3 / 65
第3話 4/12-13C
しおりを挟む
まだ冷える外でそれでも皆でバーベキューをやった。
誕生日だったユクエはヨツバの家族からもおめでとうの嵐を浴びて、肉を食え野菜を食え、とせっつかれていた。
昼間つぶしていた鶏の肉がこれでもかとばかりに串に刺されている。
「丸焼きじゃなかったんかい」
「クリスマスまで待てっていうお達しが出たんだよ!」
こそっと二人して耳打ちする。
何かというと大騒ぎして、少し大きめの自家製焚火台を持ち出してはバーベキュー。それがこの家での一番よくあるお祝い方法だった。
ユクエの「お隣」と言えるのはあと二軒あったが、家族ぐるみでつきあっているのはヨツバの家だけだ。
いちごをこれでもかとばかり生クリームの間に挟み、上に積んだケーキを切り分けては、落ちない様に食べて。
夜はまだまだちょっと冷えるから、とヨツバの母親が半纏を持ち出してきて。火には近づきすぎないようにしつつ。
庭にはヨツバの祖父が何かと手をかけていた桜が満開のままで。
きっと明日強風があったら散ってしまいそうだけど、まだ大丈夫だ。ひらひらと時々彼等の庭先に落ちてくる。
「二人とも風呂入ってから寝なさいよー」
そうヨツバの兄嫁が言う。
彼女の五人きょうだいのうち、三人がこのこの家に残った。長女と長男がそれぞれ家を出ていき、勉強より畑がいいと言った下の兄と、町役場に勤めている妹が居る。
妹の方は付き合っている男がいるので、そのうち結婚するのかもしれない、とヨツバはユクエに言っている。
「あんたは言われないの?」
「外に働きに出ないのかとは言われたけど」
家の手伝いの他にやっていることがやっていることだった。
*
「おいまだ濡れてるじゃないかー」
離れへ向かう渡り廊下で、わしゃわしゃとユクエはヨツバの短い髪を拭く。
少しだけ背伸びをしないといけないのがやや悔しい。
「すぐ乾くよ」
「このご時世に風邪引いたらどうすんの」
「うんそれは困る」
わしゃわしゃわしゃわしゃとやっているうちに、離れの部屋へとたどりつく。
作りかけの青竹の籠が部屋の脇にきっちりと寄せられている。
そしてその向こうには床が敷いてあり。
ヨツバはユクエの首に後ろから腕を回すと、やや低めの声で囁いた。
「入ってとっとと暖まろうぜ」
「歯ぁ磨いたか?」
「ドリフの教えの通りに!」
「お前志村けん関係で全員集合見まくったな? あれは正しいけど」
「ばばんばばんばんばん」
そう言いながら、どんどんと部屋の中へ中へ、ずず、ずいいと。
誕生日だったユクエはヨツバの家族からもおめでとうの嵐を浴びて、肉を食え野菜を食え、とせっつかれていた。
昼間つぶしていた鶏の肉がこれでもかとばかりに串に刺されている。
「丸焼きじゃなかったんかい」
「クリスマスまで待てっていうお達しが出たんだよ!」
こそっと二人して耳打ちする。
何かというと大騒ぎして、少し大きめの自家製焚火台を持ち出してはバーベキュー。それがこの家での一番よくあるお祝い方法だった。
ユクエの「お隣」と言えるのはあと二軒あったが、家族ぐるみでつきあっているのはヨツバの家だけだ。
いちごをこれでもかとばかり生クリームの間に挟み、上に積んだケーキを切り分けては、落ちない様に食べて。
夜はまだまだちょっと冷えるから、とヨツバの母親が半纏を持ち出してきて。火には近づきすぎないようにしつつ。
庭にはヨツバの祖父が何かと手をかけていた桜が満開のままで。
きっと明日強風があったら散ってしまいそうだけど、まだ大丈夫だ。ひらひらと時々彼等の庭先に落ちてくる。
「二人とも風呂入ってから寝なさいよー」
そうヨツバの兄嫁が言う。
彼女の五人きょうだいのうち、三人がこのこの家に残った。長女と長男がそれぞれ家を出ていき、勉強より畑がいいと言った下の兄と、町役場に勤めている妹が居る。
妹の方は付き合っている男がいるので、そのうち結婚するのかもしれない、とヨツバはユクエに言っている。
「あんたは言われないの?」
「外に働きに出ないのかとは言われたけど」
家の手伝いの他にやっていることがやっていることだった。
*
「おいまだ濡れてるじゃないかー」
離れへ向かう渡り廊下で、わしゃわしゃとユクエはヨツバの短い髪を拭く。
少しだけ背伸びをしないといけないのがやや悔しい。
「すぐ乾くよ」
「このご時世に風邪引いたらどうすんの」
「うんそれは困る」
わしゃわしゃわしゃわしゃとやっているうちに、離れの部屋へとたどりつく。
作りかけの青竹の籠が部屋の脇にきっちりと寄せられている。
そしてその向こうには床が敷いてあり。
ヨツバはユクエの首に後ろから腕を回すと、やや低めの声で囁いた。
「入ってとっとと暖まろうぜ」
「歯ぁ磨いたか?」
「ドリフの教えの通りに!」
「お前志村けん関係で全員集合見まくったな? あれは正しいけど」
「ばばんばばんばんばん」
そう言いながら、どんどんと部屋の中へ中へ、ずず、ずいいと。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
雨宮課長に甘えたい
コハラ
恋愛
仕事大好きアラサーOLの中島奈々子(30)は映画会社の宣伝部エースだった。しかし、ある日突然、上司から花形部署の宣伝部からの異動を言い渡され、ショックのあまり映画館で一人泣いていた。偶然居合わせた同じ会社の総務部の雨宮課長(37)が奈々子にハンカチを貸してくれて、その日から雨宮課長は奈々子にとって特別な存在になっていき……。
簡単には行かない奈々子と雨宮課長の恋の行方は――?
そして奈々子は再び宣伝部に戻れるのか?
※表紙イラストはミカスケ様のフリーイラストをお借りしました。
http://misoko.net/
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる