41 / 56
41 オズさんにかまをかける
しおりを挟む
「あれ、めぐみちゃんだけ? ケンショーは?」
スタジオの扉を開けると同時に、オズさんは言った。うん、と僕は笑顔を作る。
「僕だけ。奴は三十分くらいしたら来るよ」
「三十分? 俺時間間違えたかなあ?」
そう言って、オズさんは時計を見る。
「間違ってないよ、オズさん」
僕は軽く言葉を放った。彼はまたか、という表情になる。またか。そう、また。
「めぐみちゃん、いい加減、俺から聞くの、止したら?」
「ケンショーは言わないもん。だったらオズさんに聞いたほうが早いじゃない」
「いや、―――そりゃそうだが」
オズさんは下げていたバッグの中からスティックケースを取り出し、その中からT字ビス回しを出し、備え付けのドラムのスネアをチューニングする。
僕は椅子に反対向きに座りながら、作業している彼に向かい、構わず言葉を投げた。
「昨日さ、招待状が奴に来たの。結婚式」
「へえ……」
気のない返事。
「で、差出人が、木庭戸野依、ってあった」
「え?」
きり、とビスを回す音が止む。
「のよりさん、って前のヴォーカルでしょ?」
「あ? ケンショーから聞いたか?」
「まーね」
嘘ではない。
奴は前に、何気なくそんなことを漏らしたことがある。
それに僕は前のヴォーカルの時のテープも持ってる。
そこにはヴォーカルはNOYORIと書いてあった。
「そうか…… のよりちゃん、結婚するんだ……」
「で、相手が箱崎昌志、ってあったけど、オズさん、知ってる?」
「げげげ?」
何って声だ。
オズさんらしくない。
僕は肩を軽くすくめた。
「ふうん、オズさんのとこには、招待状、来てないんだ」
「……来てない。……でも来るとは思ってないから…… ハコザキ、か……?」
「知ってる人?」
「知ってるといや、知ってるけど……」
「前の前のヴォーカル、でしょ?」
「めぐみちゃん?」
「何で、その二人がつきあうのかなあ? だって、代々のヴォーカルって、皆ケンショーの恋人だったんでしょ? 男女問わず」
「……おい」
困った様な顔になって、オズさんはゆっくりと僕のそばに近づいてきた。
「それで、ケンショーはどうするって言ってた?」
「行かないって。ライヴの日程とぶつかるからって。おかしいよね。その日、ライヴ入ってないけど。奴にも、何か思うとこあるんだ?」
ふう、とオズさんはため息をついた。
「めぐみちゃん、一体何を聞きたいんだ?」
「聞きたいんじゃないんだ。頼みがあるの」
そう言って僕は笑顔を作る。
「頼み?」
そして、ポケットから携帯を取り出した。
スタジオの扉を開けると同時に、オズさんは言った。うん、と僕は笑顔を作る。
「僕だけ。奴は三十分くらいしたら来るよ」
「三十分? 俺時間間違えたかなあ?」
そう言って、オズさんは時計を見る。
「間違ってないよ、オズさん」
僕は軽く言葉を放った。彼はまたか、という表情になる。またか。そう、また。
「めぐみちゃん、いい加減、俺から聞くの、止したら?」
「ケンショーは言わないもん。だったらオズさんに聞いたほうが早いじゃない」
「いや、―――そりゃそうだが」
オズさんは下げていたバッグの中からスティックケースを取り出し、その中からT字ビス回しを出し、備え付けのドラムのスネアをチューニングする。
僕は椅子に反対向きに座りながら、作業している彼に向かい、構わず言葉を投げた。
「昨日さ、招待状が奴に来たの。結婚式」
「へえ……」
気のない返事。
「で、差出人が、木庭戸野依、ってあった」
「え?」
きり、とビスを回す音が止む。
「のよりさん、って前のヴォーカルでしょ?」
「あ? ケンショーから聞いたか?」
「まーね」
嘘ではない。
奴は前に、何気なくそんなことを漏らしたことがある。
それに僕は前のヴォーカルの時のテープも持ってる。
そこにはヴォーカルはNOYORIと書いてあった。
「そうか…… のよりちゃん、結婚するんだ……」
「で、相手が箱崎昌志、ってあったけど、オズさん、知ってる?」
「げげげ?」
何って声だ。
オズさんらしくない。
僕は肩を軽くすくめた。
「ふうん、オズさんのとこには、招待状、来てないんだ」
「……来てない。……でも来るとは思ってないから…… ハコザキ、か……?」
「知ってる人?」
「知ってるといや、知ってるけど……」
「前の前のヴォーカル、でしょ?」
「めぐみちゃん?」
「何で、その二人がつきあうのかなあ? だって、代々のヴォーカルって、皆ケンショーの恋人だったんでしょ? 男女問わず」
「……おい」
困った様な顔になって、オズさんはゆっくりと僕のそばに近づいてきた。
「それで、ケンショーはどうするって言ってた?」
「行かないって。ライヴの日程とぶつかるからって。おかしいよね。その日、ライヴ入ってないけど。奴にも、何か思うとこあるんだ?」
ふう、とオズさんはため息をついた。
「めぐみちゃん、一体何を聞きたいんだ?」
「聞きたいんじゃないんだ。頼みがあるの」
そう言って僕は笑顔を作る。
「頼み?」
そして、ポケットから携帯を取り出した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる