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1 まずはお茶会
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「まあお久しぶり! ナイティア伯爵夫人」
「そちらこそお久しぶりでございます。ワイター侯爵夫人。今日は娘も一緒で、ということで……」
「それにしてもお珍しいこと、あの社交嫌いの女学者侯爵夫人のルージュが……」
その日、その話題の女学者侯爵夫人主催のお茶会が侯爵家の夏屋敷で行われようとしていた。
「まあ、ベランダでにお席が」
「小さなテーブルに色んなお花が」
「……名札がございましてよ。貴方、うちはここにお席がありますわ」
夏の間だけ侯爵家が避暑のために訪れる館。
そこは外の日差しを避け、涼しい風の中で皆が楽しく時間を過ごせる様な造りになっている。
この日皆が招待されたベランダも、本宅とは違い、広間と同じ幅のせり出しになっている。
そこにこの日、丸いテーブルが七つ。
それぞれにこの日招待された家の名札が置かれ。
そしてまた、それぞれ別々の花がお茶道具やお菓子を邪魔しない様に、しかしその美しさ、みずみずしさを損なわない様な大きさに盛られ、置かれている。
「どのテーブルにも違った花が」
「しかもあまり一緒には飾らないものだというのに見事にまとめていらして。さすがですわ」
そう言っているうちに、次々と客はベランダへとやって来る。
「まあ、ロンダース氏ですわ。奥方とご一緒で」
「確かこのローライン侯爵家の顧問弁護士の方でしたわね」
「そうそう。兄上は確か子爵位についたけど、三男で学業が優秀だったサミュエル氏は弁護士として独立なさって」
「……奥方が少々焦っているのが可哀想ですわ」
「あら、ワイルド家、ですの?」
入り口に近いテーブルの一つには、貴族では無い家からの招待客の席もあった。
「ワイルド家はまあ、それでも相当な豪商ですからね。こちらに別荘をお持ちなのでは?」
「それにしてもお宅のお嬢様もずいぶんとお綺麗になりまして」
「エンドローズ、ご挨拶なさい」
「お久しぶりでございます。マリエ様」
令嬢はすんなりと伸びた白い腕で優雅にドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。
「良い縁談もずいぶん持ち込まれているのでしょう?」
「そう思うのですがねえ。どうもこの子ったら、皆気に食わないとか何か言って…… 子供なのですわ」
「おや、別の方が」
「あら」
「ご存じですの?」
「ええまあ。うちの主人のがこちらと共同経営している病院の医師をしているライドナ男爵の奥方。夫君と共に看護の仕事もなさって」
「お休みなのかしら。この時期なら、暑気あたりも出ることが多いというのに」
そんな会話をしているワイター家とナイティア家の女性達の視界に、また新たな客人の姿が入ってくる。
「タメリクス侯爵夫妻ですわ」
「まあ、サムウェラ様は今日も素晴らしい着こなしで」
エンドローズ嬢はベランダ――とは言え、一階のものだが――から見える花壇の、夏の花々に目を奪われていた。
*
客人が全て揃った辺りで、この日の主人たるローライン侯爵夫妻がベランダに現れた。
そしてまず夫妻のうち、夫であるティムス氏が口を開く。
「本日は我がローライン家の夏屋敷に皆様ようこそいらっしゃいました。気楽に談笑……」
そう言いかけた時だった。
「したいところなのですが、実は今日、この場で私、ルージュ・ローラインは夫であるティムスと離婚することを宣言いたします」
「そちらこそお久しぶりでございます。ワイター侯爵夫人。今日は娘も一緒で、ということで……」
「それにしてもお珍しいこと、あの社交嫌いの女学者侯爵夫人のルージュが……」
その日、その話題の女学者侯爵夫人主催のお茶会が侯爵家の夏屋敷で行われようとしていた。
「まあ、ベランダでにお席が」
「小さなテーブルに色んなお花が」
「……名札がございましてよ。貴方、うちはここにお席がありますわ」
夏の間だけ侯爵家が避暑のために訪れる館。
そこは外の日差しを避け、涼しい風の中で皆が楽しく時間を過ごせる様な造りになっている。
この日皆が招待されたベランダも、本宅とは違い、広間と同じ幅のせり出しになっている。
そこにこの日、丸いテーブルが七つ。
それぞれにこの日招待された家の名札が置かれ。
そしてまた、それぞれ別々の花がお茶道具やお菓子を邪魔しない様に、しかしその美しさ、みずみずしさを損なわない様な大きさに盛られ、置かれている。
「どのテーブルにも違った花が」
「しかもあまり一緒には飾らないものだというのに見事にまとめていらして。さすがですわ」
そう言っているうちに、次々と客はベランダへとやって来る。
「まあ、ロンダース氏ですわ。奥方とご一緒で」
「確かこのローライン侯爵家の顧問弁護士の方でしたわね」
「そうそう。兄上は確か子爵位についたけど、三男で学業が優秀だったサミュエル氏は弁護士として独立なさって」
「……奥方が少々焦っているのが可哀想ですわ」
「あら、ワイルド家、ですの?」
入り口に近いテーブルの一つには、貴族では無い家からの招待客の席もあった。
「ワイルド家はまあ、それでも相当な豪商ですからね。こちらに別荘をお持ちなのでは?」
「それにしてもお宅のお嬢様もずいぶんとお綺麗になりまして」
「エンドローズ、ご挨拶なさい」
「お久しぶりでございます。マリエ様」
令嬢はすんなりと伸びた白い腕で優雅にドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。
「良い縁談もずいぶん持ち込まれているのでしょう?」
「そう思うのですがねえ。どうもこの子ったら、皆気に食わないとか何か言って…… 子供なのですわ」
「おや、別の方が」
「あら」
「ご存じですの?」
「ええまあ。うちの主人のがこちらと共同経営している病院の医師をしているライドナ男爵の奥方。夫君と共に看護の仕事もなさって」
「お休みなのかしら。この時期なら、暑気あたりも出ることが多いというのに」
そんな会話をしているワイター家とナイティア家の女性達の視界に、また新たな客人の姿が入ってくる。
「タメリクス侯爵夫妻ですわ」
「まあ、サムウェラ様は今日も素晴らしい着こなしで」
エンドローズ嬢はベランダ――とは言え、一階のものだが――から見える花壇の、夏の花々に目を奪われていた。
*
客人が全て揃った辺りで、この日の主人たるローライン侯爵夫妻がベランダに現れた。
そしてまず夫妻のうち、夫であるティムス氏が口を開く。
「本日は我がローライン家の夏屋敷に皆様ようこそいらっしゃいました。気楽に談笑……」
そう言いかけた時だった。
「したいところなのですが、実は今日、この場で私、ルージュ・ローラインは夫であるティムスと離婚することを宣言いたします」
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