80 / 208
79 コルセットの件について婚約者に聞いてみた
しおりを挟む
彼はぽかんとしていた。
藪から棒に何だとばかりに、カップを手に持ったまま数秒固まっていた。
「ドレス…… ですか?」
「はい」
「あまり気にしたことはないですね」
彼はカップに口をつけた。
「ではコルセットについては?」
続けざまの質問に、彼は吹き出した。
「し、失礼」
慌てて胸ポケットから大きなハンカチを出し、テーブルと自身の膝を拭いた。
「い、いえ私も唐突すぎることを。すみません。そう言えばコルセットは女性の下着でしたね。とても男性にする質問ではありませんでした」
「え、ええ…… でも一体何故?」
ようやく色々収まったのか、彼は私に問いかけた。
「いえ、叔母が帝都でドレスの工房をやっているのですが、コルセットは必要なのか? 砂時計型のあのラインは本当に美しいのか? 何故あんな苦しい思いをしなくてはならないのか? という話をしたことがありまして。それがずっと頭の中に残っておりまして」
「ドレス工房…… なるほど」
「男性の目から見て、あの形のドレスは魅力的なのですか?」
「うーん……」
彼は考え込んだ。
「正直あまり考えたことが無かったので、どう答えたものだか」
「では、夜会などで華やかな女性がぱっと現れた時、まず何処を見ますか?」
質問を変えてみた。
「それはまず顔ですね」
「顔」
「やはりまず、どんな人であるのか覚えなくてはならないですから。その女性を観察するかどうかは、その後の話です」
「なるほど。ではもし夜会の女性達のドレスがすとーん、とまっすぐな形をしていたらどう思います?」
「ああ、また流行が変わったな、と」
「流行」
「そうじゃないですか? 女性は流行のものを欲しがるものですし…… あ、いや、それは従姉妹とかの話ですが」
これは興味深いと思った。
男の視線を気にして締めているのか、とそれまで私は何となく思っていたのだ。
再び西の対に暮らす様になった私は図書室の本をなお一層読む様になった。
すると、古い本の挿絵では、胸下で締めているドレスやら、下着の様な形の服が出てきた。
かと思えば、今よりずっと腰を締めて、なかおつスカートの下に輪の様なものを入れて広げている時代もあったらしい。
そして、両親の出会った時代の写真には、腰だけ妙に突きだしたドレスもあった。
だが共に写っている祖母は砂時計型に近い。
なるほど流行か。
「従姉妹の方々とはよく会われるのですか?」
私は尋ねた。
我が家の女性の社交は母が取り仕切っていて、私の出る幕は無い。
母は妹を休みになると連れ回してきた。
厄介な噂というものが出ていたとしても、母には気にならないのだろう。
相変わらずアンジーは母にとって可愛い娘で、あちこちに紹介すべき誇れるものらしい。
だから、別ルートの女性の社交場を知りたいと思った。
藪から棒に何だとばかりに、カップを手に持ったまま数秒固まっていた。
「ドレス…… ですか?」
「はい」
「あまり気にしたことはないですね」
彼はカップに口をつけた。
「ではコルセットについては?」
続けざまの質問に、彼は吹き出した。
「し、失礼」
慌てて胸ポケットから大きなハンカチを出し、テーブルと自身の膝を拭いた。
「い、いえ私も唐突すぎることを。すみません。そう言えばコルセットは女性の下着でしたね。とても男性にする質問ではありませんでした」
「え、ええ…… でも一体何故?」
ようやく色々収まったのか、彼は私に問いかけた。
「いえ、叔母が帝都でドレスの工房をやっているのですが、コルセットは必要なのか? 砂時計型のあのラインは本当に美しいのか? 何故あんな苦しい思いをしなくてはならないのか? という話をしたことがありまして。それがずっと頭の中に残っておりまして」
「ドレス工房…… なるほど」
「男性の目から見て、あの形のドレスは魅力的なのですか?」
「うーん……」
彼は考え込んだ。
「正直あまり考えたことが無かったので、どう答えたものだか」
「では、夜会などで華やかな女性がぱっと現れた時、まず何処を見ますか?」
質問を変えてみた。
「それはまず顔ですね」
「顔」
「やはりまず、どんな人であるのか覚えなくてはならないですから。その女性を観察するかどうかは、その後の話です」
「なるほど。ではもし夜会の女性達のドレスがすとーん、とまっすぐな形をしていたらどう思います?」
「ああ、また流行が変わったな、と」
「流行」
「そうじゃないですか? 女性は流行のものを欲しがるものですし…… あ、いや、それは従姉妹とかの話ですが」
これは興味深いと思った。
男の視線を気にして締めているのか、とそれまで私は何となく思っていたのだ。
再び西の対に暮らす様になった私は図書室の本をなお一層読む様になった。
すると、古い本の挿絵では、胸下で締めているドレスやら、下着の様な形の服が出てきた。
かと思えば、今よりずっと腰を締めて、なかおつスカートの下に輪の様なものを入れて広げている時代もあったらしい。
そして、両親の出会った時代の写真には、腰だけ妙に突きだしたドレスもあった。
だが共に写っている祖母は砂時計型に近い。
なるほど流行か。
「従姉妹の方々とはよく会われるのですか?」
私は尋ねた。
我が家の女性の社交は母が取り仕切っていて、私の出る幕は無い。
母は妹を休みになると連れ回してきた。
厄介な噂というものが出ていたとしても、母には気にならないのだろう。
相変わらずアンジーは母にとって可愛い娘で、あちこちに紹介すべき誇れるものらしい。
だから、別ルートの女性の社交場を知りたいと思った。
60
お気に入りに追加
2,555
あなたにおすすめの小説

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる