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第23話 「死んだら、怒るぞ」
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奇襲の知らせを受けたのは、まだ陽も昇らぬ早朝だった。
彼はそれを聞くと、仮眠していたベッドから跳ね起きた。
出発が、迫っていた。
用意された船は、既に燃料をも積み込まれ、後は乗組員それぞれの用意だけだった。
「そんな余裕はない」
あの首領の乾いた声が全体に命令をかける。
「身一つでいい、いますぐ配置につけ!」
自分ですら、一瞬その命令に従ってしまいそうな、その声が、大きくも小さくもないが、響きわたる。長い髪をなびかせて、キムもまた自分の職務を全うすべく、武器を持ち出していた。奇襲なら、兵士の役目は一つしかない。
では自分は。
Gは迷った。その様子を見て、キムは無造作に近くにあった銃と長剣を放った。危ないじゃないか、と思いつつも、Gはそれを器用に受け取る。
「暇なら来いよ」
指を立てて、レプリカントは彼を誘う。短いが、その中に含まれたものは大きかった。
奇襲をかけてくるなら、それは自分の居た軍なのだ。裏切った時、既に銃を直接向ける覚悟はできているはずなのだ。キムは無言で自分を責める。Gは銃と剣を握りしめた。
大丈夫、俺は生き残る。
彼は自分に向かって内心つぶやく。
俺は「優秀な兵士」なんだから。
*
人員は必要ではなかった。必要なのは多数の機械とトラップ。
それが彼の得意とする戦法であり、効果的なものでもあった。
もともと彼は自分が軍隊という組織の中で機能するよりは、ゲリラ的に動き回る方が合っていることを知っていた。ただ彼の居る状況が、それをさせなかっただけだった。
鷹は飛ばした制電波機材が正常に機能していることを確認してから、幾つかの小型のメカニクルにトラップを仕掛けさせた。
そんな彼の戦法に対して、そういう方法が好きだという彼に、年下の友人はよくこう言っていた。
「それじゃまるであんた、実は誰も信用してないみたいじゃない」
そうかもしれない、と彼は内心つぶやく。
確かに人当たりはいいし、要領もいい。多少型破りのところがあっても、それは常識の許容範囲にとどめている。
だからまず居る組織の中で、強烈に拒否されることも、嫌われることもないだろう、と考えている。
そうなるようにしてきた。好かれることが大半だった。彼を慕う下士官にせよ、彼の行動が多少型破りでも、それを「仕方ないな」と見逃す上官にしても。それはあくまで彼の計算範囲だったから。
だが、あの友人だけは別だった。
違うのだ。
確かにある程度、自分の思うようになる所もあった。
だけど、それ以前に、彼にも踏み入れることのできない何かを、ずっとその中に抱え込んでいた。それに気付いたから、惹かれて、手に入れたいと思った。手に入れて、その関係を崩すことを、怖れた。
怖れたのは、そこに終わりがあることを知っていたからだ。
最初から。彼は知っていた。
この関係には終わりがあるのだ。これで何かまた、自分たちが近づくことがあったにせよ、それは、今までと同じことにはならない。
それは、仕方がないことなのだ。
―――トラップの信号が、手にした小型のプレートに点滅する。
ここまでやってこい、と彼は思う。
そうしたら、俺の手で墜としてやるから。
*
爆発音が、近くで起こった。Gは辺りを見渡す。兵の姿は何処にもない。ファクトリィの敷地内には、高い建物もないから、見晴らしは良い。隠れる所は少ない。
「今の爆発の原因は何?」
キムは誰かと連絡を取っているようにつぶやく。
「判った」
「何だって?」
「アファンダ製の起爆剤をベースにした…」
また一つ、爆音が、響く。確かにそこには何もない。
「おかしいんだよG。何処にも、兵士の気配はないんだ」
「気配がない?」
「『覚めた』レプリカントには、ある程度の感応力があるんだ」
無言の通信は、テレパシイだったのか、とGは気付く。
「トラップか?」
「だと、思う」
トラップ。人の気配はない。その戦法は、彼に友人の存在を思い出させた。
また一つ、爆音が響く。
「…え? 何?」
誰かが交信してきたようだった。キムはやや表情を歪める。
「どうしたの」
「出発の準備ができたって。撤収がかかった」
「撤収ったって、これじゃお前、身動きが取れないじゃないか」
トラップは、彼等が船にたどり着くまでのルートにも、明らかに存在していた。冗談じゃないと思う程の量を、ふんだんに使う、この方法。
Gははあ、と大きく息をついて、両手で顔を覆った。
誰が、友人に命じたのかは、容易に想像がつく。自分がこの舞台から、とりあえずの退場をさせるため、あのひとは、友人を派遣したのだ。
そしておそらくは友人をも。
どうしたの、とキムの声が耳に届く。指のすきまからのぞき込むと、心配そうな顔で自分を見ている。
「キム」
「何」
「今から俺の言うこと、聞いてくれ」
「聞いてるよ」
「最後の願いだ。聞いてくれよ」
「聞くよ! 最後なんて言うんじゃない!」
彼は顔から手を外し、目を伏せる。
「仲間に聞いてくれないか、どのあたりにトラップがあったか、感じられるか」
「あ? …うん」
訝しげな顔をしながらも、キムは言われる通りに仲間と連絡を取った。Gは地面の上に、これまでしばらく過ごしてきたファクトリィの配置図を指で描く。ひどく頼りない図ではあったが、とりあえずの配置を知るには十分だった。
「ここが本館として」
キムは通信の結果を全部ではないけど、と言いながら小石で置いていく。やっぱりそうか、とGはやや眉をひそめる。
彼は全てのポイントを聞くと、その上に、転がっていた木ぎれで強く一本の曲線を描いた。
「じゃあ皆に伝えてくれ。こう歩けば、当たらないで、済む」
「G?」
キムは顔を上げた。
「奴なら、ここは仕掛けない」
「―――おいそれって」
「呼んでるんだよ、俺を」
彼は手にしていた木ぎれを強く地面に叩きつけた。ぺき、と軽い音がして、それは簡単に割れた。
「死ぬなよ」
「死ぬつもりはないよ。俺は」
「死んだら、怒るぞ」
彼はその言い方にやや苦笑しようとして、顔を上げた。そして驚いた。
目の前のレプリカントは、ひどく涙目になっていた。何やら、それを見て、彼はひどく胸が痛くなった。
そして、何やらひどく、嬉しくなった。彼はぽん、とキムの肩を叩くと、穏やかな声で告げた。
「怒られるのは、趣味じゃないよ」
うなづくと、キムは何処かへ通信を取った。すると必ずまた何処かで会おう、とキムを通じて首領の言葉が伝えられた。
Gはうなづくと、まだ涙目のままのキムの背中を押した。
*
彼が告げたポイントを避けて、そろりそろりと船に向かっていくレプリカント達を眺めながら、Gはひどく穏やかな気持ちになって、地面に一度置いた銃と長剣を取り上げていた。
星間最大のレプリカントのファクトリィの敷地は、それだけにやはり広かった。Gはその中を、友人のトラップを避けながら進んで行った。
生産する機械の音も、そこで働く人間の姿も、既にそこには何もなかった。その場を奪取したはずのレプリカント達は既にこの地を離れようとしている。既にそれは秒読みだ。
彼は不意に、銃を向けた。トラップが一機、彼を狙っていた。彼は冷静に、それを打ち抜いた。
露骨な程に、その仕掛け方は、友人のものだった。彼に判らせようとしているのが強烈な程に。
彼もまた、その有効な方法を何度か聞いたことがあり、そして有効に使ったこともある。
鷹は他の人間にそこまで詳しくは教えなかった。下手に教えて、自分の背中を撃たれるようなことがあってはたまらないから、とあの一見人当たりの良い友人は言っていた。
それじゃ俺ならいいの、とある夜彼が訊ねると、友人は笑いながら言ったものだった。
君がそうすることがあるんだったら、その前に俺が君を墜としてやるよ。
笑いながら。無論そんなことはないけどな、と付け足しながら。
でもそういうことはあってしまった。友人は、それを実行すべく出向いている。
だったら。
彼は銃を握りしめる。
俺は本気であんたに向かわなくてはならない。
何も今までが本気ではなかったという訳ではない。いつだって本気だった。相手が自分のことを本気で思ってくれるのが判っていたから、それには応えたつもりだった。
だけど。
彼は思う。
俺は結局自分の本心をあんたには言えなかった。
自分自身が、生きてることが、生きて行かなくてはならないことが、全て辛くて、できれば何処かで終わりを見つけたかった自分自身を。
それを白状すれば、きっと俺は少なからず楽にはなれたかもしれない。
だけどあんたには言えなかった。
言ったらおしまいだと思っていた。
終わりはあると思ってた。最初から。
だけど、あんたと居る、あの心地よい時が終わってしまうのは、俺はそれでも確かに惜しかったんだ。
ふ、と軽い風が吹いて、運搬用の広い道路にも、沿いに立つ木々の葉がかさかさと舞い始めていた。だが、その音が何かに遮られている。遠くで。
彼は目を凝らした。できれば見たくなかったものが、そこにはあった。
「何故だ?」
遠くからでも、あの友人の声は、よく聞こえる。
その声が耳に飛び込んだ瞬間、彼の全身は、確かに総毛立った。ああやっぱりいい声だ。誰よりも、俺が、感じた。最初に会った時から、俺の中身を全てかき回して、揺さぶった。
全身は、まだそれを覚えている。
なのに、心はそうではない。
あの司令を求めているのだ。あの司令の見る、既にそこにある未来を信じてしまうのだ。
彼はふらりと、両手で銃を上げた。それが、答えになる。
彼はそれを聞くと、仮眠していたベッドから跳ね起きた。
出発が、迫っていた。
用意された船は、既に燃料をも積み込まれ、後は乗組員それぞれの用意だけだった。
「そんな余裕はない」
あの首領の乾いた声が全体に命令をかける。
「身一つでいい、いますぐ配置につけ!」
自分ですら、一瞬その命令に従ってしまいそうな、その声が、大きくも小さくもないが、響きわたる。長い髪をなびかせて、キムもまた自分の職務を全うすべく、武器を持ち出していた。奇襲なら、兵士の役目は一つしかない。
では自分は。
Gは迷った。その様子を見て、キムは無造作に近くにあった銃と長剣を放った。危ないじゃないか、と思いつつも、Gはそれを器用に受け取る。
「暇なら来いよ」
指を立てて、レプリカントは彼を誘う。短いが、その中に含まれたものは大きかった。
奇襲をかけてくるなら、それは自分の居た軍なのだ。裏切った時、既に銃を直接向ける覚悟はできているはずなのだ。キムは無言で自分を責める。Gは銃と剣を握りしめた。
大丈夫、俺は生き残る。
彼は自分に向かって内心つぶやく。
俺は「優秀な兵士」なんだから。
*
人員は必要ではなかった。必要なのは多数の機械とトラップ。
それが彼の得意とする戦法であり、効果的なものでもあった。
もともと彼は自分が軍隊という組織の中で機能するよりは、ゲリラ的に動き回る方が合っていることを知っていた。ただ彼の居る状況が、それをさせなかっただけだった。
鷹は飛ばした制電波機材が正常に機能していることを確認してから、幾つかの小型のメカニクルにトラップを仕掛けさせた。
そんな彼の戦法に対して、そういう方法が好きだという彼に、年下の友人はよくこう言っていた。
「それじゃまるであんた、実は誰も信用してないみたいじゃない」
そうかもしれない、と彼は内心つぶやく。
確かに人当たりはいいし、要領もいい。多少型破りのところがあっても、それは常識の許容範囲にとどめている。
だからまず居る組織の中で、強烈に拒否されることも、嫌われることもないだろう、と考えている。
そうなるようにしてきた。好かれることが大半だった。彼を慕う下士官にせよ、彼の行動が多少型破りでも、それを「仕方ないな」と見逃す上官にしても。それはあくまで彼の計算範囲だったから。
だが、あの友人だけは別だった。
違うのだ。
確かにある程度、自分の思うようになる所もあった。
だけど、それ以前に、彼にも踏み入れることのできない何かを、ずっとその中に抱え込んでいた。それに気付いたから、惹かれて、手に入れたいと思った。手に入れて、その関係を崩すことを、怖れた。
怖れたのは、そこに終わりがあることを知っていたからだ。
最初から。彼は知っていた。
この関係には終わりがあるのだ。これで何かまた、自分たちが近づくことがあったにせよ、それは、今までと同じことにはならない。
それは、仕方がないことなのだ。
―――トラップの信号が、手にした小型のプレートに点滅する。
ここまでやってこい、と彼は思う。
そうしたら、俺の手で墜としてやるから。
*
爆発音が、近くで起こった。Gは辺りを見渡す。兵の姿は何処にもない。ファクトリィの敷地内には、高い建物もないから、見晴らしは良い。隠れる所は少ない。
「今の爆発の原因は何?」
キムは誰かと連絡を取っているようにつぶやく。
「判った」
「何だって?」
「アファンダ製の起爆剤をベースにした…」
また一つ、爆音が、響く。確かにそこには何もない。
「おかしいんだよG。何処にも、兵士の気配はないんだ」
「気配がない?」
「『覚めた』レプリカントには、ある程度の感応力があるんだ」
無言の通信は、テレパシイだったのか、とGは気付く。
「トラップか?」
「だと、思う」
トラップ。人の気配はない。その戦法は、彼に友人の存在を思い出させた。
また一つ、爆音が響く。
「…え? 何?」
誰かが交信してきたようだった。キムはやや表情を歪める。
「どうしたの」
「出発の準備ができたって。撤収がかかった」
「撤収ったって、これじゃお前、身動きが取れないじゃないか」
トラップは、彼等が船にたどり着くまでのルートにも、明らかに存在していた。冗談じゃないと思う程の量を、ふんだんに使う、この方法。
Gははあ、と大きく息をついて、両手で顔を覆った。
誰が、友人に命じたのかは、容易に想像がつく。自分がこの舞台から、とりあえずの退場をさせるため、あのひとは、友人を派遣したのだ。
そしておそらくは友人をも。
どうしたの、とキムの声が耳に届く。指のすきまからのぞき込むと、心配そうな顔で自分を見ている。
「キム」
「何」
「今から俺の言うこと、聞いてくれ」
「聞いてるよ」
「最後の願いだ。聞いてくれよ」
「聞くよ! 最後なんて言うんじゃない!」
彼は顔から手を外し、目を伏せる。
「仲間に聞いてくれないか、どのあたりにトラップがあったか、感じられるか」
「あ? …うん」
訝しげな顔をしながらも、キムは言われる通りに仲間と連絡を取った。Gは地面の上に、これまでしばらく過ごしてきたファクトリィの配置図を指で描く。ひどく頼りない図ではあったが、とりあえずの配置を知るには十分だった。
「ここが本館として」
キムは通信の結果を全部ではないけど、と言いながら小石で置いていく。やっぱりそうか、とGはやや眉をひそめる。
彼は全てのポイントを聞くと、その上に、転がっていた木ぎれで強く一本の曲線を描いた。
「じゃあ皆に伝えてくれ。こう歩けば、当たらないで、済む」
「G?」
キムは顔を上げた。
「奴なら、ここは仕掛けない」
「―――おいそれって」
「呼んでるんだよ、俺を」
彼は手にしていた木ぎれを強く地面に叩きつけた。ぺき、と軽い音がして、それは簡単に割れた。
「死ぬなよ」
「死ぬつもりはないよ。俺は」
「死んだら、怒るぞ」
彼はその言い方にやや苦笑しようとして、顔を上げた。そして驚いた。
目の前のレプリカントは、ひどく涙目になっていた。何やら、それを見て、彼はひどく胸が痛くなった。
そして、何やらひどく、嬉しくなった。彼はぽん、とキムの肩を叩くと、穏やかな声で告げた。
「怒られるのは、趣味じゃないよ」
うなづくと、キムは何処かへ通信を取った。すると必ずまた何処かで会おう、とキムを通じて首領の言葉が伝えられた。
Gはうなづくと、まだ涙目のままのキムの背中を押した。
*
彼が告げたポイントを避けて、そろりそろりと船に向かっていくレプリカント達を眺めながら、Gはひどく穏やかな気持ちになって、地面に一度置いた銃と長剣を取り上げていた。
星間最大のレプリカントのファクトリィの敷地は、それだけにやはり広かった。Gはその中を、友人のトラップを避けながら進んで行った。
生産する機械の音も、そこで働く人間の姿も、既にそこには何もなかった。その場を奪取したはずのレプリカント達は既にこの地を離れようとしている。既にそれは秒読みだ。
彼は不意に、銃を向けた。トラップが一機、彼を狙っていた。彼は冷静に、それを打ち抜いた。
露骨な程に、その仕掛け方は、友人のものだった。彼に判らせようとしているのが強烈な程に。
彼もまた、その有効な方法を何度か聞いたことがあり、そして有効に使ったこともある。
鷹は他の人間にそこまで詳しくは教えなかった。下手に教えて、自分の背中を撃たれるようなことがあってはたまらないから、とあの一見人当たりの良い友人は言っていた。
それじゃ俺ならいいの、とある夜彼が訊ねると、友人は笑いながら言ったものだった。
君がそうすることがあるんだったら、その前に俺が君を墜としてやるよ。
笑いながら。無論そんなことはないけどな、と付け足しながら。
でもそういうことはあってしまった。友人は、それを実行すべく出向いている。
だったら。
彼は銃を握りしめる。
俺は本気であんたに向かわなくてはならない。
何も今までが本気ではなかったという訳ではない。いつだって本気だった。相手が自分のことを本気で思ってくれるのが判っていたから、それには応えたつもりだった。
だけど。
彼は思う。
俺は結局自分の本心をあんたには言えなかった。
自分自身が、生きてることが、生きて行かなくてはならないことが、全て辛くて、できれば何処かで終わりを見つけたかった自分自身を。
それを白状すれば、きっと俺は少なからず楽にはなれたかもしれない。
だけどあんたには言えなかった。
言ったらおしまいだと思っていた。
終わりはあると思ってた。最初から。
だけど、あんたと居る、あの心地よい時が終わってしまうのは、俺はそれでも確かに惜しかったんだ。
ふ、と軽い風が吹いて、運搬用の広い道路にも、沿いに立つ木々の葉がかさかさと舞い始めていた。だが、その音が何かに遮られている。遠くで。
彼は目を凝らした。できれば見たくなかったものが、そこにはあった。
「何故だ?」
遠くからでも、あの友人の声は、よく聞こえる。
その声が耳に飛び込んだ瞬間、彼の全身は、確かに総毛立った。ああやっぱりいい声だ。誰よりも、俺が、感じた。最初に会った時から、俺の中身を全てかき回して、揺さぶった。
全身は、まだそれを覚えている。
なのに、心はそうではない。
あの司令を求めているのだ。あの司令の見る、既にそこにある未来を信じてしまうのだ。
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