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第一章 とりあえず浮気相手のところへ行ってみた
⑭夢から覚めたカイエとかつての女学生時代
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「でもその後は、もうあまり言う程のことはないわ。私は出産して、子供はトリールに渡して」
「お義兄様とは一回もその後は?」
「子供を――男の子だったのよね。渡す時に、一度だけトリールが会わせてくれたの。謝られたわ。何かそれで、夢から覚めた様な気がしたの」
思わず私は彼女のその言葉にほっとした。
そう、このひとにとっても悪い夢の様な日々だったとしたならば、それでいいと思う。
「トリールはその後、この家を用意してくれたの。今までの都会の部屋ではなく、少し郊外で、自然が豊かな……」
「確かにこの湖の側はいいところですね」
「昔、女学校の時に皆で遊びに来たこともあったのよ。あの頃は本当に何も将来のことを考えることもなく楽しかった……」
「え? そういうものですか?」
「あら? マルミュットさんは違ったの?」
「私は女専に行くつもりだったので、次の目標がありましたし、あと、第一は何かと寮でお祭り騒ぎが多かったんですが、そこで交流した人達と会うことで、色々ままた将来のことを考えることが多く」
「第二はそういうところではなかったのよ」
ふふ、と彼女は目を細め、首を傾けた。
「そうね、第一と違って第二は大概卒業したら婚約者と結婚する、っていうのがもう決まっていた人ばかりだったわ」
「そうなんですか?」
そう言えば、私はあまり官立第二女学校のことは知らない。
いや、第二のことだけ知らないと言った方が良いくらいだ。
「トリールが貴女のことでよく話してくれたけど、第一って優秀だったら貧しくとも奨学生になれるでしょう?」
「ええ」
「第二はそういう生徒は居ないの。皆ある程度の家ばかり。だから貴女方と違って、トリールの苦手だった家政の時間がとても多いのよ」
そう言えば、お姉様が夏の休暇に苦心しながら花飾りを作っていたことを思い出す。
普段、私の進学するための勉強をたやすくさらさらと分かり易く教えてくれるお姉様とは思えない程苦心惨憺していたのでよく覚えている。
「だからちょっとまとまった休みとなると、近場に皆で遊びに行くことも多かったわ。皆結婚までの短い、楽しい時期だと思っていたから、大はしゃぎ」
「それは…… 確かに違いますね。でも何故私達は第二のことを殆ど知れないんでしょう?」
「え?」
心底不思議そうに彼女は私の方を見た。
「それは貴女、第三や第四の、合同祭の企画ができない様な学校とは絶対に第一か第二が組まなくてはならなかったから……って、トリールが言っていたけど、貴女ともあろう方が気付かなかった?」
「あ、いえ、第五のすっとんきょうな人々とも組んだりはしましたが」
「彼女達も企画ができるけど、第三と第四に居るお嬢さん達は駄目でしょう? 企画や運営を一からすることができないし。そういうことをするお手本として、私達第一や第二が組むことになっていたよ。そもそも組んだ時まず率先したのはそちらではなくて?」
そう言えばそうだった。
参加はしていたが、運営に手を出していなかったので気付けなかったのだ。
気付かなかったなんて、不覚!
「……そうですね、確かに私はそういうところに疎くて」
いやでも、お姉様は気付いていた。
と言うか、そもそもお姉様は何故第二に入ったのか、正直今でも私には解らないのだ。
もし同じ歳だったら、確実に私の席次はいつもお姉様より下だったはず。
だからこそ、お姉様が第二に進学すると聞いた時には驚いたし――それでいいのか、と私は訊ねたものだった。
「だから学校では、勉強はトリールに頼って、家政関係は私、って感じに寮では補いあってきたの」
「そうなんですか」
……そう言えば、最終学年だけは本当に戻ってくるお姉様の姿が今一つ生気が無かった気がする。
このひとが居なかったせいだろうか。
「で、この家でしばらく暮らす様になった時、ずぶ濡れになったマリマリを一人の男の方が抱きかかえて来て下さったの――そう、今の私の婚約者の、ワダム・サンドレッドさんよ」
そう言ったあたりで、実に都合良くそのサンドレッド氏がマリマリちゃんを連れて戻ってきた。
「お義兄様とは一回もその後は?」
「子供を――男の子だったのよね。渡す時に、一度だけトリールが会わせてくれたの。謝られたわ。何かそれで、夢から覚めた様な気がしたの」
思わず私は彼女のその言葉にほっとした。
そう、このひとにとっても悪い夢の様な日々だったとしたならば、それでいいと思う。
「トリールはその後、この家を用意してくれたの。今までの都会の部屋ではなく、少し郊外で、自然が豊かな……」
「確かにこの湖の側はいいところですね」
「昔、女学校の時に皆で遊びに来たこともあったのよ。あの頃は本当に何も将来のことを考えることもなく楽しかった……」
「え? そういうものですか?」
「あら? マルミュットさんは違ったの?」
「私は女専に行くつもりだったので、次の目標がありましたし、あと、第一は何かと寮でお祭り騒ぎが多かったんですが、そこで交流した人達と会うことで、色々ままた将来のことを考えることが多く」
「第二はそういうところではなかったのよ」
ふふ、と彼女は目を細め、首を傾けた。
「そうね、第一と違って第二は大概卒業したら婚約者と結婚する、っていうのがもう決まっていた人ばかりだったわ」
「そうなんですか?」
そう言えば、私はあまり官立第二女学校のことは知らない。
いや、第二のことだけ知らないと言った方が良いくらいだ。
「トリールが貴女のことでよく話してくれたけど、第一って優秀だったら貧しくとも奨学生になれるでしょう?」
「ええ」
「第二はそういう生徒は居ないの。皆ある程度の家ばかり。だから貴女方と違って、トリールの苦手だった家政の時間がとても多いのよ」
そう言えば、お姉様が夏の休暇に苦心しながら花飾りを作っていたことを思い出す。
普段、私の進学するための勉強をたやすくさらさらと分かり易く教えてくれるお姉様とは思えない程苦心惨憺していたのでよく覚えている。
「だからちょっとまとまった休みとなると、近場に皆で遊びに行くことも多かったわ。皆結婚までの短い、楽しい時期だと思っていたから、大はしゃぎ」
「それは…… 確かに違いますね。でも何故私達は第二のことを殆ど知れないんでしょう?」
「え?」
心底不思議そうに彼女は私の方を見た。
「それは貴女、第三や第四の、合同祭の企画ができない様な学校とは絶対に第一か第二が組まなくてはならなかったから……って、トリールが言っていたけど、貴女ともあろう方が気付かなかった?」
「あ、いえ、第五のすっとんきょうな人々とも組んだりはしましたが」
「彼女達も企画ができるけど、第三と第四に居るお嬢さん達は駄目でしょう? 企画や運営を一からすることができないし。そういうことをするお手本として、私達第一や第二が組むことになっていたよ。そもそも組んだ時まず率先したのはそちらではなくて?」
そう言えばそうだった。
参加はしていたが、運営に手を出していなかったので気付けなかったのだ。
気付かなかったなんて、不覚!
「……そうですね、確かに私はそういうところに疎くて」
いやでも、お姉様は気付いていた。
と言うか、そもそもお姉様は何故第二に入ったのか、正直今でも私には解らないのだ。
もし同じ歳だったら、確実に私の席次はいつもお姉様より下だったはず。
だからこそ、お姉様が第二に進学すると聞いた時には驚いたし――それでいいのか、と私は訊ねたものだった。
「だから学校では、勉強はトリールに頼って、家政関係は私、って感じに寮では補いあってきたの」
「そうなんですか」
……そう言えば、最終学年だけは本当に戻ってくるお姉様の姿が今一つ生気が無かった気がする。
このひとが居なかったせいだろうか。
「で、この家でしばらく暮らす様になった時、ずぶ濡れになったマリマリを一人の男の方が抱きかかえて来て下さったの――そう、今の私の婚約者の、ワダム・サンドレッドさんよ」
そう言ったあたりで、実に都合良くそのサンドレッド氏がマリマリちゃんを連れて戻ってきた。
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