〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

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男爵未亡人は語る(4)

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 紹介状を書いたのが私だと気付いた実家は、ここで私自身ではなく、夫にまず抗議してきた訳。
 まあ名義は夫だから、仕方ないけど。
 で、夫は非常に常識的で合理的な考え方をしていたから、苛立つ気持ちもあったけど、突撃してきた相手に対しても、淡々と事実を積み上げる様な説明をしていったのね。
 今までその登用した者達が会社でどんな実績を出してきたか、苦情がどう来ているか、そして利益でなく、損益を出しているか。
 自分がしているのは慈善事業ではない。
 会社には社員の生活がかかっている。
 会社の利益は全社員のためのもので、我が家だけのものではない。
 だからそれを下げる様な社員には退場願いたい、と。

 ただ夫は、ここで没落貴族の馬鹿なプライドと、肥大した自我というものを気付けなかったのね。

 夫はそれなりに学校の方で貴族達とも会っては来たわ。
 彼が友達にする、彼の視界に入ってくる様な貴族の令息というものは、プライドに合うだけの実力を持っていたのよ。
 実家の紹介する何とやらは、そもそも夫の通っていた学校には行けなかった、通い続けることができなかった様な連中ですもの。
 彼には理解することができなかったのよ。
 私は言ったわ。
 彼等は理不尽な言いがかりをつけてくるって。
 夫は判っている、とは言ったわ。
 だけど途中から、本気で苛立ち出したわ。
 「言葉が通じない」って。

 私は知っていたわ。言葉が通じない人々のことは。
 だから交渉は代わりに私がする、って言ったのよ。だけど夫はこう言ったの。

「君は今までああいう連中の中で苦しんできたんだ。今更関わる必要は無いよ」

 違うんだ、貴方が出てもあの連中には伝わらない、もしくは、伝わったとしても、狂った理屈で押し通してくるんだ、と。

 だけど夫はいいひと過ぎた。
 だから、その狂った理屈で押し通す連中のエネルギーにほとほと疲れ果ててしまうのね。
 さすがに何度か過労で倒れたことがあったわ。
 だから会社の権利を私も幾つか委譲してもらって、夫が心配する中、ともかくその連中に対しては、弁護士をひたすら雇って配置して処理してもらったわ。

「貴方はとてもいいひとだけどいいひとだから隙が出てしまうの。彼等はそこにつけ込むのよ。だからこういう時は、その筋のプロに任せた方がいいの。貴方は経営のプロではあるけど、ああいう手合いと交渉するプロではないの。貴方がそれで気持ちも身体もすり減らしていくのを私は見ていられない、とっても辛い」

という内容を涙ながらに私が訴えたら、さすがに彼も一人で何とかするのは止してくれたわ。

 実際、弁護士達は有能だったわ。
 夫に聞いた、信頼のおける友人の中に有能な弁護士が居たから、そこからまた更に部門別信用できる人材を確保したの。
 おかげで、ある程度あの手合いを排除することができたわ。
 実家の方も、弁護士、というか法が出張ってくるとなると怖じ気づくところがったみたい。
 だけどこっちがそう出ると、今度は法の網をかいくぐる方法を考えようとする訳よ。
 一度の成功体験が、彼等に勇気を与えちゃったのよ。
 そう、アリッサ達が亡くなった労働争議は、うちの実家の流れの誰かが扇動したものだったし。
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