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31 ジャケ写をアハネに撮ってもらおう
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「カメラ?」
「そ。お前そういう友達いない?」
冬も近づいた、秋のある日のミーティングで、ケンショーは不意にそう口にした。
しかしミーティングとは、めし屋でするものだろうか?
四人横並びで話し合いというのは一体。
「ああ、そういえば、めぐみちゃんデザイン系の学校だって言ってたっけ」
赤だしのみそ汁をすすりながら、僕はうなづいた。
一応僕も写真基礎を学んではいる。
「ただ撮るだけだったら僕でもできるけど」
「ばーかお前、自分の写真自分で撮れるかっての」
「へ?」
説明してやって、とエビフライを口にしてしまったケンショーは話をオズさんに振った。
オズさんはコロッケを割りつつあったのだが、その手を止めて僕のほうを向いた。
「だからさ、また今度、新しく音源出すでしょ。その時のジャケット用」
「ああ……」
音源ね。
あのカセットのことを僕は思いだした。
「写真、使うの?」
「その方がいんじゃね? せっかく見栄えのするヴォーカルが入ったことだし」
「そういう言い方、嫌いだなあ」
わざとらしく僕は赤だしをずず、とすする。
懐かしい味。
そう言えばこの店は、ケンショーがお気に入りなのでよく僕も来るのだが、赤だしや、どて煮と言ったものが美味い。
オズさんもナカヤマさんもそのあたりには首をひねっているようだったが、やっぱりガキの頃から馴染んだ味という奴は抜けないらしい。
それは僕も同じだった。
「でもめぐみちゃんが入ってから、明らかに女の子のファンは増えたよな」
ナカヤマさんはいつもの通り、冷静に判断を下す。
確かにな、とオズさんもうなづく。
ほれみろ、とケンショーは僕の皿に手を出してくる。
はっし、とばかりに僕はそれを箸で阻止する。
「何だよケチ」
「僕にだってエビは貴重だよ!」
そのまま何度かかちかちかち、と箸同士の小競り合いが続き、僕は何とかエビフライを死守することができた。
ただしその横の、カニクリームコロッケの半欠けを取られてしまったが……
「それで、だ。今度はカセットでなく、CDにできねえかな、と思うんだけど」
「予算によるんじゃないの?」
ナカヤマさんはずばりと言った。
「カセットだったら、安い10分テープとかどっさり買い込んで、宅ダビすりゃいーけどさ、CDじゃそうはいかんだろ?」
「だけど、最近さあ、だんだんカセット持ってない奴増えてねえ?」
「ああ、それは思うけど」
僕も口を挟む。
確かに「ラジカセ」は今でもちゃんと売っている。
だけど、どんどん値下がりしていることも事実で。
MD+CD+ラジオという形のものも出回ってきているし、だいたい音楽の持ち運びには、CDやMDという奴は便利だ。
カセットよりも軽いしかさばらない。
「そーだよなあ……まだしばらくは家内制手工業と行くしかなかろーな」
ケンショーはふう、と息を吐いた。
「だけど、ジャケットはも少し考えた方がいいと思うなあ」
僕は口をはさむ。
「お、デザイン学校の生徒さんのご意見だ」
「うるさいよ。だって、僕最初にあんたにもらった時、だっさ~って思ったもん」
「お前そんなこと思ってたの!」
うん、と正直に僕は首を縦に振る。事実は事実だ。
「だって、全然音楽とジャケットのイメージが違うんだもの。あれじゃ聞いた方が何だ、って思うよ」
そうかなあ、とオズさんは腕を組んで考え込む。
「じゃあめぐみちゃんはどういうのにしたいの?」
「どんなの、って……」
「よしじゃ、めぐみ、リーダーからの指令。いいライヴ写真を撮ってくれそうなカメラ友達と、今度のカセットのインデックスのデザイン、両方の調達、お前に頼むわ」
「ええええええええ」
「久しぶりだなあ、お前そんな驚くの」
にやにやとケンショーは笑う。
どうもさっきのエビフライを根に持っているようだ。この野郎。
でもまあ、カメラマンに関しては、金のかからない、という条件なんだから、僕の交友関係から洗い出せばいいのだろう。
僕の頭の中に、アハネの姿がぱっと思い浮かんだのは言うまでもない。
元々奴は、人物専門のカメラマンになりたい、と公言している訳だし。
「うん、カメラの奴は何とかなると思う。ケンショー、こないだ僕が連れてきた友達、覚えてる?」
「何かちっこい奴だったなー。EWALKのコンノくらいじゃなかったかな」
「EWALK?」
「ああ、めぐみちゃんまだ知らなかったよね。最近顔合わせるようになったバンドで」
「関西人ばっかだから、気をつけろよ」
「何それ。あんただって大して変わらないとこじゃない」
もっとも、僕もそう変わる訳ではないんだけど。
「や、それは違う」
オズさんまでもが指をぴっと立てる。
「奴らはバンド全員が、骨のずいまで関西人なんだ。吉本新喜劇を見て育ち、笑いを取るのは日常茶飯事、誰かがボケたらすかさず突っ込む。そうできなきゃ後でバンドのメンツに村八分にされるという連中なんだ」
恐ろしく偏見が混じっているような気もしつつ、何となく納得してしまう。
つまりはそういう集団なんだな。
「そこのヴォーカルがコンノって言ってな、安心しろ、お前より小さい」
「僕は普通だよ」
「俺よりはずーっと小さいだろ。まあいいけどさ。可愛いから。ちょうど抱き加減もいいし」
「ケンショーっ!」
ばこ、と僕は腕を回してくる奴の頭をはたいた。
「そ。お前そういう友達いない?」
冬も近づいた、秋のある日のミーティングで、ケンショーは不意にそう口にした。
しかしミーティングとは、めし屋でするものだろうか?
四人横並びで話し合いというのは一体。
「ああ、そういえば、めぐみちゃんデザイン系の学校だって言ってたっけ」
赤だしのみそ汁をすすりながら、僕はうなづいた。
一応僕も写真基礎を学んではいる。
「ただ撮るだけだったら僕でもできるけど」
「ばーかお前、自分の写真自分で撮れるかっての」
「へ?」
説明してやって、とエビフライを口にしてしまったケンショーは話をオズさんに振った。
オズさんはコロッケを割りつつあったのだが、その手を止めて僕のほうを向いた。
「だからさ、また今度、新しく音源出すでしょ。その時のジャケット用」
「ああ……」
音源ね。
あのカセットのことを僕は思いだした。
「写真、使うの?」
「その方がいんじゃね? せっかく見栄えのするヴォーカルが入ったことだし」
「そういう言い方、嫌いだなあ」
わざとらしく僕は赤だしをずず、とすする。
懐かしい味。
そう言えばこの店は、ケンショーがお気に入りなのでよく僕も来るのだが、赤だしや、どて煮と言ったものが美味い。
オズさんもナカヤマさんもそのあたりには首をひねっているようだったが、やっぱりガキの頃から馴染んだ味という奴は抜けないらしい。
それは僕も同じだった。
「でもめぐみちゃんが入ってから、明らかに女の子のファンは増えたよな」
ナカヤマさんはいつもの通り、冷静に判断を下す。
確かにな、とオズさんもうなづく。
ほれみろ、とケンショーは僕の皿に手を出してくる。
はっし、とばかりに僕はそれを箸で阻止する。
「何だよケチ」
「僕にだってエビは貴重だよ!」
そのまま何度かかちかちかち、と箸同士の小競り合いが続き、僕は何とかエビフライを死守することができた。
ただしその横の、カニクリームコロッケの半欠けを取られてしまったが……
「それで、だ。今度はカセットでなく、CDにできねえかな、と思うんだけど」
「予算によるんじゃないの?」
ナカヤマさんはずばりと言った。
「カセットだったら、安い10分テープとかどっさり買い込んで、宅ダビすりゃいーけどさ、CDじゃそうはいかんだろ?」
「だけど、最近さあ、だんだんカセット持ってない奴増えてねえ?」
「ああ、それは思うけど」
僕も口を挟む。
確かに「ラジカセ」は今でもちゃんと売っている。
だけど、どんどん値下がりしていることも事実で。
MD+CD+ラジオという形のものも出回ってきているし、だいたい音楽の持ち運びには、CDやMDという奴は便利だ。
カセットよりも軽いしかさばらない。
「そーだよなあ……まだしばらくは家内制手工業と行くしかなかろーな」
ケンショーはふう、と息を吐いた。
「だけど、ジャケットはも少し考えた方がいいと思うなあ」
僕は口をはさむ。
「お、デザイン学校の生徒さんのご意見だ」
「うるさいよ。だって、僕最初にあんたにもらった時、だっさ~って思ったもん」
「お前そんなこと思ってたの!」
うん、と正直に僕は首を縦に振る。事実は事実だ。
「だって、全然音楽とジャケットのイメージが違うんだもの。あれじゃ聞いた方が何だ、って思うよ」
そうかなあ、とオズさんは腕を組んで考え込む。
「じゃあめぐみちゃんはどういうのにしたいの?」
「どんなの、って……」
「よしじゃ、めぐみ、リーダーからの指令。いいライヴ写真を撮ってくれそうなカメラ友達と、今度のカセットのインデックスのデザイン、両方の調達、お前に頼むわ」
「ええええええええ」
「久しぶりだなあ、お前そんな驚くの」
にやにやとケンショーは笑う。
どうもさっきのエビフライを根に持っているようだ。この野郎。
でもまあ、カメラマンに関しては、金のかからない、という条件なんだから、僕の交友関係から洗い出せばいいのだろう。
僕の頭の中に、アハネの姿がぱっと思い浮かんだのは言うまでもない。
元々奴は、人物専門のカメラマンになりたい、と公言している訳だし。
「うん、カメラの奴は何とかなると思う。ケンショー、こないだ僕が連れてきた友達、覚えてる?」
「何かちっこい奴だったなー。EWALKのコンノくらいじゃなかったかな」
「EWALK?」
「ああ、めぐみちゃんまだ知らなかったよね。最近顔合わせるようになったバンドで」
「関西人ばっかだから、気をつけろよ」
「何それ。あんただって大して変わらないとこじゃない」
もっとも、僕もそう変わる訳ではないんだけど。
「や、それは違う」
オズさんまでもが指をぴっと立てる。
「奴らはバンド全員が、骨のずいまで関西人なんだ。吉本新喜劇を見て育ち、笑いを取るのは日常茶飯事、誰かがボケたらすかさず突っ込む。そうできなきゃ後でバンドのメンツに村八分にされるという連中なんだ」
恐ろしく偏見が混じっているような気もしつつ、何となく納得してしまう。
つまりはそういう集団なんだな。
「そこのヴォーカルがコンノって言ってな、安心しろ、お前より小さい」
「僕は普通だよ」
「俺よりはずーっと小さいだろ。まあいいけどさ。可愛いから。ちょうど抱き加減もいいし」
「ケンショーっ!」
ばこ、と僕は腕を回してくる奴の頭をはたいた。
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