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48 SSのヴォーカルと出会う②

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「何で?」
「何で、って…… まあそれは、俺の好み、って言ってしまえばおしまいなんだけど…… とにかく、ギターが飛び出してんの。伝わってくるの。何だろ…… うーん……」
「強い、力で?」
「そう、強い。……だから何だろ、極端に言っちゃえば、ギターだけでも、何か、その中で、言いたいことは伝わってしまうような…… そんな感じなんだけど」
「ギターだけでも?」
「うん」

 彼は迷いなく言う。
 そう、本当に感じているのだろう。
 僕は自分達のことを言われている様が気がだんだんしなくなってきた。
 何か別のバンドの話をされているみたいだった。

「……って言うと、例えば、フュージョンのバンドって、インストだよね? だけど、何かその一番中心にあるメロディを奏でてる楽器って、音だけで『何か』を言ってるみたいじゃない。それに近いのかなあ?」
「うーん、それとはちょっと違う気がする。だって、ケンショーさんのギターは、どっちかというと、そういうものじゃないし」

 それは確かにそうだ。
 一応「歌もの」なのだ。
 ウチのバンドは。
 ギターは…… 悪い言い方になるけど、やっぱり「バック」という感じが大きくなる。
 そりゃあまあ、間奏とかでは、がぜんはりきるんだけど。

「ま、でも好きずきだと思うよ」
「そんなに、そのひとのギターが好きなんだ」
「うん」

 あっさりと彼はうなづく。

「何か、最初だったからかもしれないけど。ほら、えーと、鴨のすり込み」
「?」

 何のことだか判らない。

「あ、ごめん。生物か何かでさ、卵からかえったばかりの鴨が、初めてみたものを親と思ってとことことついてく、っての。ああいう感じかもしれないってこと。俺、最初にライヴハウス体験した時に、出会ったから」
「いつ?」
「去年の春。だからまだ、本当にメンバーチェンジした頃じゃない?」
「ふうん」

 そう確かに、その頃だ。

「で、何度か、俺通ったんだけど。うん、そのヴォーカルさんもだんだん、いい感じになってる、と思ったけど……やっぱり最初に耳に飛び込んできたのが、あのギターだったから、俺はどうしても、あの音を追っかけてしまうんだ」
「……耳に残る」
「うん、そう。耳に残る。だから、俺は、彼と対等に話せるような立場になりたい、って思った」
「対等に?」
「うん。だってさ、ファンの子達って居るだろ?」

 確かに居る。
 だいたいウチのバンドだと、フロントの僕か、ケンショー。
 結構昔っから慣れ親しんでるファンの中には、オズさんとかナカヤマさんに静かに声援を送ってるひともいる。
 でも大半は、僕かケンショーだ。
 特に、年下の女の子達に関しては、間違いなく。

「すごいよね、あれって。すごいエネルギー」
「うん。だけど、俺はああいうんじゃ、やなんだ」
「やだ?」
「ああいうのは、所詮、ファンだろ? 俺は、俺の持ってるもので、奴と勝負できるくらいになりたいの」

 勝負、って。
 そんな、スポ根じゃあるまいし。
 面食らってる僕に、彼は苦笑した。

「あ、ごめん。初めて会った人に、俺、何言ってるんだろ」
「ああ、いいよ、面白いし。うん、……そうだね、何か僕とは違う意味でバンドやってる人って、やっぱり居るんだ」
「ふうん。じゃああんたは、どうしてバンドやってるの?」

 どうしてって。
 思考が止まる。
 それは。

「……あ」

 口に手を当てる。
 忘れていた。
 僕が始めたのは。
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