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7 男爵家と子爵家との格の差、そしてスリール子爵との出会い

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 私が十五年住んでいたのは、確かに男爵家という貴族の館だ。
 建物としてはそう変わるものではない。
 だが中身が違うのだ。
 女主人である夫人の所作、その夫人に従う使用人達の質と数。
 資産がどれだけあるか、という問題ではない。
 泊まった部屋で客分として遇された時、男爵家のそれがどれだけ雑であったか判ったのだ。
 成り上がり・付け焼き刃と言われる意味がよくわかる。
 男爵も母もおそらくこの空気の中では確実に使用人から見下されるだろう。
 無論も私もだ。
 なのでどうしても一人で泊まるには居心地が悪かった。
 私は調べ物に時間がかかる時には、弁護士事務所のソファで寝させてもらった。
 マルティーヌは最初そんな帰り方をした時には心配したが、弁護士の二人がその辺りは説明してくれた。
 そしてこう付け足した。

「けどあんた、女の子なんだからね、気をつけなさいよ」

 マルティーヌは何だかんだ言って世話焼きだった。
 そして彼女の食事は美味しい。
 元々はフランスのひとなのだと言う。
 向こうが何かと国内でごたごたが激しいので、まずオランダに流れ、そこで知り合ったのがこちらのひとだったそうな。
 そしてこちらで所帯を持ったのだという。
 だが数年してようやく子供ができたという時に、その亭主が事故で死んだのだと。
 全くついていないひとだ、と思う。
 だからこそ余計にアリサのことを気にかけるのだろう。
 


 そんな風に弁護士事務所に出入りしていた時、一人の訪問者があった。
 ちょうど二人とも所用で出ていて留守だった。
 何となくそんな時の留守番もその時期は頼まれる様になっていた。

「……あれ? 居ないのかな?」

 そのひとはそう言って事務所に入ってきた。

「いらっしゃいませ、何か御用ですか? あいにく今二人とも出払っておりまして……」

 ふんわりとした雰囲気のその人に、私はすぐにそう営業用の笑顔で迎えた。
 だがその人は何やら目を見開いたまま、私の顔をじっと見ている。

「あの、私の顔に何か」
「君…… ここの従業員?」
「いえ、まあ時々留守番を頼まれている者です」
「そう。私はスリール。一応子爵です。うちの顧問弁護士になってくれているキャビン君はいつ戻るかな?」
「あ、キャビンさんでしたらそうかからないと思います。書類を取りに行っているだけですし」
「では少し待たせてもらってもいいかな」
「はい。お茶をお淹れいたします。そちらで少々お待ちください」

 それが私の実の父親、スリール子爵との最初の出会いだった。 
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