〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
3 / 47
男爵未亡人は語る

しおりを挟む
 その時私は新築したばかりの屋敷で、義母と一緒にこれからお庭をどうしよう、とか子供ができたら、といった話をしていたのね。
 男爵家は既に夫が継いでいて、義父は数年前に亡くなっていたわ。
 だからこの家には普段私と義母だけだったの。

 私と義母は仲が良かったわ。
 というか、私が義母に甘えて、向こうが可愛がってくれるというか。

 元々私は夫の妹の家庭教師だったの。
 義妹は本当に素直で可愛い子だったわ。義母に似たのね。
 で、つい最近別の男爵家に嫁いでいったの。
 私と義母は二人で彼女のために精一杯のお祝いや、花嫁衣装や披露宴の会場の手配とか嬉々としてやったものよ。
 家庭教師がよく結婚できた、って顔してらっしゃるわね。
 まあ、それには少し事情があるのよ。
 私は確かに家庭教師なのだけど、実家が伯爵家なの。新聞に出ていなかったかしら?
 あ、でも伯爵令嬢と結婚、という風にしか出ていなかったかしら。
 それはそれで事実なのだけどね。

 普通…… 
 そうね、普通は伯爵令嬢はいくら没落したからって家庭教師として働くということは無いでしょうね。
 没落しても腐っても伯爵家。
 それも結構長く続いていた家系ではあるのよ。私の実家は。
 ただ時代の変化に全くついてこれなかったのよ。
 それこそ、船でしか遠くに行けないような時代の感覚しか持っていない様な旧態依然とした家でしたもの。
 領地からの収入だけで何とかなるとばかりで。
 その領地も、領民の方に新しい良い作物のことだの、まだ切り開いていない部分の開墾を任せるとか、そういうこともさせずに、昔ながらのことをやっているばかりで。
 領民だって、国のご指示で子供を学校に行かせなくてはならない時代よ。
 その中で、ずっと同じことをやっていられる訳がないじゃない。
 馬車ばかりが通る道の脇に、ある日沢山の人夫が集められて、一斉に鉄路が整備されだして。
 鉄道が動きだすのはあっという間。
 特産品で、ずいぶんそれまで領地の利益に貢献していた農産物も、もっと上質なものが遠くから都に集まってくるようになったわ。
 そうなるともう大変。
 それまでのやり方で通じなくなっている時代がきたからといって、そう簡単に変わらない。
 新しい作物を、と加えたらまるで育たないで、銅貨一枚にもならない。
 むしろ金食い虫になってしまう始末。
 それをまた、領民のせいだ、と当たり散らすのよ。
 私の祖父や父といった人達は。いまどき鞭とか取り出して、見せしめとばかりに領民の前で、働きの良くない者を連れ出して打ったりして。
 そんなことやっていたら、もう学が付きだした子供達が、このままじゃ駄目だ、って親達に逃げることを勧めたわ。
 私が物心ついた時には、もう土地だけ残して、領民は去っていった状態だったし。
 だけどそこで懲りないのね。
 祖父も父も、使えない土地は仕方がない、とばかりに売ってしまったの。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...