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序 こういう話が出たので

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「何ですってエルダ! もう一度言って」

 ばあやのエルダからその話を聞いた時、私は天地がひっくり返るかと思った。
 だって。

「はい、何度でも申し上げましょう。
 上のお嬢様に最近お子様が突然お生まれになったという知らせ! 
 いえいえエルダもその前の相談は受けておりましたのよ、向こうの旦那様がどうも前々から浮気なさっていると。
 ですがまさか、その相手の女との間の子をお嬢様がお引き取りになるなんて…… 
 ええ、エルダはあの賢いお嬢様のお考えですから、何かしら思うことがあったと思いますのよ。
 ですが向こうの旦那様のその、お相手が」

 エルダは一瞬言い淀んだ。

「え、そんな困るひとなの?」
「困ると申しますか…… マルミュット様、トリールお嬢様の女学校時代からの御親友のカイエ様をご存じですよね?」
「え? ええまあ。だって私、この間あのひとに縁談持ってきたばっかりだったじゃない。断られたけど」
「そうなんですよ!」

 エルダは両手を大きく広げた。

「そもそもカイエ様はトリールお嬢様の紹介で、向こうの旦那様のお従弟さま、ナガリス家のグレヤード様に嫁がれてお嬢様を儲けた方じゃないですか」
「そうよ、でもほら、グレヤード様が仕事で赴任していた鉱山の事故でお亡くなりになって――確か、あの方十年前くらい前の帝都の大火事でご両親を亡くされて、一人お勤めをなさっていたんじゃなかったかしら」
「そうなんですよ、そうなるとトリールお嬢様とのお付き合いもどうかとこのエルダ、つい口を挟みたくなったものですが、トリールお嬢様ときたら、女学校時代の友人は永遠とか何とか、私にはなかなか解らないことをおっしゃって、友達はずっと友達とかで、何かとお付き合いしてらっして!」
「いやそれは構わないのではなくって? 私だって別に爵位があるかどうかすれすれの辺りの土地持ちの家に過ぎないのに、伯爵家の令嬢と相変わらずお友達だし?」
「そりゃあマルミュット様、上の方のお付き合いはどんどんなさって下さいな、そもそも貴女様もなかなか結婚のお話が出てもなかなか色よい返事の一つもなさらず……」
「ああ、ああ、私のことはいいわエルダ、それより、そのカイエ様が何でお義兄様と?」
「いやそこまではさすがにこのエルダ如きには解りかねますよ。いえね、前々からトリール様から向こうの旦那様の浮気のことも、お相手があのかたというのも聞いてはおりましたのよ。ですが何故? はやっぱり非常にそれぞれのお心の問題ではないので?」
「うーん。それは解るんだけど。えーと、確かカイエ様はお義兄様の従弟のグレヤード様とは、お姉様の結婚式で見初められた、というのは聞いたことがあったような」
「そうなんですよ。トリールお嬢様が大喜びでした。親友が親戚筋になれるって」
「でもまだ確か、その事故からあまり経っていないんじゃなくって?」
「そうなんですよ!」

 今度は顔をしかめる。

「いえね、別にあのかたが美しいとか所作が優雅とかそういうのは解りますし、あけすけに言えばトリールお嬢様より何というか…… ああ…… 下世話な言い方でしたら、その、男好きのする雰囲気の方でしょう?」
「ええそうよ、だからこそ、ほら、さっき言った伯爵家のお友達の叔父様にあたる方、結構前に奥様を亡くされた方が、是非に、というお話があった訳じゃないの。だけどそっちを蹴って…… それ?」
「そうなんですよねえ……」

 私はエルダと共に首を傾げた。
 いやどう見たって、私の紹介した方のほうが条件といい、風采といい上だと思ったんだけど?

「だけど、今度カイエ様、南東の方に戻るという実業家に乞われてちゃんと再婚するというのですよ」
「あらまそれは急展開! そっちの話には乗ったのね!」
「それもトリール様が大賛成して送り出すご様子…… 一体全体、トリールお嬢様は何をお考えなのか…… 旦那様から、いざとなったら離婚して戻って来てもよいとおっしゃられていたというのに……」

 お互いため息。

「よし」

 私はぱん、と手を打った。

「どうしたんですかマルミュット様」
「疑問は解かなくちゃもやもやするだけよ!」
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