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9 金髪男、バンドに誘ってくる
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「あー…… と」
金髪男は、さすがに困った様な顔になった。
そして何やら黒いジーンズの中の、ポケットの中をごそごそと探りだす。
手持ち無沙汰なのだろうか。
中身の無い煙草のパッケージを見て、顔をしかめる。
「……あー…… つまり、あとりめぐみ、俺、ここんとこずっと、あんたを捜してたんだよ」
「それは聞いたわよ」
「あんたには言ってねーよ、でかいねーちゃん。俺はこっちの可愛い子の方に言ってるの」
「あたしがでかいのもこの子が可愛いのも確かだけど、一応友達として聞く権利はあるわよ!」
「友達なのか?」
ぬっ、と顔を突き出して、金髪男は僕に訊ねる。
友達……
まあ、友達なんだろうな。
……さっき出会ったばかりのような気もするけど……
「うん。友達だけど……」
壁に手をつきながらゆっくり立ち上がると、僕は彼を見上げた。
「僕に、何か用なの? 僕はあんたを知らないけど」
ようやくそれだけを訊ねる。
まだ何かどきどきしてるじゃないか。
ゆっくりだけど、何か立ち上がったショックでくらくらするし。
「知らない、かなあ? こないだ、一度会ったけど」
「……こないだ?」
記憶をひっくり返してみる。だけど金髪男なんて……
あ。
「もしかして、あんた、こないだの店の……」
「こないだの?」
ノゾエさんは不思議そうに訊ねる。
男はうなづいた。
「こいつら、新入生歓迎のコンパで、ウチの店、借り切ってたんだ。その時、この、あとりめぐみが、いきなり酔っぱらって歌連続七曲うたいまくったんだよ」
「……」
僕は押し黙った。
確かにそういうことをした、と後でアハネに聞いた。
けれど、僕自身ちゃんとした記憶が残ってる訳じゃあない。
そんな時のことを引き合いに出されても、困る。
「で、その時の声があんまりにも良かったから」
「……あ、確か、あの時も、そんなこと言ってた……」
そうだ。
そこは思い出した。
帰り際にいきなり手を捕まれたんだ。
その時はアハネが何か上手く助けてくれたけど。
「でも、良かったから、……何だって言うの?」
「欲しいと思って」
「欲しい?」
僕とノゾエさんの声が重なる。
どういう意味だ、それは。
「俺、バンドでギター弾いてるんだけど」
「ああそうだね。確かにバンドマンって感じよね。いまどきパツ金ロン毛ったって、そこまで長いのはバンドマンくらいなもんだわ。珍しいくらい」
そう。そしてその長い髪の毛は後ろでざっとくくられてるだけだ。
何か、毛先のほうなんて火を点ければ実によく燃えるだろうな、とか、とうもろこしの先っちょについてるあの毛を思い出してしまった。
「で、今、ウチのバンドヴォーカルが居なくて」
「僕は歌えないよ」
「あん時、ちゃんと歌ってたじゃないか。すげえ上手かった」
「あれは…… 酔ってたから」
「じゃあ歌えるって。歌ってみない?」
そう言いながら、その顔がいきなり笑顔になった。
思わず僕は後ずさりする。
視線を彼女の方へ巡らす。
どうしたものか、と彼女もまた天井を見上げていた。
ああもう。
人に頼ってる場合ではないらしい。
僕は一度生唾を呑む。
「困るんだってば。僕この学校に入ったばかりで、これから忙しいんだ。バンドやってる暇なんて無いって」
一気に大声でまくし立てた。
ちょっと自分でもびっくりしている。
何か滅多にそういう言い方しないから、胸がどきどきする。
でも何となく、そのくらい言わないことには、この金髪男には通じない様な気がしたんだ。
「ふうん」
金髪男は、さすがに困った様な顔になった。
そして何やら黒いジーンズの中の、ポケットの中をごそごそと探りだす。
手持ち無沙汰なのだろうか。
中身の無い煙草のパッケージを見て、顔をしかめる。
「……あー…… つまり、あとりめぐみ、俺、ここんとこずっと、あんたを捜してたんだよ」
「それは聞いたわよ」
「あんたには言ってねーよ、でかいねーちゃん。俺はこっちの可愛い子の方に言ってるの」
「あたしがでかいのもこの子が可愛いのも確かだけど、一応友達として聞く権利はあるわよ!」
「友達なのか?」
ぬっ、と顔を突き出して、金髪男は僕に訊ねる。
友達……
まあ、友達なんだろうな。
……さっき出会ったばかりのような気もするけど……
「うん。友達だけど……」
壁に手をつきながらゆっくり立ち上がると、僕は彼を見上げた。
「僕に、何か用なの? 僕はあんたを知らないけど」
ようやくそれだけを訊ねる。
まだ何かどきどきしてるじゃないか。
ゆっくりだけど、何か立ち上がったショックでくらくらするし。
「知らない、かなあ? こないだ、一度会ったけど」
「……こないだ?」
記憶をひっくり返してみる。だけど金髪男なんて……
あ。
「もしかして、あんた、こないだの店の……」
「こないだの?」
ノゾエさんは不思議そうに訊ねる。
男はうなづいた。
「こいつら、新入生歓迎のコンパで、ウチの店、借り切ってたんだ。その時、この、あとりめぐみが、いきなり酔っぱらって歌連続七曲うたいまくったんだよ」
「……」
僕は押し黙った。
確かにそういうことをした、と後でアハネに聞いた。
けれど、僕自身ちゃんとした記憶が残ってる訳じゃあない。
そんな時のことを引き合いに出されても、困る。
「で、その時の声があんまりにも良かったから」
「……あ、確か、あの時も、そんなこと言ってた……」
そうだ。
そこは思い出した。
帰り際にいきなり手を捕まれたんだ。
その時はアハネが何か上手く助けてくれたけど。
「でも、良かったから、……何だって言うの?」
「欲しいと思って」
「欲しい?」
僕とノゾエさんの声が重なる。
どういう意味だ、それは。
「俺、バンドでギター弾いてるんだけど」
「ああそうだね。確かにバンドマンって感じよね。いまどきパツ金ロン毛ったって、そこまで長いのはバンドマンくらいなもんだわ。珍しいくらい」
そう。そしてその長い髪の毛は後ろでざっとくくられてるだけだ。
何か、毛先のほうなんて火を点ければ実によく燃えるだろうな、とか、とうもろこしの先っちょについてるあの毛を思い出してしまった。
「で、今、ウチのバンドヴォーカルが居なくて」
「僕は歌えないよ」
「あん時、ちゃんと歌ってたじゃないか。すげえ上手かった」
「あれは…… 酔ってたから」
「じゃあ歌えるって。歌ってみない?」
そう言いながら、その顔がいきなり笑顔になった。
思わず僕は後ずさりする。
視線を彼女の方へ巡らす。
どうしたものか、と彼女もまた天井を見上げていた。
ああもう。
人に頼ってる場合ではないらしい。
僕は一度生唾を呑む。
「困るんだってば。僕この学校に入ったばかりで、これから忙しいんだ。バンドやってる暇なんて無いって」
一気に大声でまくし立てた。
ちょっと自分でもびっくりしている。
何か滅多にそういう言い方しないから、胸がどきどきする。
でも何となく、そのくらい言わないことには、この金髪男には通じない様な気がしたんだ。
「ふうん」
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