〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

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79 コルセットの件について婚約者に聞いてみた

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 彼はぽかんとしていた。
 藪から棒に何だとばかりに、カップを手に持ったまま数秒固まっていた。

「ドレス…… ですか?」
「はい」
「あまり気にしたことはないですね」

 彼はカップに口をつけた。

「ではコルセットについては?」

 続けざまの質問に、彼は吹き出した。

「し、失礼」

 慌てて胸ポケットから大きなハンカチを出し、テーブルと自身の膝を拭いた。

「い、いえ私も唐突すぎることを。すみません。そう言えばコルセットは女性の下着でしたね。とても男性にする質問ではありませんでした」
「え、ええ…… でも一体何故?」

 ようやく色々収まったのか、彼は私に問いかけた。

「いえ、叔母が帝都でドレスの工房をやっているのですが、コルセットは必要なのか? 砂時計型のあのラインは本当に美しいのか? 何故あんな苦しい思いをしなくてはならないのか? という話をしたことがありまして。それがずっと頭の中に残っておりまして」
「ドレス工房…… なるほど」
「男性の目から見て、あの形のドレスは魅力的なのですか?」
「うーん……」

 彼は考え込んだ。

「正直あまり考えたことが無かったので、どう答えたものだか」
「では、夜会などで華やかな女性がぱっと現れた時、まず何処を見ますか?」

 質問を変えてみた。

「それはまず顔ですね」
「顔」
「やはりまず、どんな人であるのか覚えなくてはならないですから。その女性を観察するかどうかは、その後の話です」
「なるほど。ではもし夜会の女性達のドレスがすとーん、とまっすぐな形をしていたらどう思います?」
「ああ、また流行が変わったな、と」
「流行」
「そうじゃないですか? 女性は流行のものを欲しがるものですし…… あ、いや、それは従姉妹とかの話ですが」

 これは興味深いと思った。
 男の視線を気にして締めているのか、とそれまで私は何となく思っていたのだ。
 再び西の対に暮らす様になった私は図書室の本をなお一層読む様になった。
 すると、古い本の挿絵では、胸下で締めているドレスやら、下着の様な形の服が出てきた。
 かと思えば、今よりずっと腰を締めて、なかおつスカートの下に輪の様なものを入れて広げている時代もあったらしい。
 そして、両親の出会った時代の写真には、腰だけ妙に突きだしたドレスもあった。
 だが共に写っている祖母は砂時計型に近い。
 なるほど流行か。

「従姉妹の方々とはよく会われるのですか?」

 私は尋ねた。
 我が家の女性の社交は母が取り仕切っていて、私の出る幕は無い。
 母は妹を休みになると連れ回してきた。
 厄介な噂というものが出ていたとしても、母には気にならないのだろう。
 相変わらずアンジーは母にとって可愛い娘で、あちこちに紹介すべき誇れるものらしい。
 だから、別ルートの女性の社交場を知りたいと思った。
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