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男爵未亡人は語る
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その時私は新築したばかりの屋敷で、義母と一緒にこれからお庭をどうしよう、とか子供ができたら、といった話をしていたのね。
男爵家は既に夫が継いでいて、義父は数年前に亡くなっていたわ。
だからこの家には普段私と義母だけだったの。
私と義母は仲が良かったわ。
というか、私が義母に甘えて、向こうが可愛がってくれるというか。
元々私は夫の妹の家庭教師だったの。
義妹は本当に素直で可愛い子だったわ。義母に似たのね。
で、つい最近別の男爵家に嫁いでいったの。
私と義母は二人で彼女のために精一杯のお祝いや、花嫁衣装や披露宴の会場の手配とか嬉々としてやったものよ。
家庭教師がよく結婚できた、って顔してらっしゃるわね。
まあ、それには少し事情があるのよ。
私は確かに家庭教師なのだけど、実家が伯爵家なの。新聞に出ていなかったかしら?
あ、でも伯爵令嬢と結婚、という風にしか出ていなかったかしら。
それはそれで事実なのだけどね。
普通……
そうね、普通は伯爵令嬢はいくら没落したからって家庭教師として働くということは無いでしょうね。
没落しても腐っても伯爵家。
それも結構長く続いていた家系ではあるのよ。私の実家は。
ただ時代の変化に全くついてこれなかったのよ。
それこそ、船でしか遠くに行けないような時代の感覚しか持っていない様な旧態依然とした家でしたもの。
領地からの収入だけで何とかなるとばかりで。
その領地も、領民の方に新しい良い作物のことだの、まだ切り開いていない部分の開墾を任せるとか、そういうこともさせずに、昔ながらのことをやっているばかりで。
領民だって、国のご指示で子供を学校に行かせなくてはならない時代よ。
その中で、ずっと同じことをやっていられる訳がないじゃない。
馬車ばかりが通る道の脇に、ある日沢山の人夫が集められて、一斉に鉄路が整備されだして。
鉄道が動きだすのはあっという間。
特産品で、ずいぶんそれまで領地の利益に貢献していた農産物も、もっと上質なものが遠くから都に集まってくるようになったわ。
そうなるともう大変。
それまでのやり方で通じなくなっている時代がきたからといって、そう簡単に変わらない。
新しい作物を、と加えたらまるで育たないで、銅貨一枚にもならない。
むしろ金食い虫になってしまう始末。
それをまた、領民のせいだ、と当たり散らすのよ。
私の祖父や父といった人達は。いまどき鞭とか取り出して、見せしめとばかりに領民の前で、働きの良くない者を連れ出して打ったりして。
そんなことやっていたら、もう学が付きだした子供達が、このままじゃ駄目だ、って親達に逃げることを勧めたわ。
私が物心ついた時には、もう土地だけ残して、領民は去っていった状態だったし。
だけどそこで懲りないのね。
祖父も父も、使えない土地は仕方がない、とばかりに売ってしまったの。
男爵家は既に夫が継いでいて、義父は数年前に亡くなっていたわ。
だからこの家には普段私と義母だけだったの。
私と義母は仲が良かったわ。
というか、私が義母に甘えて、向こうが可愛がってくれるというか。
元々私は夫の妹の家庭教師だったの。
義妹は本当に素直で可愛い子だったわ。義母に似たのね。
で、つい最近別の男爵家に嫁いでいったの。
私と義母は二人で彼女のために精一杯のお祝いや、花嫁衣装や披露宴の会場の手配とか嬉々としてやったものよ。
家庭教師がよく結婚できた、って顔してらっしゃるわね。
まあ、それには少し事情があるのよ。
私は確かに家庭教師なのだけど、実家が伯爵家なの。新聞に出ていなかったかしら?
あ、でも伯爵令嬢と結婚、という風にしか出ていなかったかしら。
それはそれで事実なのだけどね。
普通……
そうね、普通は伯爵令嬢はいくら没落したからって家庭教師として働くということは無いでしょうね。
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領民だって、国のご指示で子供を学校に行かせなくてはならない時代よ。
その中で、ずっと同じことをやっていられる訳がないじゃない。
馬車ばかりが通る道の脇に、ある日沢山の人夫が集められて、一斉に鉄路が整備されだして。
鉄道が動きだすのはあっという間。
特産品で、ずいぶんそれまで領地の利益に貢献していた農産物も、もっと上質なものが遠くから都に集まってくるようになったわ。
そうなるともう大変。
それまでのやり方で通じなくなっている時代がきたからといって、そう簡単に変わらない。
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むしろ金食い虫になってしまう始末。
それをまた、領民のせいだ、と当たり散らすのよ。
私の祖父や父といった人達は。いまどき鞭とか取り出して、見せしめとばかりに領民の前で、働きの良くない者を連れ出して打ったりして。
そんなことやっていたら、もう学が付きだした子供達が、このままじゃ駄目だ、って親達に逃げることを勧めたわ。
私が物心ついた時には、もう土地だけ残して、領民は去っていった状態だったし。
だけどそこで懲りないのね。
祖父も父も、使えない土地は仕方がない、とばかりに売ってしまったの。
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