〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
84 / 208

83 婚約者に妹が突撃する①

しおりを挟む
 アンジーは官立第四女学校の夏期休暇や冬季休暇になると戻ってきた。
 私はできるだけ顔を合わせない様に、その期間は領地の辺りで過ごしていたのだが、なかなかずっとその様にはいかなかった。
 アンジーが夏期休暇や冬季休暇ということは、やはり学校に行っているクライドさんも休みになるということだ。
 さすがにいつもいつも用事があるとばかり言っていられない。
 下手に拒否していても仕方がない。

 ということで、彼の親戚方に会った後、西の対に招待することにした。
 庭師もフィリアも何やら浮かれた様子でその席を用意していた。
 ポーレは私の目論見を知っているので浮かれてはいなかった。
 とは言え、それを顔に出す程でも無かった。

 約束の日と時間に、几帳面な彼は馬車でやってきた。
 私は本館の二階から彼の乗った馬車が門を通り抜けて来る様子を眺めていたのだが。
 馬車の音に気付いたのか、東の対の窓から身体を乗り出す綿菓子頭が見えた。
 見えたと思ったらすぐに消えたその姿は、瞬く間に東の対の出入り口から庭へと飛び出してきた。
 いやもう、またいっそう足が速くなったものだ。
 帝都の学校では本当によくあちこちを歩いているに違いない。
 実家ということでアンジーはここぞとばかりに綺麗なドレスを身につけていた。
 つまり第四の制服よりは非常に動きにくいはずなのだが……
 息も荒げず、裾も乱さず、如何にも前庭を散歩していました、という体で歩くその姿は実に見事だ。
 私には無理なその立ち回りに、思わず拍手したくなる思いだった。
 とりあえず私は階下に下りて、客人を待つ体勢を整えた。
 ジョージも、他の使用人もそのことは知っていて、西の対へ案内する準備はできていた。
 だがなかなか玄関の方へ客人がやって来ない。

「ど、どうしたのでしょう」

 ジョージはおそるおそる扉を開けて確認した。
 そしてすぐに私の方へと向き直り。

「……あ、あれをご覧下さい」

 そう言って皆で車回しの方へと足を伸ばした。
 案の定、そこにたどり着く前に、妹の素早い足は我が家の門から玄関の間で馬車を止めていた。

「いらっしゃいまし! お父様かお母様のお客様でしょうか?」

 また実に通る声が聞こえてきた。
 それに対して馬車の中の相手がどう答えているのかまでは聞こえなかった。

「ど…… どう致しましょうか」
「まあ、ゆっくり待ちましょう」
「良いのですか?」

 ジョージは私と向こうを交互に見ながら冷や汗をたらたらと流していた。

「ああいう状態のアンジーを誰が止められるっていうの? ああ、お母様は今日は?」
「特に御用事も無く。ですからアンジー様が飛び出したということは」

 遠くから妹の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
 母もまた、東の対から出てきた様だった。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...