〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

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男爵未亡人は語る(2)

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 弟はさておき、当時の若様、後の夫はよく学校から休暇の時に戻ってくる様になったわ。
 それを見て、その頃の旦那様と奥様は、何やら顔を見合わせてはくすくすと笑っていらしたのね。
 結婚式の時、お義母様から聞いたけど、あのひとが私目当てで戻ってきていたということを、当時からあの方々は判っておいでだったのね。
 だけど私は実家に行くのが憂鬱だったわ。
 給料が出たなら顔を出せ、と常々言われていたの。
 その都度、給金の大半と、何かしらの土産を持ってくる様にと言われてね。
 重い荷物を引きずる様にして戻った実家では、何かやけにいい服着ている、と母から取り上げられたわ。
 男爵家で作ってもらったものよ。
 せっかくもらったものなのに、と思ったけれど、まだその頃の私は、母に逆らうなんてことできなかった。
 代わりに出してきたのは、母の古い服。
 そう、もう何十年も前のものよ。
 さすがにスカートのラインはどうしようもなく違っていたので、慌てて直したわ。
 普段着にするにしても、今の様なすんなりしたものではなく、まだこう、お尻のところで盛り上がる様なものだったのよね。
 私は家に居る間に、毛布をかぶって幅やらスカートやら長さやら、細かいところはともかく、男爵家に戻るだけの道中に間に合えば、とばかりに慌てて直したの。
 そしてすぐに男爵家に戻ったわ。
 すると奥様は、戻った私をすぐに出迎えてくださったんだけど、その直後、目を丸くをしたわ。

「どうしたのそれは。ああ、何って古いものを……」
「すみません。母に、せっかくいただいた服と交換されてしまいました」

 そう言った時、私はもうこらえていた涙がぽろぽろこぼれたわ。
 だって、道中、どれだけのひとが私の格好を見たと思う?
 乗り合い馬車の中では、古い帽子と、明らかにおかしな袖の形、それに慌てて直したのが判る腰の辺り。
 決して下手ではないと思うのよ。
 それなりには裁縫もできるわ。
 教えられる程度にはね。
 でも一晩では無理よ。
 可哀想に可哀想に、と着替えた後、それを持ってこさせたわ。

「いくら何でも、これは私の若い頃のものだわ。この襟飾りや袖の形、どう見てもどうしようも無い程古いものだわ。しかも家庭教師の着るものでもないし……」

 家庭教師には家庭教師なりの格好というものがあるのよ。
 いくら伯爵令嬢だとは言え、それは守らなくてはならない部分だったわ。
 他の使用人との関係もあるし。
 お友達扱いではなく、あくまで給金をいただいている立場なのだもの。
 相応しい格好というものがあるわ。
 そう、今私が着ている様な感じかしら。
 え? 何故その服装で二等なのかって?
 それは今さら聞くことかしら。
 まあおいおい判るでしょう。
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