25 / 56
25 変身
しおりを挟む
何でこんなに自信が無いのは判らない。何とかしたいとは思う。
ただ、足がすくむのだ。
何か、確かなものが欲しかった。
それがその時の、僕の正直な気持ちだった。
だから、その時その服を買ってしまったのかもしれない。
買ってきて夕方、さっそく僕の相変わらず何も無い部屋で衣装合わせをしてみた。
予算の問題もあったから、そう高いものは買えない。
印象の強いデザインのものは、あの店で買った。
周りのも少し普通な店で、似たデザインのものを安く探し回った。
探せばそれなりに結構あるものだ。
でも、さすがに網あみの袖無しのシャツとか、靴下を試着した時には、自分でも参った。
その上に艶のあるエナメルの、やっぱり袖無しのベストや、短パンをはいたとは言え、風呂場の鏡に遠く映る自分が、いったい誰なんだ、という気になったのは間違いない。
落ち着かないままに、じっと僕は鏡の中の自分をのぞき込んだ。
その表情に何となくアクセントが足りない様な気がして、この間美咲さんがくれた茶色の紙袋を開けてみた。
中には化粧品が入っている。
彼女がOLとして自分にはまるものを「研究」したおりの残りだ、と言っていたが、僕はその中で、一番濃い茶色の口紅を取り出すと、くっ、と自分の唇に乗せた。
それを薬指で撫でる。下唇が急に厚くなったような気がした。
「どお?」
僕は不意に彼の方を振り向いた。
「似合う?」
その時僕は、自分がどんな顔をしていたのか、判らない。
ただ判っていたのは、それがスイッチだった、ということだけだった。
それは、僕が入れたのだ。他の誰でもない。
正直言って、ためらいはあった。ありすぎるほどあった。
一応僕は高校時代、いいなあと思っていた女の子は居たし、先輩の女生徒から、キスされたこともあった。
だけど男は無い。考えたことも無い。
周りの連中だってそうだった。
口をついて出るのは女の子の話だし、したいと思う話はしても、されたいという話は聞いたことがない。
いや、口に出さないだけかもしれない。
だけど、口に出さない、ということが、僕等の間では、何となく決まっていたような気がする。
わざとじゃあないにしても。
僕は、と言えば。
最初にケンショーに抱きつかれた時に、びっくりはした。
変だとは思った。
だけど嫌だとは思っていなかった。
本当に嫌だったら、何か、身体は反応するはずだ。
鳥肌が立つとか、逃げようとするとか。
だけど奴に関しては、不思議なほど、それが無かった。
それが何故なのか、僕には判らなかった。
ただ、足がすくむのだ。
何か、確かなものが欲しかった。
それがその時の、僕の正直な気持ちだった。
だから、その時その服を買ってしまったのかもしれない。
買ってきて夕方、さっそく僕の相変わらず何も無い部屋で衣装合わせをしてみた。
予算の問題もあったから、そう高いものは買えない。
印象の強いデザインのものは、あの店で買った。
周りのも少し普通な店で、似たデザインのものを安く探し回った。
探せばそれなりに結構あるものだ。
でも、さすがに網あみの袖無しのシャツとか、靴下を試着した時には、自分でも参った。
その上に艶のあるエナメルの、やっぱり袖無しのベストや、短パンをはいたとは言え、風呂場の鏡に遠く映る自分が、いったい誰なんだ、という気になったのは間違いない。
落ち着かないままに、じっと僕は鏡の中の自分をのぞき込んだ。
その表情に何となくアクセントが足りない様な気がして、この間美咲さんがくれた茶色の紙袋を開けてみた。
中には化粧品が入っている。
彼女がOLとして自分にはまるものを「研究」したおりの残りだ、と言っていたが、僕はその中で、一番濃い茶色の口紅を取り出すと、くっ、と自分の唇に乗せた。
それを薬指で撫でる。下唇が急に厚くなったような気がした。
「どお?」
僕は不意に彼の方を振り向いた。
「似合う?」
その時僕は、自分がどんな顔をしていたのか、判らない。
ただ判っていたのは、それがスイッチだった、ということだけだった。
それは、僕が入れたのだ。他の誰でもない。
正直言って、ためらいはあった。ありすぎるほどあった。
一応僕は高校時代、いいなあと思っていた女の子は居たし、先輩の女生徒から、キスされたこともあった。
だけど男は無い。考えたことも無い。
周りの連中だってそうだった。
口をついて出るのは女の子の話だし、したいと思う話はしても、されたいという話は聞いたことがない。
いや、口に出さないだけかもしれない。
だけど、口に出さない、ということが、僕等の間では、何となく決まっていたような気がする。
わざとじゃあないにしても。
僕は、と言えば。
最初にケンショーに抱きつかれた時に、びっくりはした。
変だとは思った。
だけど嫌だとは思っていなかった。
本当に嫌だったら、何か、身体は反応するはずだ。
鳥肌が立つとか、逃げようとするとか。
だけど奴に関しては、不思議なほど、それが無かった。
それが何故なのか、僕には判らなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。



目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる