39 / 47
四日目の特等車両にて
3
しおりを挟む
展望室はこの列車の中で最も見晴らしの良いサロンカーとして遣われている場所だった。
十人強が襲撃に使える武器兵器がもう片方の車両に集められており、その場は広く開けられていた。
その床の真ん中に大きな円、そして星座が描かれている。
「ここから出た方が負け、ということで」
アイリーンはシンプルなルールを説明した。
私と相手の男は、五歩くらい離れた場所で向き合った。
「レディック・オルセンだ。宜しく」
「メイリン・エドワーズですわ」
言うが早く、私は自身のスカートを巻き上げ、ガーターベルトに装着していた細い串を指に挟む。
向こうは向こうで足元にうずくまり、私の足を払おうとする。
飛び上がる。
串を一本ずつ間隔を開けて打ち込む。
オルセンは転がる。
だが星座盤のラインぎりぎりで逆立ちからの一回転をして体勢を変える。
私はペチコートのスナップを外すと、闘牛士の様にひらりと相手の前に流した。
ひゅう、と周囲の男の口笛が聞こえた。
何度かひらりひらりとそれを右手で流しながら、左手で右手首に仕込んでいた一回り小さな串を投げて行く。
「……と!」
軽いが、間断無い攻撃に男はよろけた。
そこへペチコートを投げつけ、突進する。
が。
「いやいやそう簡単には倒れないんだよ」
通常なら体当たりでバランスを崩す辺りを点いたはずだった。
だが相手の筋肉は、今まで感じたことの無い程強靱なものだった。びくともしない。
「お返しだ!」
彼はペチコートを掴むと、私ごと振り回そうとした。
宙を舞う。
だがそうなったら体勢は逆に変えられる。
私は天井に一度蹴りを入れると、そのまま重力をも利用して相手にぶつかっていった。
「そこまで!」
ぱんぱんぱん、とオリガが分厚い手のひらを叩いた。
どちらもラインを越えていた。
「身が軽いな、奥さん」
「昔ほどでは無いですわ。子供を産んでいますし。そちらこそ、素晴らしい足の筋肉ですこと」
そう言って私達はがっしりと握手をした。
強い使い手に対しては、敬意を払う。
それは私も忘れてはいなかった。
「しかしまあ、ペチコートをよく使うねえ」
「この国の服でしたらどうしてもそうなってしまいます。東の国や砂漠の国ならば、元々の衣服がゆったりしたものであるので、暗器を隠しやすいのですが、やはりどうしても今のドレスではこうなってしまいますわね」
「コルセットは邪魔だし」
狙撃手の女、イコローンは小柄な身体に、コルセットを使わない、少女服の様なものを身につけていた。
「あれはあれで、使い様がありますよ。鯨骨や針金が入りますから、いざという時には解体して」
「そういう話の方が、メイリン貴女、生き生きしているわ」
アイリーンはそういうと、ころころと笑った。
十人強が襲撃に使える武器兵器がもう片方の車両に集められており、その場は広く開けられていた。
その床の真ん中に大きな円、そして星座が描かれている。
「ここから出た方が負け、ということで」
アイリーンはシンプルなルールを説明した。
私と相手の男は、五歩くらい離れた場所で向き合った。
「レディック・オルセンだ。宜しく」
「メイリン・エドワーズですわ」
言うが早く、私は自身のスカートを巻き上げ、ガーターベルトに装着していた細い串を指に挟む。
向こうは向こうで足元にうずくまり、私の足を払おうとする。
飛び上がる。
串を一本ずつ間隔を開けて打ち込む。
オルセンは転がる。
だが星座盤のラインぎりぎりで逆立ちからの一回転をして体勢を変える。
私はペチコートのスナップを外すと、闘牛士の様にひらりと相手の前に流した。
ひゅう、と周囲の男の口笛が聞こえた。
何度かひらりひらりとそれを右手で流しながら、左手で右手首に仕込んでいた一回り小さな串を投げて行く。
「……と!」
軽いが、間断無い攻撃に男はよろけた。
そこへペチコートを投げつけ、突進する。
が。
「いやいやそう簡単には倒れないんだよ」
通常なら体当たりでバランスを崩す辺りを点いたはずだった。
だが相手の筋肉は、今まで感じたことの無い程強靱なものだった。びくともしない。
「お返しだ!」
彼はペチコートを掴むと、私ごと振り回そうとした。
宙を舞う。
だがそうなったら体勢は逆に変えられる。
私は天井に一度蹴りを入れると、そのまま重力をも利用して相手にぶつかっていった。
「そこまで!」
ぱんぱんぱん、とオリガが分厚い手のひらを叩いた。
どちらもラインを越えていた。
「身が軽いな、奥さん」
「昔ほどでは無いですわ。子供を産んでいますし。そちらこそ、素晴らしい足の筋肉ですこと」
そう言って私達はがっしりと握手をした。
強い使い手に対しては、敬意を払う。
それは私も忘れてはいなかった。
「しかしまあ、ペチコートをよく使うねえ」
「この国の服でしたらどうしてもそうなってしまいます。東の国や砂漠の国ならば、元々の衣服がゆったりしたものであるので、暗器を隠しやすいのですが、やはりどうしても今のドレスではこうなってしまいますわね」
「コルセットは邪魔だし」
狙撃手の女、イコローンは小柄な身体に、コルセットを使わない、少女服の様なものを身につけていた。
「あれはあれで、使い様がありますよ。鯨骨や針金が入りますから、いざという時には解体して」
「そういう話の方が、メイリン貴女、生き生きしているわ」
アイリーンはそういうと、ころころと笑った。
6
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる