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第20話 いつかは行きたい場所
しおりを挟む エミリーと私は言葉を交わすことは無かったけど、二人揃って自然とテラスに足が向く。
庭の中でひときわ目立つんだもん。遠目には白で統一された素敵なテーブルセットにブドウの蔦なんてものも見えてて、とても気になるの。
「う、まあ、そうよね」
「お掃除すれば綺麗になりますよ!」
騎士団は週に何度もルルーシュ僻地を訪れるわけではない。
更に訪問しても宿泊しないこともある。
ハウスキーパーがいるわけでもなく……となると汚れ放題になってしまうわよね。
きっとこのお屋敷は貴族の別荘感覚で作ったのだと思う。たまにきて掃除を……となると掃除をしているだけで一日が終わってしまう。
騎士団が宿泊するのはたったの一泊。
つまり……設計と用途が合っていないの。時間はあるのだし、使うところからお掃除すればいいかな。
うー、それにしても地面なら砂がいくらあっても気にならないけど、泥の上に砂が積もってこびりついていると気になるものなのよね。
水で洗い流してゴシゴシとすれば綺麗になるかな?
「ご安心ください」
私の気持ちを察したのかエミリーが胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
彼女のメイド魂に火が付いたのか背後からメラメラとした炎が浮かんでいるような。
わ、私だって、お掃除するんだから。一緒にやろうね、エミリー。
カサリ。
伸び膨大の雑草が不自然に動いたような。
う、ううん。気のせいじゃない。
真っ黒の棒に先に丸い球をつけたようなものがぴょこっとしているのが見えたわ!
「あ、あれ」
「は、はい。動物の何か、でしょうか」
気が付いたのはエミリーと同時だったみたい。
眉をひそめ、お互いに目くばせする。
「や、やっぱり動いた!」
「は、はいい」
しかも、ぴょこぴょこが二本に増えた!
何かしらあれ、水辺に住むぬめっとした生き物にああいう角を持つ生き物がいたかも。
ひゃ、う、うわあ。
黒い頭が出てきた!
ん、でも、意外に可愛いかも。動いてなかったらぬいぐるみに見間違えるかもしれないほど。
その子は毛の生えていない黒と白のツートンカラーで、人間だと髪の毛が生えている部分が黒で顔の部分が白になっている。
さっき見た棒状のものは触覚に当たるのかなあ。
三角の目に鼻がなく唇がない口。
背中から小さな翼が生えていて、長い黒の尻尾を備えていた。胴体と頭のサイズが同じくらいで手足が短い。
宙に浮くその子の大きさは30~40センチくらいだろうか(尻尾を除く)。
「キイ!」
「きゃああ」
黒い二頭身の子が金切り声をあげたから、エミリーと抱き合って悲鳴をあげる。
な、何。可愛い見た目とは裏腹に凶暴なの?
「ル、ル、ルチルさ、様あ。わ、私が、ま、護りま、す」
「う、ううん。エミリーは後ろに。私が出るわ」
「だ、ダメです。ルチル様は魔法が。わ、私が、何とか。むぐう」
「っし!」
エミリーの魔法ならば襲い掛かって来ても護ることはできると思うわ。
だけど、これほど動揺していては、魔法を使うことなんて無理よ。魔法を使うには多少の集中がいるんだもの。
じりじりと睨み合う黒い子と私たち……。
じわりと手に汗が滲み、相手も警戒と緊張から動けないのかと考えたの。
だったら――。
半歩だけ前へ踏み出す。
「キイイイ!」
すると、さっきより遥かに大きな金切り声をあげて、黒い子はぴゅうと飛んで行った。
へなへなと力が抜ける。
さすがに膝が落ちるまではいかなかったけど。
エミリーの肩を支え、「大丈夫?」と目配せする。対する彼女は小さく頷き、胸に手を当てた。
「と、とてもビックリしました。取り乱してしまい、申し訳ありません」
「ううん。私も似たようなものだったもの。一緒だね」
「そ、そうですね」
「うん!」
あははと笑い合う。
これが壁の外なのね。魔法の壁で護られたシルバークリムゾン王国の中では、さっきのような生物に出会うこともない。
あれもきっとモンスターの一種よ。可愛らしいけど。
私たちにはモンスターと出会った経験がない。だから、小さいモンスターでも取り乱してしまう。
今回は幸い強くはないモンスターだったから、逃げて行ってくれたからよかったものの。好戦的なモンスターだったとしたら、と思うとゾッとするわ。
その後、エミリーとしっかり手を繋いで庭の探索に向かう。
内心かなりびくびくしていたから、歩みも遅く小屋を発見したところでレオが戻って来た。
「レオー!」
門のところで待つ彼の姿に安堵し、エミリーと手を繋いだまま駆け寄る。
「おいおい、どうしたんだ?」
「小さな黒いモンスターがいたの!」
「小さな黒い? こう角みたいなのと尻尾が生えた」
「そうそう、翼もあったわ。小さくて見た目は可愛らしい」
「ふむ」と顎に手をやった彼はパチリと指を鳴らす。
「インプだな。ルルーシュ僻地でたまに見かける」
「危ない子なの?」
「直接人間に危害を加えてきたりはしないみたいだぜ。剣を向けると逃げて行く」
「そ、そうなんだ。他にも村の中にモンスターがいたりするの?」
「いんや。インプ以外は見かけねえな。たまに凶暴なのも来るとか聞いたけど、見たことねえや」
「い、いるんだ……」
「村の『外』にな。もし来襲したとしたら、家の中に隠れろ。エミリーの魔法で固めて凌げば何とかなるはずだ」
「が、頑張ります」
青い顔でエミリーがそう言ってくれたけど、声が震えている。
ゆっくりと時間をかけて彼女に落ち着いてもらい、魔法を使ってもらうようにしなきゃ。
彼女が安心して魔法を使えるように手を考えなきゃね。
「レオ、少し付き合ってもらう時間はある?」
「おう。隊長からも出発まではルチルとエミリーを見ててくれと言われて、戻ってきたんだよ」
「ありがとう!」
「俺の代わりに騎士団が荷物を届けてくれるから安心してくれ」
レオが付いていてくれたから、足どり軽くお屋敷の中まで見回ることができたわ。
小屋の中は鋤やクワ、ガーデニングに使うような道具が入っていたけど、錆が浮いていてそのまま使うと怪我をしそうだった。
お屋敷には一通りの家具や食器が置いてあり、こちらは埃で汚れてはいるけど使用するに支障は無さそう。
「これ、紅茶かな?」
「はい! まだ使えそうですよ! ルチル様、お茶にいたしませんか?」
棚の中に銀色の箱があって、開けてみたら中に入っていたのは茶葉だった。
ちょうど一息入れたいと思っていたところだったの。
このお屋敷、今のところ井戸を発見できてないのよね。だから、私だと紅茶を淹れることもできない。
そのため、エミリーが気を利かせて自分から誘ってくれたのね。
「頼んでもいいかしら」
「もちろんです! 先ほどからもう喉がカラカラで」
「レオも一緒にね」
「おお。いいのか」
嬉しそうな顔をしたレオに笑顔で雑巾を渡す。
もちろん、私の分もあるわよ。
「エミリー。先にこっちにお水をお願いできるかしら?」
「え、お二人がお掃除なさるのですか!」
「うん。待っている間にせめて座れるようにしたいなって」
「そ、そんな畏れ多い」
「二人で協力していかなきゃ。お屋敷は広いのよ」
と言うと、納得してくれたのかエミリーがバケツに手をかざす。
庭の中でひときわ目立つんだもん。遠目には白で統一された素敵なテーブルセットにブドウの蔦なんてものも見えてて、とても気になるの。
「う、まあ、そうよね」
「お掃除すれば綺麗になりますよ!」
騎士団は週に何度もルルーシュ僻地を訪れるわけではない。
更に訪問しても宿泊しないこともある。
ハウスキーパーがいるわけでもなく……となると汚れ放題になってしまうわよね。
きっとこのお屋敷は貴族の別荘感覚で作ったのだと思う。たまにきて掃除を……となると掃除をしているだけで一日が終わってしまう。
騎士団が宿泊するのはたったの一泊。
つまり……設計と用途が合っていないの。時間はあるのだし、使うところからお掃除すればいいかな。
うー、それにしても地面なら砂がいくらあっても気にならないけど、泥の上に砂が積もってこびりついていると気になるものなのよね。
水で洗い流してゴシゴシとすれば綺麗になるかな?
「ご安心ください」
私の気持ちを察したのかエミリーが胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
彼女のメイド魂に火が付いたのか背後からメラメラとした炎が浮かんでいるような。
わ、私だって、お掃除するんだから。一緒にやろうね、エミリー。
カサリ。
伸び膨大の雑草が不自然に動いたような。
う、ううん。気のせいじゃない。
真っ黒の棒に先に丸い球をつけたようなものがぴょこっとしているのが見えたわ!
「あ、あれ」
「は、はい。動物の何か、でしょうか」
気が付いたのはエミリーと同時だったみたい。
眉をひそめ、お互いに目くばせする。
「や、やっぱり動いた!」
「は、はいい」
しかも、ぴょこぴょこが二本に増えた!
何かしらあれ、水辺に住むぬめっとした生き物にああいう角を持つ生き物がいたかも。
ひゃ、う、うわあ。
黒い頭が出てきた!
ん、でも、意外に可愛いかも。動いてなかったらぬいぐるみに見間違えるかもしれないほど。
その子は毛の生えていない黒と白のツートンカラーで、人間だと髪の毛が生えている部分が黒で顔の部分が白になっている。
さっき見た棒状のものは触覚に当たるのかなあ。
三角の目に鼻がなく唇がない口。
背中から小さな翼が生えていて、長い黒の尻尾を備えていた。胴体と頭のサイズが同じくらいで手足が短い。
宙に浮くその子の大きさは30~40センチくらいだろうか(尻尾を除く)。
「キイ!」
「きゃああ」
黒い二頭身の子が金切り声をあげたから、エミリーと抱き合って悲鳴をあげる。
な、何。可愛い見た目とは裏腹に凶暴なの?
「ル、ル、ルチルさ、様あ。わ、私が、ま、護りま、す」
「う、ううん。エミリーは後ろに。私が出るわ」
「だ、ダメです。ルチル様は魔法が。わ、私が、何とか。むぐう」
「っし!」
エミリーの魔法ならば襲い掛かって来ても護ることはできると思うわ。
だけど、これほど動揺していては、魔法を使うことなんて無理よ。魔法を使うには多少の集中がいるんだもの。
じりじりと睨み合う黒い子と私たち……。
じわりと手に汗が滲み、相手も警戒と緊張から動けないのかと考えたの。
だったら――。
半歩だけ前へ踏み出す。
「キイイイ!」
すると、さっきより遥かに大きな金切り声をあげて、黒い子はぴゅうと飛んで行った。
へなへなと力が抜ける。
さすがに膝が落ちるまではいかなかったけど。
エミリーの肩を支え、「大丈夫?」と目配せする。対する彼女は小さく頷き、胸に手を当てた。
「と、とてもビックリしました。取り乱してしまい、申し訳ありません」
「ううん。私も似たようなものだったもの。一緒だね」
「そ、そうですね」
「うん!」
あははと笑い合う。
これが壁の外なのね。魔法の壁で護られたシルバークリムゾン王国の中では、さっきのような生物に出会うこともない。
あれもきっとモンスターの一種よ。可愛らしいけど。
私たちにはモンスターと出会った経験がない。だから、小さいモンスターでも取り乱してしまう。
今回は幸い強くはないモンスターだったから、逃げて行ってくれたからよかったものの。好戦的なモンスターだったとしたら、と思うとゾッとするわ。
その後、エミリーとしっかり手を繋いで庭の探索に向かう。
内心かなりびくびくしていたから、歩みも遅く小屋を発見したところでレオが戻って来た。
「レオー!」
門のところで待つ彼の姿に安堵し、エミリーと手を繋いだまま駆け寄る。
「おいおい、どうしたんだ?」
「小さな黒いモンスターがいたの!」
「小さな黒い? こう角みたいなのと尻尾が生えた」
「そうそう、翼もあったわ。小さくて見た目は可愛らしい」
「ふむ」と顎に手をやった彼はパチリと指を鳴らす。
「インプだな。ルルーシュ僻地でたまに見かける」
「危ない子なの?」
「直接人間に危害を加えてきたりはしないみたいだぜ。剣を向けると逃げて行く」
「そ、そうなんだ。他にも村の中にモンスターがいたりするの?」
「いんや。インプ以外は見かけねえな。たまに凶暴なのも来るとか聞いたけど、見たことねえや」
「い、いるんだ……」
「村の『外』にな。もし来襲したとしたら、家の中に隠れろ。エミリーの魔法で固めて凌げば何とかなるはずだ」
「が、頑張ります」
青い顔でエミリーがそう言ってくれたけど、声が震えている。
ゆっくりと時間をかけて彼女に落ち着いてもらい、魔法を使ってもらうようにしなきゃ。
彼女が安心して魔法を使えるように手を考えなきゃね。
「レオ、少し付き合ってもらう時間はある?」
「おう。隊長からも出発まではルチルとエミリーを見ててくれと言われて、戻ってきたんだよ」
「ありがとう!」
「俺の代わりに騎士団が荷物を届けてくれるから安心してくれ」
レオが付いていてくれたから、足どり軽くお屋敷の中まで見回ることができたわ。
小屋の中は鋤やクワ、ガーデニングに使うような道具が入っていたけど、錆が浮いていてそのまま使うと怪我をしそうだった。
お屋敷には一通りの家具や食器が置いてあり、こちらは埃で汚れてはいるけど使用するに支障は無さそう。
「これ、紅茶かな?」
「はい! まだ使えそうですよ! ルチル様、お茶にいたしませんか?」
棚の中に銀色の箱があって、開けてみたら中に入っていたのは茶葉だった。
ちょうど一息入れたいと思っていたところだったの。
このお屋敷、今のところ井戸を発見できてないのよね。だから、私だと紅茶を淹れることもできない。
そのため、エミリーが気を利かせて自分から誘ってくれたのね。
「頼んでもいいかしら」
「もちろんです! 先ほどからもう喉がカラカラで」
「レオも一緒にね」
「おお。いいのか」
嬉しそうな顔をしたレオに笑顔で雑巾を渡す。
もちろん、私の分もあるわよ。
「エミリー。先にこっちにお水をお願いできるかしら?」
「え、お二人がお掃除なさるのですか!」
「うん。待っている間にせめて座れるようにしたいなって」
「そ、そんな畏れ多い」
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と言うと、納得してくれたのかエミリーがバケツに手をかざす。
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