上 下
13 / 65

第13話 4/17-B かしわ餅の種類

しおりを挟む
 きゅ、がたん、という音がした。チャリだな。

「うーす」

 眠そうな声でがらがらと戸が開いた。

「何ー」
「かしわ餅食うー?」

 作業中。今日は縁の仕上げと、石箕《いしみ》用のひご作り。時計を見たらお十時だった。

「食うー」

 どたどたと上がってくる音。立ち上がってワタシは湯を沸かしに行く。かしわ餅なら緑茶だろ。番茶でいいかな。

「もうあったんか?」
「うん。だけどまだたくさんは無いし。ガキ共にはちゃんと五月になってからの方がいいよなーと思ったからオトナの分だけ」
「その理屈のイミは?」
「季節感?」
「だってこいのぼり立ててるとこあるじゃん」

 あー、とこいつは天井を向いた。
 帰って来る途中にそういう家も見たんだろ。割と早くにこいのぼりを数匹流してる様な家がここいらでは結構あるんだ。

「じゃーいいや。ねーさんに任せる」
「それがいい。で、どっちが何?」

 開いたパックを見てアタシは聞く。

「うすピンクがみそあん。白いのがこしあん」
「よもぎは?」
「売り切れ。あんたの兄貴好きだったっけ」
「つか、かーさんと兄貴がつぶあん派なんだよな。ねーさんはこしあんだけど」
「深くて暗い溝があるな」
「それは認める」

 そう、目玉焼きとかつぶあんこしあんというものはちょっとのことだがこだわりになる。

「で、確か上のがこしあんだから」
「みそあんは? 誰も?」

 そういえばこいつみそあん派だった。白あんに味噌で甘辛くしてある味のやつは、全国的ではないらしい。……とこないだラジオで聞いた。

「ど、どうだろう…… ガキどもは……」

 試したことはない。まあ今日試せばいいか。

「カレーの甘辛じゃないからどうかな」
「むー。美味いのになー。ワタシ大学ん時には無くてさー」
「アタシも九州ではなかったな」
「みそあんはそれでも無いとこあるとこそれなりにあるけど、もろこしは本当に滅多にないのがなー」
「もろこしはなー」

 そう、実はここいらではもう一つ種類がある。
 たまたまこいつが今日行った店ではなかったが、だいたいこの地域では赤っぽい餅地になる、こしあん入りの「もろこし」というのもあるのだ。

「ねーさんは好きなんだけど、親父はつぶでもこしでも何でもいい派だからなー。まあ今度売ってるとこに買いに行くべ」
「だな」

 そう言いつつ湯が沸いたので茶を淹れた。そう言えば新茶の案内も来てたなー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

わたしと彼女の●●●●●●な関係

悠生ゆう
恋愛
とある会社のとある社員旅行。 恋人(女性)との仲がうまくいていない後輩(女性)と、恋人(男性)からプロポーズされた先輩(女性)のお話。 そして、その旅行の後……

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【ワタシのセンセイ外伝1】 鍋島晃子の憂うつ

悠生ゆう
恋愛
『ワタシのセンセイ』に登場した保健室の先生、鍋島先生の大人百合です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...