15 / 47
男爵未亡人は語る(2)
4
しおりを挟む
それからというもの、奥様は私にできるだけ家に帰るな、と言って下さったのね。
お給金を渡さなくてはならないし、とお断りしようと思うと。
「どれだけ渡しているの?」
そう訊ねてくださったの。
私はこれこれこのくらい、と素直に話したら、奥様もう怒りに怒って。
「何ってこと! 夫にも言わなくちゃ!」
そう言って早足で旦那様の私室へ向かって行ったのよ。
聞かれた時は昼間ではなく夜だったしね。
すると旦那様までやってきて。
「九割を渡しているとは本当か?」
と。
何のことだろうとうなづいたら、はあ、と額を押さえたわ。
「どうなすったのですか?」
私は訊ねたの。何をそうこの方々はため息をついているのだろうと。
「あのねアイリーン。貴女の給金のうち、伯爵令嬢をわざわざ雇っているのだから、ということで交渉された際のお金は、毎回銀行の伯爵家の口座に入れているのよ」
え、と私は目を見開いた。
「あの、それでは私が毎回手渡しでいただいているのは」
「あれは貴女自身が使っていいお金。どうして新しい服や何やらが増えないのか不思議に思っていたのだけど、そういうことだったのね…… 貴方」
「ああ全く。あれだけ受け取った上に、この娘の小遣いまでほとんどせびっていたのか……」
私は初めて聞くその話にもう驚くばかりで。
「その様子だと、実家では貴女に話をしていない様ね」
「ええ…… 私はただ、給金が入ったら戻って来いと言われているだけで」
「それで九割! アイリーンの手元に残るのは本当に身の回りのちょっとした品しか買えない程度じゃないか!」
「あの、私は別にそれで不自由はしていないのですが……」
「いいえ、貴女の働きが良いこと、アリッサに良い影響を与えていること、それに何より私自身が貴女が来てから楽しいのよ、だからその分のお小遣いのつもりだったのに……」
思わず奥様はハンカチを出して涙くんでいらしたわ。
「アイリーン、伯爵家への給金そのものは続けるけれど、これから先は、実家の方へ戻らない方がいいわ」
「え、でも……」
「でもじゃありません。伯爵家も伯爵家の誇りを本当に何処に捨てたのだか…… 娘の小遣いまでもむしりとっていくなんて……」
「でも、私が帰らなくなったら、きっと帰って来いと催促が」
「それにはこちらで用事があるから居てもらうということできちんと伝えておくわ」
奥様の力強い言葉に私も思わずぽろぽろ涙を流してしまったわ。
おかげで、新しい服を作る布地とかを自分で買いに行く様にできるようになったし。あとは本かしら。
男爵家にはさほど多くの本が無かったし。
買い物にアリッサと一緒に行くことも増えたわ。裁縫道具とか、布とか、色んなものを選ぶ訓練をした方がいい、と奥様がおっしゃって。
そんな中、アリッサが兄君の、後の夫の誕生日に刺繍の入ったハンカチを送りたいから教えて欲しい、って言ってきたの。
お給金を渡さなくてはならないし、とお断りしようと思うと。
「どれだけ渡しているの?」
そう訊ねてくださったの。
私はこれこれこのくらい、と素直に話したら、奥様もう怒りに怒って。
「何ってこと! 夫にも言わなくちゃ!」
そう言って早足で旦那様の私室へ向かって行ったのよ。
聞かれた時は昼間ではなく夜だったしね。
すると旦那様までやってきて。
「九割を渡しているとは本当か?」
と。
何のことだろうとうなづいたら、はあ、と額を押さえたわ。
「どうなすったのですか?」
私は訊ねたの。何をそうこの方々はため息をついているのだろうと。
「あのねアイリーン。貴女の給金のうち、伯爵令嬢をわざわざ雇っているのだから、ということで交渉された際のお金は、毎回銀行の伯爵家の口座に入れているのよ」
え、と私は目を見開いた。
「あの、それでは私が毎回手渡しでいただいているのは」
「あれは貴女自身が使っていいお金。どうして新しい服や何やらが増えないのか不思議に思っていたのだけど、そういうことだったのね…… 貴方」
「ああ全く。あれだけ受け取った上に、この娘の小遣いまでほとんどせびっていたのか……」
私は初めて聞くその話にもう驚くばかりで。
「その様子だと、実家では貴女に話をしていない様ね」
「ええ…… 私はただ、給金が入ったら戻って来いと言われているだけで」
「それで九割! アイリーンの手元に残るのは本当に身の回りのちょっとした品しか買えない程度じゃないか!」
「あの、私は別にそれで不自由はしていないのですが……」
「いいえ、貴女の働きが良いこと、アリッサに良い影響を与えていること、それに何より私自身が貴女が来てから楽しいのよ、だからその分のお小遣いのつもりだったのに……」
思わず奥様はハンカチを出して涙くんでいらしたわ。
「アイリーン、伯爵家への給金そのものは続けるけれど、これから先は、実家の方へ戻らない方がいいわ」
「え、でも……」
「でもじゃありません。伯爵家も伯爵家の誇りを本当に何処に捨てたのだか…… 娘の小遣いまでもむしりとっていくなんて……」
「でも、私が帰らなくなったら、きっと帰って来いと催促が」
「それにはこちらで用事があるから居てもらうということできちんと伝えておくわ」
奥様の力強い言葉に私も思わずぽろぽろ涙を流してしまったわ。
おかげで、新しい服を作る布地とかを自分で買いに行く様にできるようになったし。あとは本かしら。
男爵家にはさほど多くの本が無かったし。
買い物にアリッサと一緒に行くことも増えたわ。裁縫道具とか、布とか、色んなものを選ぶ訓練をした方がいい、と奥様がおっしゃって。
そんな中、アリッサが兄君の、後の夫の誕生日に刺繍の入ったハンカチを送りたいから教えて欲しい、って言ってきたの。
8
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。


あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる