも今はどうです?」
ぐい、と鏡に焦点が合うぎりぎりのところまで近づける。
「目を大きく見開いてよく見て下さい」
「……や、止めて」
常に働いているテンダーの力に、母親は敵わない。
目を伏せたい。
だが押さえつけられているその力に、鏡の中の自分が目を閉じたら何をされるのか分からないという恐怖。
結果、見たくないものが鏡の中に現れる。
「私が遠目で見たことのあるお母様は本当に美しい人でした。ですがどうです? 分厚く塗り固めた化粧が無くてはもう肌全体に小じわが広がり、貴女の本当の歳より老けて見えます。危険だからと廃番になった化粧品のせい? それだけですか?」
「そいつぁこいつのせいでもあるな」
ファン医師はタンダが投げた香炉を拾い上げて言う。
「気持ち良くなりたいという気持ちは誰だってあるがな、そんなのは自分一人の時にしておけ。子供が居る場所で焚くなんぞどうかしてる」
「ぶ、無礼な……」
「無礼上等。俺は貴族どうこうの前に医者だ。夫人、あんたの娘に俺は頼まれてやってきた。ああ、その化粧落とした顔見りゃ一発で分かるな。酷い隈、こけた頬、肌の老化、唇もカサカサだ。中毒性のある香にはそれなりに毒も含まれているのさ。あんたは美を追究していたんだよな? けどな、美のためには知識も必要なんだぜ」
あああああああ、と母親はその場に崩れ落ちた。
「さようならお母様。貴女のもとに置いたらシフォンは第二のアンジーになってしまう。いえ、その前に子供のうちに死んでしまうかもしれませんわね」
「テンダー…… もうそのくらいにしておいてくれ」
父伯爵の声がした。
「ええ。別に言っても聞いてくれるひとではないでしょう? だから突きつけたんですよ。アンジーと同じく。お父様、この方はもう病院に入れて下さい。お父様が逃げているうちに、皮膚が化粧品のせいで酷いことになっていますし、強い香の中毒にもなっていますから」
「わかった。私はもう実務からは引退する。お前達の母親をこれからは監視していく。領地の方はクライドに伯爵代行をしてもらう」
「伯爵ではないのですか?」
「うちの血を継いではいないからな。あくまで繋ぎだ。当人も納得している」
「本当に?」
「うちあたりの爵位を継いで資産をどうこうしたところで、さして益は無いと彼は踏んでいるのだろう。次の伯爵はテスだ。なあテンダー、お前が預けたいと言うのは、以前働き口もあると言った辺境領のことか?」
「ええ。遠く離れていますが、誰よりも信用できる友。そしてあの地では子供がのびのびと育つことができます。ですので」
「何だ?」
「二人への仕送りも当然ですが、向こうにうちからも何かしらの仕事を発注して下さい。私達の工房でも向こうの手編みレースは重宝しています。男達の作業としては木工細工も盛んです。冬の間の向こうの手作業は重要な現金収入なのです」
「……検討しよう」
頼みます、とテンダーは父親にぴしりと言った。
「入れ替え? 何のことです? ああそうでした、変だと思ったんですよね、お母様、貴女が私の名を自発的に呼ぶなんてこと無かったはずだし」
「そんなことは無いわ、貴女の記憶違いよ」
「残念ながら私、あなた方、特に貴女に無視され続けたことは頭に刻みつけられているんですよ。忘れたくともひょっこり何かの拍子に出てくる程度には。それとも早めにお呆けになりましたか?」
「……まあこの娘は何ってこと言うの!」
「アンジーはもう見放したんですか? 貴女の大好きな綺麗な娘で無くなったから。テスも生まれた時に可愛くなかったから、また居ないことにしたんですよね」
「綺麗なものが好きで何が悪いの!」
「いえいえ別に好きであることは悪くありませんよ。でもアンジーをそれで甘やかしすぎた結果、あんな風に体型まで変わってしまったのに、貴女はそこで見放したんですよね? ぶくぶく膨れたアンジーは見たくないとでも?」
「当然でしょう」
その言葉に後ろで聞いていたタンダがギリっと歯噛みした。気を静める様にファン医師は手で合図する。
「では今私の目の前に居る貴女自身に対してはどうですか?」
テンダーは母親を鏡台の前に引き立てた。
「私の目から見ても、貴女はとても綺麗な方でした。態度がどうあれ、行動がどうあれ、貴女の容姿はとても綺麗でした。それは確かな事実。でも今はどうです?」
ぐい、と鏡に焦点が合うぎりぎりのところまで近づける。
「目を大きく見開いてよく見て下さい」
「……や、止めて」
常に働いているテンダーの力に、母親は敵わない。
目を伏せたい。
だが押さえつけられているその力に、鏡の中の自分が目を閉じたら何をされるのか分からないという恐怖。
結果、見たくないものが鏡の中に現れる。
「私が遠目で見たことのあるお母様は本当に美しい人でした。ですがどうです? 分厚く塗り固めた化粧が無くてはもう肌全体に小じわが広がり、貴女の本当の歳より老けて見えます。危険だからと廃番になった化粧品のせい? それだけですか?」
「そいつぁこいつのせいでもあるな」
ファン医師はタンダが投げた香炉を拾い上げて言う。
「気持ち良くなりたいという気持ちは誰だってあるがな、そんなのは自分一人の時にしておけ。子供が居る場所で焚くなんぞどうかしてる」
「ぶ、無礼な……」
「無礼上等。俺は貴族どうこうの前に医者だ。夫人、あんたの娘に俺は頼まれてやってきた。ああ、その化粧落とした顔見りゃ一発で分かるな。酷い隈、こけた頬、肌の老化、唇もカサカサだ。中毒性のある香にはそれなりに毒も含まれているのさ。あんたは美を追究していたんだよな? けどな、美のためには知識も必要なんだぜ」
あああああああ、と母親はその場に崩れ落ちた。
「さようならお母様。貴女のもとに置いたらシフォンは第二のアンジーになってしまう。いえ、その前に子供のうちに死んでしまうかもしれませんわね」
「テンダー…… もうそのくらいにしておいてくれ」
父伯爵の声がした。
「ええ。別に言っても聞いてくれるひとではないでしょう? だから突きつけたんですよ。アンジーと同じく。お父様、この方はもう病院に入れて下さい。お父様が逃げているうちに、皮膚が化粧品のせいで酷いことになっていますし、強い香の中毒にもなっていますから」
「わかった。私はもう実務からは引退する。お前達の母親をこれからは監視していく。領地の方はクライドに伯爵代行をしてもらう」
「伯爵ではないのですか?」
「うちの血を継いではいないからな。あくまで繋ぎだ。当人も納得している」
「本当に?」
「うちあたりの爵位を継いで資産をどうこうしたところで、さして益は無いと彼は踏んでいるのだろう。次の伯爵はテスだ。なあテンダー、お前が預けたいと言うのは、以前働き口もあると言った辺境領のことか?」
「ええ。遠く離れていますが、誰よりも信用できる友。そしてあの地では子供がのびのびと育つことができます。ですので」
「何だ?」
「二人への仕送りも当然ですが、向こうにうちからも何かしらの仕事を発注して下さい。私達の工房でも向こうの手編みレースは重宝しています。男達の作業としては木工細工も盛んです。冬の間の向こうの手作業は重要な現金収入なのです」
「……検討しよう」
頼みます、とテンダーは父親にぴしりと言った。
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