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第三章 義兄の関係者をあたってみた

②義兄の故郷の食卓

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 その晩は大騒ぎの食卓に私は驚いた。
 我が家はそもそも家族の人数が少ないので、この様子は何処か寮に居た時のことを思い出させた。
 ただ違うのは、寮より格段の話し声が大きいということだった。

「そう言えば、今は貴女が女主人ということだけど、お母様は?」

 とりあえず気になっていたことをアルシャに問いかけた。

「あら、オネスト兄さんに聞いてなかったの?」

 私はええ、と短く答える。

「嫌ねえ、そういうことははっきり伝えておけばいいのに」
「駄目駄目、オネストの奴は、昔っからそういうとこあるだろ」

 既に酒が入っているのだろう、アルシャの夫だというトルグという人が赤ら顔でそう口を挟んできた。

「そうなんですか?」

 そうそう、と言いつつ彼は私にもっと肉を食べなよ、と皿から肉料理を取って渡してくる。

「ちょっとあんた、まだお菓子だって待ってるんだよ、お嬢さんに肉肉ばかり勧めるんじゃないよ」
「そうなのか? お前はどんどん食ってるだろうに」
「私はお腹空いてるんです! マルミュットさん、食べたいだけ食べてね、でもお腹壊す程は駄目よ」

 そう言いつつ、隙あらば横から手を伸ばそうとする息子や娘の手をはたく彼女は素晴らしい、と私は思った。
 だがしかし、どうもこの食卓の雰囲気と、義兄のイメージが繋がらない。

「いつも食事はこんな感じなんですか? 客のもてなしの無い時でも」
「え? ええ、出てくるもの以外は同じよ! だっていちいちばらばらに出していたら、色々大変でしょ!」
「まーなー、オネスト兄はなー、結構わいわいやってるの嫌って、勉強があるから、って自分の分だけ持って部屋に籠もったりしてたけどなー」

 そう言うのはアルシャと少し歳の離れた弟のロールード。

「俺まだ小さかったけど、不機嫌そうなオネスト兄は頭に残ってるんだよな」
「そりゃあんたが汚い手で新しい服に触ったりするからでしょ」
「だって俺その時はまだ小さくてさー、オネスト兄の服が帝都の学校の制服とか知らなかったしー」
「まあ確かに汚したら自分で洗濯しなくてはならないですからね」
「何言ってるんですか、こっちでも皆そうですよ」

 アルシャの驚いた顔に思わず私は目を見開いた。

「さすがにこういう時は皆で手分けしますが、普段の食事は皆忙しいのでそれぞれとっては自分で盛り付け片付けます」
「え、でも手伝いの方とか……」

 中で家の掃除をする女性も居たし、外で馬の手入れをする男性も居た。
 雇われているのだろう、と見て取れた。

「うーん、確かにうちには雇っているひとは多いんですけどね、それはあくまで手の足りない部分であって。そもそもこの辺りはしなくちゃならない仕事に対して、人手が足りないし。皆そんな悠長なことしていられませんよ、ねえお父さん」
「そうだな。そもそもこの北東では、領主様の館のお子達にしても、できることは自分でしているのを儂も見たことがあるぞ」
「そうなんですか…… この辺りの大地主のお宅ですから、つい」

 軽率なことを聞いてしまった、と思った私にアルシャは。

「いえいえ、帝都の方だったらそう思うのも仕方ないですよ。向こうは人が多いじゃないですか。だからそういう仕事もできるんですよ。ただこっちにはそういう人の余裕がないだけなんですからね」
「オネスト兄もそうしていたはずなんだけど、今は違うんですか? 出世して」
「ロールード」

 ガイヤード伯父は息子をたしなめた。

「まあお嬢さんにも思うことがあるんだろうから、またそのことは後で話そうな、酒はいけるかい?」
「いいえ、学生の身ですし」
「そうなの?! 甘い甘い糖蜜酒がちょうどあるからいいと思ったのに! じゃあいいわ、マルミュットさんにはたっぷりのミルクをつけてお茶を」
「その前にお菓子! お菓子!」

 運ばれてきたのは、よほど大きな天火で焼いたのだろう、丸い平たい台に果物をぎっしり敷き詰めたものだった。
 豪快に切り分けると、皆我も我もとばかれりに皿を持った手を出す。

「こら! ちゃんとみんなの分あるから、静かになさい!」

 アルシャの声で子供達の態度はぴしっと引き締まった。
 ちなみにお菓子は美味しかった。

「え、ちょっと待って、この甘煮の作り方教えてくれますか?」

 そう言ったくらいには。
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