〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
32 / 47
男爵未亡人は語る(4)

1

しおりを挟む
 夫は私の実家の態度を知れば知る程、どんどん遠ざけて行ったわ。
 例えば親戚の就職の斡旋。
 兄の親友が仕事の口を探しているから何とかしてくれ。
 母の弟の息子が今度学校を卒業するから。
 父の姉の夫の弟が解雇されたから。
 ともかく何かしら理由をつけて仕事をせびってくるのよ。
 で、試しに雇ったことがあるの。
 ところが雇われた側ときたら、社長の縁がある、ってことを前に出しては大きな顔をする。
 商談に下手な口出しをして駄目にする。
 工場の監督に雇ったひとは、おべっかの上手いチーム長のところの評価を上げて、実績を見ない。
 そして何より、……工員の女性達に手を出したのよ。手当たり次第にね。
 時には、結婚するから、と言って辞めさせた後に遊興街に売られた子も居たのよ。
 その事実がわかった時、夫は私にその売られた子を探す様に頼んできたわ。
 そして無論、それをした社員は解雇。
 どれだけ紹介があったとしても、彼はともかくやったことを許さなかった。
 まあこの時の彼等の罵倒ときたら!
 でもね、その一方で私達は工員達には好かれたわ。
 労働争議という名の破壊工作で悲劇が起きてしまったことに対して、ごくごく普通の工員達は馬鹿馬鹿しい、余計なことしてくれやがって、という気持ちだったと聞いたわ。
 そもそも、そういうのが起こるところにありがちな雇い方をうちはしていなかっったのよ。
 中間管理職にも、工員達への福利厚生は欠かさないことを告げていたし。
 求人すれば新しい人員は入るから、と酷い使い方をするところが多いわね。今も。だから過激な連中につけ込まれるのよ。
 夫はうちが、上流階級の人々からは丁重に扱われた様に見えても、内心「この成り上がりが」と見られていた時の気分の悪さを良く知っていたわ。
 だからこそ、自分の使う工員達に対してそんな目で見ない様にしていたのよ。
 私もあのひとのその視点に大いに同感だったわ。
 私自身がそうだったもの。
 伯爵家だなんて言っても、没落した、他に寄生するばかりの家。
 送ってくる者は勘違い者ばかり。
 さすがに斡旋した誰もが誰も、一人としてうちでは使えない者だった時、彼はきっぱりと自分のところでこれ以上使うのは断る、と言ってくれたのよ。
 私がどれだけ嬉しかったか!
 お義父様やアリッサ達が一生懸命取り組んできたところに土足でどかどかと乗り上げてきて、せっかく耕した場所を踏み荒らしていくのよ。
 すると彼等、今度はこう言うのよ。
 代わりに相応の職の紹介状を書け、と。
 彼は彼等を上手く紹介する様な文章なんぞ書けない、ってぼやいていたわ。
 仕方がないからそこは私が代筆したの。
 紹介状の体裁はできているし、ぱっと見にはその本人を持ち上げている様な。
 でも見る人が見れば、明らかにろくなことをしていない、ってことが判るような、ね。
 さあこうなると、今度は実家の怒りは私達夫婦とお義母様に回ってきたわけ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】恨んではいませんけど、助ける義理もありませんので

白草まる
恋愛
ユーディトはヒュベルトゥスに負い目があるため、最低限の扱いを受けようとも文句が言えない。 婚約しているのに満たされない関係であり、幸せな未来が待っているとは思えない関係。 我慢を続けたユーディトだが、ある日、ヒュベルトゥスが他の女性と親密そうな場面に出くわしてしまい、しかもその場でヒュベルトゥスから婚約破棄されてしまう。 詳しい事情を知らない人たちにとってはユーディトの親に非がある婚約破棄のため、悪者扱いされるのはユーディトのほうだった。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...