上 下
4 / 6

4.チムール少年隊/アルカージー・ガイダール

しおりを挟む
 今回読んだのは、岩波少年文庫の昭和32年版。
 先日入手した小学館の少年少女世界名作文学のソビエト編3には「チムールとその隊員」というタイトル。
 名作文学の方はそもそも「原作」と書いてある辺り、多少なりとも翻訳だけでなく改変が加えられているので、岩波の方で。
 大きな内容は変わらないんだけど、時々比較すると表現で「む」と思うところがあったり、「あれここ省略するんだ」というとこもあるのでね。

 物語は、アレクサンドロフ大佐の娘達、姉の18歳のオリガ(オーリャ)と妹の13歳のエヴゲーニヤ(ジェーニャ)がモスクワ付近の別荘にやってきたところから始まるんですね。
 基本は下のジェーニャがその地の少年達をまとめて「赤軍に出征した兵士の留守家族を見守って、時には手助けする」チムールという少年とその「隊員」達との話。
 並行して、チムールのおじであるゲオルギー・ガラーエフとオーリャが出会って何というかほのぼのと若者らしい何とやらな心の交流~というのもあるんですがね。
 まあそこは基本子供のための本なので。
 チムール達は「こっそり」活動しているので、赤い星の印をつけた出征家族、黒い星をつけた戦死者家族は何かと「ありゃまあいつのまに」薪が積み上げてあったり、井戸の水が汲んであったりするんですな。
 あと地域の大柄な不良少年と「軍事/政治委員(コミッサール)」「おやぶん/首領(アタマン)」と呼び合い(前者は岩波、後者は小学館)敵対関係にあったり。
 チムールの仲間が捕虜になったから、夜中に取り返しに行って、不良少年達を小屋に閉じ込めた後、さらしもの的な看板をつけておくとこは何というか(笑)。「飛ぶ教室」にも集団同士の争いはあるんですが、こっちは相談できる大人が居るのに対し、子供だけでやり合うあたりで、手加減もへったくれも無いよなあ、と。
 ジェーニャも彼等の仲間に入って、未亡人や子供のところに通ったり、女の子の隊員と友達になったり、とやってるんですが。
 そんな活動の意味をつゆ知らない姉さんのオリガは「あの子は元から何だけど、最近は特にどうかしてしまった! モスクワに帰さなくちゃ!」と息巻いたり。
 その彼女自身はゲオルギーとオートバイに乗ったり、音楽会で一緒に演奏したりしてるんですが。
 まあそんな時にモスクワに大佐が来るという電報が来る訳ですが。
 手違いでジェーニャの元に来るのが遅れたんですね。彼女はその時戦死者家族の子供を預かっていたし。
 どうしようどうしよう「最後の列車にも間に合わない!」と彼女は隊員に召集かける訳ですわ。
 そこでチムールはゲオルギーのバイクを持ち出し、後ろにジェーニャを乗せてモスクワまで走る訳ですよ。おい13歳ども!
 そこでジェーニャは父親の大佐にようやく再会できるし、チムールは今までの行動をオリガに説明できるし、と。
 だがそこで終わらないんですね。ゲオルギーが召集されまして。
 戦車隊の大尉の制服を着た彼を、チムールの隊員達50人以上で見送るのが最後の辺り。

 この「留守家族」や「戦死者家族」見守り運動がピオニールとかでも「チムール運動」とされてソ連中で行われた…… と岩波の解説にはあるんですがね。

 まあまたロシア版Wikiの翻訳交えて。
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%93%D0%B0%D0%B9%D0%B4%D0%B0%D1%80,_%D0%90%D1%80%D0%BA%D0%B0%D0%B4%D0%B8%D0%B9_%D0%9F%D0%B5%D1%82%D1%80%D0%BE%D0%B2%D0%B8%D1%87#%D0%9D%D0%B0%D0%B8%D0%B1%D0%BE%D0%BB%D0%B5%D0%B5_%D0%B8%D0%B7%D0%B2%D0%B5%D1%81%D1%82%D0%BD%D1%8B%D0%B5_%D0%BF%D1%80%D0%BE%D0%B8%D0%B7%D0%B2%D0%B5%D0%B4%D0%B5%D0%BD%D0%B8%D1%8F
 アルカディ・ペトロヴィチ・ガイダールは1904年生まれで、1941年に戦死してます。本名はゴリコフ。
 このチムールの話は、彼が亡くなる前年のものなんですね。

>1940年 - 4月初旬に脚本「ティムールとそのチーム」を完成させ、6月中旬からそれを基にした同名の物語を執筆し、8月中旬にクリンで完成させる。

 元々は映画の脚本として書いたものらしく、それをまた小説形式にしたのが、この話の様です。
 どうも続編も作られた様で、

>1941年 - 春、彼は「ティムールと彼のチーム」の続編である第2シリーズの脚本「ティムールの誓い」の作業を開始する[42]。 
 
ってのもありますな。
 映画化は1940年と1976年。あとテレビシリーズがある様ですね。
 東欧圏でのドラマ化とかも。
 1976年の映画はYouTubeで見られるみたいです。
https://www.youtube.com/watch?v=QTLzzt5PmVY

 ……まあこのWikiたどっていくとなかなか面白くてですね。
 彼自身に関しては、その後また「ボリスの冒険(原題「学校」)」を読んだ時にまた考えようかと思うんですが。
 彼の息子の名前がチムール。

>この映画の脚本は、同名の物語が創作される前の 1939 年末から 1940 年初頭にかけてアルカディ・ガイダルによって書かれた[1]。主人公(ティムールとジェーニャ)の名前は、作者の最初の結婚で生まれた息子の名前にちなんで付けられている。彼の二番目からの養女。

 息子と娘の名をつけたんですね……
 まあ、その前に別の名で書かれたものに、
以下チムール・ガイダルのWiki。

> ソ連の作家アルカディ・ペトロヴィチ・ガイダルと二番目の妻リア・ラザレヴナ・ソロミャンスカヤの息子である[2]。
 ティムール・ガイダルは、 1948 年にレニングラード高等海軍学校、軍事政治アカデミーのジャーナリズム学部を卒業しました。1954年のレーニン。彼はバルチック艦隊と太平洋艦隊の潜水艦に勤務しました。その後、彼は新聞「ソビエト・フリート」と「レッド・スター」で働き、1957年からは新聞「プラウダ」で軍事部門に勤務し、1972年からはその部長となり、自身も「プラウダ」特派員を務めた。 「キューバ、ユーゴスラビア、そしてアフガニスタンで。彼はモスクワニュースとイズベスチヤにも掲載されました」、パイオニア誌の編集委員のメンバーでした。彼は1965年から1971年までベオグラードで働いた[3]。

 この人がまた、

>彼は有名な作家P.P.バジョフの娘、アリアドネ・パブロフナ・バジョワと結婚し、息子は1992年にロシア政府議長を務めたエゴール・ティムロヴィッチ・ガイダル、養子はニキータ・マトヴェーヴィチ・バジョフであった。

 この間の「石の花」の作者パジョフの娘と結婚しているんですね……
 こういうのもあるから、調べたどっていくのは面白い!

 あ、ちなみにアルカージー・ガイダルの日本版Wikiはそもそもありません。息子のチムールも。
 が!
 彼の孫のWikiはあります。
 エゴール・ガイダルhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%AB
 政治家ですよ!

> 祖父のアルカジー・ガイダル(ゴリコフ)(1904-1941)は、内戦時代に「赤いコミッサール」として反革命派に対する情け容赦ない弾圧ぶりで恐れられ、後に人気児童文学作家になった。父親チムール(1926-1999)は海軍少将であり、作家としても知られた。母方の祖父は作家のパーヴェル・バジョフである。

 何というか何というか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉新井素子と大和真也、80年代真ん中に人気があった女性SF作家達、前者は続き、後者は何故消えたのか考えて見る。

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
80年代ってのはアニメやマンガがどーんと変わった時期なんですが、SFが少女文化の中に入ってきた時代でもあるんですよねー。 たとえば花とゆめ。日渡早紀も星野架名もどーんと出てきたのこの時代でしたな。まだ柴田昌弘も狼少女ランのシリーズ載せてた頃だし。 で、文庫の方では、コバルト文庫でもふんわりSFが色々花盛りだった訳ですよ。 その後ファンタジー色が強くなって、SFとはめっきり手を切ってる感じですが、この一時期本当にSFが目立ったんですね。 まあ読んでたから目立っただけかもしれないけど。 その中で知ったのが新井素子と大和真也。 前者は未だに作家活動してしいるし、後者は割と早い時期に姿が見られなくなりました。 さて何が違ったのか、とちょいと真面目に考えてみるという。 感想文です。あくまで!

〈完結〉続々・50女がママチャリで北海道を回ってきた・道南やめてオロロン逆襲のちにスポークが折れてじたばたした話。

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
北海道を7月にママチャリで回ること三年目。 今回はそれまでのマルキンのママチャリでなく、ブリヂストン様のアルベルトロイヤルで荷物をしっかりしたバッグに入れて積んでみました。 するとどんなことが起こったか! 旅行中に書いたそのまんまの手記です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

田舎の少女

歌龍吟伶
エッセイ・ノンフィクション
自然豊かな田舎で生まれ育った少女の、幼い頃の思い出

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

今日から部活壊していいですか?

さしみ
エッセイ・ノンフィクション
今年中学2年になる、真鍋(まなべ)輝(ひかる)。彼女は女子バレーボール部に所属していた。輝の部活は、色々とごたごたがあって顧問が毎年変わっていた。そんなある日のこと、輝が中学2年になっとき、ある先生が顧問となった。その人は、見た目はおとなしく、とても優しそうな女性だった。前の顧問は男性だったので、輝たちには女性の顧問が新鮮だった。しかし、これから楽しい部活が始まると思ったやさき、輝は彼女の裏を知ってしまう。それからは、大好きだったバレーも楽しくはなくなった…。そんな輝のバレー生活をどうぞ、ご覧あれ!

処理中です...