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第28話 シャンポンにとっての心地よい関係
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それはそれでシャンポンは間違っていないと思う。
だから彼女自身はとりあえず自分の知識と知恵を引き上げること、そしてそれを子供に教えること―――男女問わず、を試してみることにした。
幸い子供は男女の双子。
もしどちらかがどうしても試してみたことに嫌気がさすようだったら。やりたくとも体力や気力や、適性がなかったならば。
その時はまた子供にとってより生きやすい方向を考える。
マヌェを亡くすまでずっと見てきた彼女だから、余計に「皆が同じ条件」というのは無理だと知っていた。
自分達が四人姉妹、しかもそれぞれ性格気質がばらばらであったこともよかったと思う。
考える時間は沢山あった。マヌェの世話や看病ということがあったからこそ、自分は他の令嬢達の様な生き方を強いられることも、周囲の雰囲気に流されることもなかった。
そしてそのマヌェ自身が、彼女にできる決して多くは無いことの中で、自分には思いつかないようなものを作ってみせたりしたこと。
だけどそのマヌェがどうしてそう生まれたのか、に関しての納得のいく理由が自分の中につけられない。
天が彼女をそう生まれさせた、というのは簡単だ。
だがそれだけか? とシャンポンは持ち前の頭でそう考えてしまう。
帝国においては確固とした宗教がある訳でない。
元々が草原の民が成立させた社会であることから、自然に代表される「大きな何か」というものが人間の意思とは無関係に、ただ「在る」ということに敬意を払っている。
それだけに、そう生まれた者はそう生まれた様に、それぞれの子供に合った育ち方ができないものか―――男だ女だでなく、と彼女は考える様になってしまった。
今現在、彼女は婿をとって子供も居る訳だが、サハヤには格別強い愛情があるという訳でもない。だが夫であり家族であり子供達の父親であるということは彼女には大切なことだった。
自分には男女に関する情がはとても薄い、とシャンポンは感じていた。
かつて、隣同士でまだ帝都に行く前によく一緒に遊んだイルリジーはマドリョンカではなく彼女が好きだった。
だがシャンポンにとっては彼はただ友人としか思えなかった。
だから十六になった時、さっとと帝都に移り住んだ。愛だ恋だという感情がまとわりついてくるのが嫌だったのだ。
帝都内で何かと書の話等ができる人々との交流の中でも、男女の情が見えてきたならば即座に逃げ出した。
現在はその意味では気楽だった。
彼はあくまでマドリョンカの夫であり、自分はサハヤの妻である。それがどれだけ自分達の会話を楽にしているだろう!
そしてマドリョンカが居ない今、妹の子供達も、その性格を見ながら一緒に学校の様に育ててみたい、と思う自分が居るのだ。
そんな自分から見て。
「ラテ君はちゃんと楽しいことは楽しそうだからさ」
「皇帝陛下はそういうお方なのかい? さすがに僕は直接お会いできたことが無いけど」
「私も一度二度程度だったが…… 少なくともアリカよりはよっぽど表情が豊かだね。ただ陛下ご自身はこれと言った新たな政策だの考えたことはなさげな」
「先帝陛下の作り上げたものが大きくてしかも確固としたものだったからなあ。格別変えなくても良いものだったら変えることもない、と考えておいでなのだろうね」
「かもしれないし。単に政治だの文化だのに興味が無いのかもしれないし」
シャンポンが皇帝を直接見たのは、それこそ皇后のお披露目の時と、あとは皇太子が生まれてすぐの挨拶くらいだった。
その時の皇帝の印象は、本当にその辺りに居る若者とそう変わらない、だった。ただ彼は、彼女の周囲に居た頭の良い青年達の様に知識をひけらかすことはなかった。ただ生まれた子に夢中な青年としか見えなかった。既に幾人もの生まれたての公主を抱いた経験は、その手つきからすぐに判ったが。
それでもその中身が自分の父とそう変わらない歳などとはどうしても思えなかった。
たまたま彼女が皇帝カヤが上機嫌な時に出向いたということもあるだろうが。だがその時にもアリカは―――現在のアリカは、やはり昔と変わらず、微妙にしか変わることの無い表情を浮かべていた。
その二人を思い出せば、明らかにあの少年は父親似だった。
だったらトモレコル家の三人…… もう少ししたらもう一人と、サヘ家の二人とも仲良くやっていけるだろう。彼女はそう思った。
マドリョンカの意地は果たしてそこで実を結ぶのか。その辺りは判らないが。
*
それから一月程経った頃、遠征からサヘ将軍と婿のサハヤが戻ってきた。
「皇后陛下にはお変わりなく」
「父上もご無事で何より」
そう将軍とアリカとは言葉を交わす。
「ところで父上、最近ラテは学問所で友達ができた様で」
「それはそれは。大きくなったことでしょう」
今回の遠征は長かった。一所が平定できたら、また次のところ、と頻発する小競り合いに対処していたら、結局二年がところ経ってしまっていた。
「副帝都の生活にもすっかり慣れて。人懐っこい子で良かったです」
「友達ができるのは良いことですな」
「ところで父上、一度副帝都の館にお戻り願いたいのですが」
「副帝都に」
「マドリョンカ姉様がお亡くなりになった後、すっかりとミチャ夫人が沈んでしまったと」
「そうですな。できるだけ早くそちらの様子を見に行きましょう」
「そこに時々私の息子が居るかもしれませんが」
は? とサヘ将軍は数秒、言われている意味を考える羽目になった。
だから彼女自身はとりあえず自分の知識と知恵を引き上げること、そしてそれを子供に教えること―――男女問わず、を試してみることにした。
幸い子供は男女の双子。
もしどちらかがどうしても試してみたことに嫌気がさすようだったら。やりたくとも体力や気力や、適性がなかったならば。
その時はまた子供にとってより生きやすい方向を考える。
マヌェを亡くすまでずっと見てきた彼女だから、余計に「皆が同じ条件」というのは無理だと知っていた。
自分達が四人姉妹、しかもそれぞれ性格気質がばらばらであったこともよかったと思う。
考える時間は沢山あった。マヌェの世話や看病ということがあったからこそ、自分は他の令嬢達の様な生き方を強いられることも、周囲の雰囲気に流されることもなかった。
そしてそのマヌェ自身が、彼女にできる決して多くは無いことの中で、自分には思いつかないようなものを作ってみせたりしたこと。
だけどそのマヌェがどうしてそう生まれたのか、に関しての納得のいく理由が自分の中につけられない。
天が彼女をそう生まれさせた、というのは簡単だ。
だがそれだけか? とシャンポンは持ち前の頭でそう考えてしまう。
帝国においては確固とした宗教がある訳でない。
元々が草原の民が成立させた社会であることから、自然に代表される「大きな何か」というものが人間の意思とは無関係に、ただ「在る」ということに敬意を払っている。
それだけに、そう生まれた者はそう生まれた様に、それぞれの子供に合った育ち方ができないものか―――男だ女だでなく、と彼女は考える様になってしまった。
今現在、彼女は婿をとって子供も居る訳だが、サハヤには格別強い愛情があるという訳でもない。だが夫であり家族であり子供達の父親であるということは彼女には大切なことだった。
自分には男女に関する情がはとても薄い、とシャンポンは感じていた。
かつて、隣同士でまだ帝都に行く前によく一緒に遊んだイルリジーはマドリョンカではなく彼女が好きだった。
だがシャンポンにとっては彼はただ友人としか思えなかった。
だから十六になった時、さっとと帝都に移り住んだ。愛だ恋だという感情がまとわりついてくるのが嫌だったのだ。
帝都内で何かと書の話等ができる人々との交流の中でも、男女の情が見えてきたならば即座に逃げ出した。
現在はその意味では気楽だった。
彼はあくまでマドリョンカの夫であり、自分はサハヤの妻である。それがどれだけ自分達の会話を楽にしているだろう!
そしてマドリョンカが居ない今、妹の子供達も、その性格を見ながら一緒に学校の様に育ててみたい、と思う自分が居るのだ。
そんな自分から見て。
「ラテ君はちゃんと楽しいことは楽しそうだからさ」
「皇帝陛下はそういうお方なのかい? さすがに僕は直接お会いできたことが無いけど」
「私も一度二度程度だったが…… 少なくともアリカよりはよっぽど表情が豊かだね。ただ陛下ご自身はこれと言った新たな政策だの考えたことはなさげな」
「先帝陛下の作り上げたものが大きくてしかも確固としたものだったからなあ。格別変えなくても良いものだったら変えることもない、と考えておいでなのだろうね」
「かもしれないし。単に政治だの文化だのに興味が無いのかもしれないし」
シャンポンが皇帝を直接見たのは、それこそ皇后のお披露目の時と、あとは皇太子が生まれてすぐの挨拶くらいだった。
その時の皇帝の印象は、本当にその辺りに居る若者とそう変わらない、だった。ただ彼は、彼女の周囲に居た頭の良い青年達の様に知識をひけらかすことはなかった。ただ生まれた子に夢中な青年としか見えなかった。既に幾人もの生まれたての公主を抱いた経験は、その手つきからすぐに判ったが。
それでもその中身が自分の父とそう変わらない歳などとはどうしても思えなかった。
たまたま彼女が皇帝カヤが上機嫌な時に出向いたということもあるだろうが。だがその時にもアリカは―――現在のアリカは、やはり昔と変わらず、微妙にしか変わることの無い表情を浮かべていた。
その二人を思い出せば、明らかにあの少年は父親似だった。
だったらトモレコル家の三人…… もう少ししたらもう一人と、サヘ家の二人とも仲良くやっていけるだろう。彼女はそう思った。
マドリョンカの意地は果たしてそこで実を結ぶのか。その辺りは判らないが。
*
それから一月程経った頃、遠征からサヘ将軍と婿のサハヤが戻ってきた。
「皇后陛下にはお変わりなく」
「父上もご無事で何より」
そう将軍とアリカとは言葉を交わす。
「ところで父上、最近ラテは学問所で友達ができた様で」
「それはそれは。大きくなったことでしょう」
今回の遠征は長かった。一所が平定できたら、また次のところ、と頻発する小競り合いに対処していたら、結局二年がところ経ってしまっていた。
「副帝都の生活にもすっかり慣れて。人懐っこい子で良かったです」
「友達ができるのは良いことですな」
「ところで父上、一度副帝都の館にお戻り願いたいのですが」
「副帝都に」
「マドリョンカ姉様がお亡くなりになった後、すっかりとミチャ夫人が沈んでしまったと」
「そうですな。できるだけ早くそちらの様子を見に行きましょう」
「そこに時々私の息子が居るかもしれませんが」
は? とサヘ将軍は数秒、言われている意味を考える羽目になった。
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