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13 近眼眼鏡無し男への対応
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実際、昨日の今日だ。
別にどうってことないのかもしれないけど、驚いたのは事実。
何か得体の知れない怖さを、彼には感じる。
「それにあんたは、まだ僕の質問に答えてないよ。あのテープ、ヴォーカル、居るんじゃない」
「あ、あん時のヴォーカル、もう居ないから」
あっさりと彼は答える。
「こないだのライヴが最後。逃げられたんだ。いい子だったのになあ」
「しかも、女じゃないか。僕は女じゃない」
「そんなの見れば判るって。だいたいこんな胸のない女はいないし。それに、俺別に女でも男でもどうだっていいから。いい声であれば」
「そういうもの?」
僕はかなり嫌そうな目つきで彼を見上げた。
嫌そう、なのは、この身長差にもあるかもしれない。
僕だって無茶苦茶小柄、ということはないと思う。
決して大きくはないけど、全国平均くらいだと思う。
けどこの男が横に居ると自分が小さいってことを考えさせられてしまう。
そのまま横を向くと、僕の目線には、彼の肩があった。
「そういうもの。それに、俺はあんたじゃなく、ケンショーって言うんだぜ」
「知ってる」
「お? 知ってる?」
「あんたが勝手によこしたテープに、メンバーの名前があったよ。ギタリストと言っただろ?」
「覚えててくれたんだ」
「……」
僕は押し黙る。
別に覚えたくて覚えていた訳じゃない。
「変な名前、と思っただけだよ」
「あんたの名前は可愛いけどね。あとりめぐみ」
「可愛いなんてっ!」
……また乗せられてしまった。
くっくっくっ、と彼は肩をすくめて笑う。
「いいじゃん。可愛いって言われるの、嫌い?」
「嫌いだよ」
「どれどれ?」
そしてぐっ、と彼は顔を近づけてきた。な。
「……ああ本当、確かに可愛いや。ふうん。へえ」
僕は慌てて飛び退いた。
どういう反応だ。
あ、もしかして。
「ケンショーあんた、もしかして、目、悪い?」
「ああ、悪い。ど近眼」
へ、と呆れるのは今度は僕の番だった。
そう言えば最初から、目つきが悪かった。
見えていなかったのか。
「だったら眼鏡くらいかけろよ。コンタクトが必要じゃないの?」
「やなこった。俺昔っから、そうゆうの嫌いでさ」
「何で。物ははっきり見えた方がいいじゃないの」
「さあてどうかなあ」
ごまかすようにひらっと言うと、彼はポケットに手を突っ込んだ。
「それで、やっぱり駄目?」
「え?」
「ヴォーカルやって欲しいんだけど」
「やだ」
「こんなに頼んでも?」
「僕はそんな経験ないし、だいたい人前で歌うなんて恥ずかしいのはできないよ」
「あの時はあんなに楽しそうだったのに」
「あの時は!」
酔ってたのだ。
記憶に無い。
そんな時のことを引き合いに出されても困る。
「楽しそうだったからさ、きっと歌うの好きだと思ったんだけど。気持ちよさそうでさ。聞いてて気持ちよかったんだけど」
「気持ちよかった?」
そう、なんだろうか。
僕は立ち止まった。
別にどうってことないのかもしれないけど、驚いたのは事実。
何か得体の知れない怖さを、彼には感じる。
「それにあんたは、まだ僕の質問に答えてないよ。あのテープ、ヴォーカル、居るんじゃない」
「あ、あん時のヴォーカル、もう居ないから」
あっさりと彼は答える。
「こないだのライヴが最後。逃げられたんだ。いい子だったのになあ」
「しかも、女じゃないか。僕は女じゃない」
「そんなの見れば判るって。だいたいこんな胸のない女はいないし。それに、俺別に女でも男でもどうだっていいから。いい声であれば」
「そういうもの?」
僕はかなり嫌そうな目つきで彼を見上げた。
嫌そう、なのは、この身長差にもあるかもしれない。
僕だって無茶苦茶小柄、ということはないと思う。
決して大きくはないけど、全国平均くらいだと思う。
けどこの男が横に居ると自分が小さいってことを考えさせられてしまう。
そのまま横を向くと、僕の目線には、彼の肩があった。
「そういうもの。それに、俺はあんたじゃなく、ケンショーって言うんだぜ」
「知ってる」
「お? 知ってる?」
「あんたが勝手によこしたテープに、メンバーの名前があったよ。ギタリストと言っただろ?」
「覚えててくれたんだ」
「……」
僕は押し黙る。
別に覚えたくて覚えていた訳じゃない。
「変な名前、と思っただけだよ」
「あんたの名前は可愛いけどね。あとりめぐみ」
「可愛いなんてっ!」
……また乗せられてしまった。
くっくっくっ、と彼は肩をすくめて笑う。
「いいじゃん。可愛いって言われるの、嫌い?」
「嫌いだよ」
「どれどれ?」
そしてぐっ、と彼は顔を近づけてきた。な。
「……ああ本当、確かに可愛いや。ふうん。へえ」
僕は慌てて飛び退いた。
どういう反応だ。
あ、もしかして。
「ケンショーあんた、もしかして、目、悪い?」
「ああ、悪い。ど近眼」
へ、と呆れるのは今度は僕の番だった。
そう言えば最初から、目つきが悪かった。
見えていなかったのか。
「だったら眼鏡くらいかけろよ。コンタクトが必要じゃないの?」
「やなこった。俺昔っから、そうゆうの嫌いでさ」
「何で。物ははっきり見えた方がいいじゃないの」
「さあてどうかなあ」
ごまかすようにひらっと言うと、彼はポケットに手を突っ込んだ。
「それで、やっぱり駄目?」
「え?」
「ヴォーカルやって欲しいんだけど」
「やだ」
「こんなに頼んでも?」
「僕はそんな経験ないし、だいたい人前で歌うなんて恥ずかしいのはできないよ」
「あの時はあんなに楽しそうだったのに」
「あの時は!」
酔ってたのだ。
記憶に無い。
そんな時のことを引き合いに出されても困る。
「楽しそうだったからさ、きっと歌うの好きだと思ったんだけど。気持ちよさそうでさ。聞いてて気持ちよかったんだけど」
「気持ちよかった?」
そう、なんだろうか。
僕は立ち止まった。
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