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三日目の夜の個室にて
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「義父母の悲しみったらなかったわ。その上、義父は会社の方も損害を受けた訳よ。殺された社員に対する補償、技術者の補完、新たな住宅の建設、犯人に対する娘婿の起こした件、風評被害…… 愛娘夫婦と孫達が死んだことを忘れるためにか、もうなり振り構わず働いていたわ。そうしたら、ある日過労で倒れたの」
「過労…… 確かにそうなってもおかしくはないですね」
「義父はその間、工場関係以外の事業を夫に任せたわ。彼はそこで運輸業の方に力を入れだしたの。新しい事業というのはいいわね。工場の方で労働争議が起こったのは、ある程度安定してきてしまったから、と言えるわ」
「何故です?」
「新しいところはそれどころではないでしょう? 仕事がやりがいあって楽しかった場合、そしてまだ参加している人材が少ない場合には、目的が一つとなっているからそういう隙が生まれない。夫はできるだけ、あちこちにそういう新たな状態の事業展開をしていったわ。この今走っている鉄道の支線も買い取って、その近くに住宅地を作ったり、遊園地や動物園、演劇ホールも計画していたわ。そして何と言っても、駅と直結した百貨店。これが当たったわね」
知っているでしょう? と彼女は有名なな百貨店の名を出す。
「そちらのグループだったんですか」
「系列会社の中では今やこの鉄道と双璧と言っていいわね。それから真似をする鉄道会社が増えたこと」
確かに。
今ではあちこちのターミナル駅に、百貨店がついていることが多い。
それを始めたのが彼女の夫君なのか。
「会社は右肩上がりに広がっていったわ。何とか本業の補填もできた。でも義父の体調は次第に悪くなってきたの。ある程度目処がついた、という時、倒れた時に発覚した持病が酷くなってね」
心臓に負担がずいぶんかかっていた、とアイリーンは続けた。
「それで、アリッサ達が亡くなってから二年も経たないうちに、義父が亡くなったのよ。私はもう、その葬儀の時には涙が溢れて仕方がなかったわ。だって、義父は実父よりずっと私にとって『父』だったのよ。頼りになり、目標であり、そして何と言っても、家族の一員として愛してくれた。実家の父とこうも違うものか、何で優しいひと達が早死にしてしまうのか、ともう目が真っ赤になる程泣いて泣いて泣きまくったわ」
実の家族。
確かに私にとっても、それは希薄なものだ。
何せ彼等は私を売った。
食べていけないからだとは言え、それが事実だ。
私はきっと彼等に再会したとしても、既に誰なのか判らないだろう。
そして何の感慨も湧かないだろう。
だからこそ、後になってできた「家族」の尊さは私にもよく判るのだ。
「それで、私が家庭教師に来た頃は賑やかだった屋敷も、私達と義母だけになってしまったの。せめてアリッサの子供の一人でも残っていてくれたら、と思うけど……」
アイリーンは首を振った。
「過労…… 確かにそうなってもおかしくはないですね」
「義父はその間、工場関係以外の事業を夫に任せたわ。彼はそこで運輸業の方に力を入れだしたの。新しい事業というのはいいわね。工場の方で労働争議が起こったのは、ある程度安定してきてしまったから、と言えるわ」
「何故です?」
「新しいところはそれどころではないでしょう? 仕事がやりがいあって楽しかった場合、そしてまだ参加している人材が少ない場合には、目的が一つとなっているからそういう隙が生まれない。夫はできるだけ、あちこちにそういう新たな状態の事業展開をしていったわ。この今走っている鉄道の支線も買い取って、その近くに住宅地を作ったり、遊園地や動物園、演劇ホールも計画していたわ。そして何と言っても、駅と直結した百貨店。これが当たったわね」
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確かに。
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それを始めたのが彼女の夫君なのか。
「会社は右肩上がりに広がっていったわ。何とか本業の補填もできた。でも義父の体調は次第に悪くなってきたの。ある程度目処がついた、という時、倒れた時に発覚した持病が酷くなってね」
心臓に負担がずいぶんかかっていた、とアイリーンは続けた。
「それで、アリッサ達が亡くなってから二年も経たないうちに、義父が亡くなったのよ。私はもう、その葬儀の時には涙が溢れて仕方がなかったわ。だって、義父は実父よりずっと私にとって『父』だったのよ。頼りになり、目標であり、そして何と言っても、家族の一員として愛してくれた。実家の父とこうも違うものか、何で優しいひと達が早死にしてしまうのか、ともう目が真っ赤になる程泣いて泣いて泣きまくったわ」
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確かに私にとっても、それは希薄なものだ。
何せ彼等は私を売った。
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私はきっと彼等に再会したとしても、既に誰なのか判らないだろう。
そして何の感慨も湧かないだろう。
だからこそ、後になってできた「家族」の尊さは私にもよく判るのだ。
「それで、私が家庭教師に来た頃は賑やかだった屋敷も、私達と義母だけになってしまったの。せめてアリッサの子供の一人でも残っていてくれたら、と思うけど……」
アイリーンは首を振った。
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