〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

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男爵未亡人は語る

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 そんなことから、私の実家のマナバント伯爵家と、夫のブルックス男爵家の間につながりができたって訳。
 ブルックス家は元伯爵領の土地で、本当に良い工場をどんどん増やしていったのよ。
 主に生活に使うもの。
 石鹸や髪油と言ったものの精製から、あとは原料の流れの関係かしら。
 どうせなら油の方も自分のところで精製しようとか。
 料理に使うオリーブ油、薬品に転用できることから、ハンドクリームとかそちらにも広がって。
 各地では織物産業も盛んだったし、猫も杓子もそちらに流れていったからこそ、あくまでそうではない方をとったのも当たった原因かもしれないわね。
 まあそんな訳で、男爵家は三代ほどで、国でも指折りの富豪になっていった訳。
 だけど、社交界ではそうではなかったそうよ。
 無くなったお義父様などは、成り上がりだ成金だ、と見下されることが多くて。
 伴侶となる女性を求めても、自分の家には歴史があると自負している人々は、成り上がりの新参者には目もくれなかった、らしいの。
 その中で、おっとりとした女性が一人、お義父様とのお喋りやダンスに付き合ってくれたというのね。
 そう、それが今の義母。
 正直言うと、お義母様は社交界ではみそっかすの方だったらしいのですね。
 庭の花を一緒に植えながら大きな帽子の下、語ってくださいましたよ。

「ダンスは足を踏んづけるし、音楽は聴いていると眠くなってしまうし。ピアノは指が上手く動かなくて駄目。絵を描くのは好きよ。上手いかどうかは別としてね」

 お義母様の若い頃はまだ、勉強の方はさほどに厳しくされなかったとのことで。

「私達の国の言葉がたくさんの国で使われていて良かったわ。そうでなかったら大変」

 社交界では隣国の言葉が世界的には共通語なんだけど、そこまで深く関わらなかったのが良かったとのこと。
 だからかしら。
 お義父様はちゃんとした教育を息子や娘にはしっかり与えたいと思ったのでしょうね。
 夫は小さな頃には家庭教師をつけてみっちり。
 それから寄宿学校へ長いこと入り、更にそこから大学へ。工場の経営に必要な勉学をしっかりと納めて、卒業時には次席の銀時計をいただいたそう。
 その彼の妹の方の家庭教師だった訳ですね。私は。
 当初は土地を買った関係で「知り合い」となった伯爵家に、誰か良い家庭教師となる女性はいないか、と問い合わせたそうなの。
 良い給金を払うから、しっかりとした教育をしてくれる女性を、年齢は問わない、と。
 私はてっきり私を教えてくれた先生を推薦するのかと思ったのよ。
 厳しくて、でも本当にじっくりと判るまで教えてくださって。
 おかげで一応伯爵令嬢に相応しいだけの全てを何とか身につけることができた訳。
 本当に良い教え方をした方だったから、勉強が面白くなって、もっと上の学校に行きたい、と父に話したこともあったわ。
 でもすぐに馬鹿馬鹿しい、と一蹴されたのね。

「社交界に出るのに恥ずかしくないだけの教養があれば充分だ」

って。
 それを使って家庭教師に出すっていうのだから、何なのかしらね。
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