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第6話 アールデコ装飾の食堂でうどんをすする放課後
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とある放課後、旧校舎東棟の、一階の突き当たりにある大食堂で、俺とカナイはうどんをすすっていた。
ちなみにこの大食堂は、天井は高いし、実に――― 美術の教師によるとアールヌーボーだかアールデコだか言っていた――― 装飾も所々に残っていたりするような歴史のあるシロモノらしい。
だが長年のうどんやそば、カレーにカツ丼親子丼、と言った実に庶民的かつ馴染み深い香りや染みがこびりついているので、建てられた当初の優雅さなど、果たして何処へ消えたのだろうか?
そう問いたくなるくらいの場所になっている。
頭上からコーラス部やオーケストラの練習の声が聞こえてくる。優雅なBGMの中、ずるずる、と俺達はうどんをかきこんでいた。
カナイと食堂で会ったのは偶然だった。
なお、俺がここで食事をしていくことは多かった。自分の部屋に帰って一人で食べるよりは、ここで食べていく方が好きだったのだ。
夕方に何故学食が、と思われるかもしれないが、もともとクラブ活動が盛んな時期、こういった文化祭シーズンには、食堂も夕方まで営業されるらしい。食べ盛りの高校生である。あって困るということはない。
「何、今日はバンドの練習?」
ずるずる、と俺は天ぷらうどんをすする。傍らにはブリックパツクの甘ったるいコーヒーがある。食堂入り口に何台か並んだ黄色と赤と白の三色に彩られた自動販売機で買ったものだ。
いんや、とカナイはきつねうどんをすすりながら答えた。奴の所にはさらに甘い「フルーツ」牛乳のパックがあった。
「担任から呼び出し」
ったく、と奴は吐き出す様に言う。
「こんな時間までかよ」
「こんな時間、ってお前もいるじゃん。お前こそ何よ」
箸で指すな、と俺は目を細めた。
「俺はピアノ室」
あ、そうかと奴は納得してうなづく。
「何、お前んちってピアノ無いの? あんな上手いんだから、絶対あると思ってたけど」
「アプライトぐらいならあるよ。だけどここの音響って凄くいいからさ。ほら、この校舎古いだろ、鳴りがいいんだ。そういうとこで弾くと気持ちいいだろ?」
「そういうもん?」
「そういうもんだよ。カナイもバンドやろうってんだろ? 少しは音のことくらい考えろよ」
うーむ、と奴は少しだけ真剣な顔になる。俺は少々意外に思った。
「ところで何で呼び出し食らったんだよ。君、別に悪いことしたようには見えないけどさ」
「悪いのかよ! だから、バンドやるから」
「は?」
「サエナが言ったのは、そうそう間違いじゃねーなあ、全く」
さすがに俺も話が見えなかった。
「あのさカナイ、サエナって会長さんのことだよね」
「二人と居るかよ、そんな妙な名。何かさ、一応この学校、そのへんは寛大なように見せているんだけど、実のところ、結構せこいの」
「それって、バンドやると教師の心証悪くするって奴?」
何をいまどき、と言われそうだが、無い訳では無い。俺の郷里の進学校では未だそんな雰囲気があった。
「自由な校風が自慢の学校じゃないの?」
「まあね。だけど、有名私大の推薦とかだと、何か心証がどうとか何とか。自主性あるからいいじゃんなあ。けど難しくなるとか何とか」
「はあ」
「それであいつ、俺に今度の文化祭の申し込み、出させまい出させまいとして追っかけ回してたの。全くお節介なんだからさ」
「へえ。おねーさん代わりとしちゃ?」
そういう意味があったのか。
「姉貴っーか。何かさ、ウチとあいつんち、昔っから近いの。親父同士が仲がいいっていうか。ま、その程度の幼なじみだけどさ」
「あ、それでここに入ったんだ」
すると奴はひらひら、と手を振る。
「はずれ。ウチはもともと、親父も兄貴もここだったから、まあ別にそれは良かったの。あ――― って言うか、たぶん、お前が思ってるのと逆。俺は中高からの外部じゃないの」
「あ、もともと居たんだ」
「そ。小学校からここ。ここはそういう奴が大半でしょ。だから高校の外部なんて相当。お前すげーなあって素直に俺尊敬するもん。サエナもそう。あいつはお前と同じで、高校からの外部生」
「そりゃすごい」
思わず俺は自分のことを棚に上げてそう言っていた。それに気付いたのかどうなのか、奴はやや苦笑する。
「すごいだろ? そういう女だから、この学校で最初の女子生徒会長なんかにもなっちまう。いや、別になっちゃいけねって訳じゃないんだけどさ、皆面倒がってしなかっただけでさ。なのになりたいと言って、なっちまった。ついでに何を考えてるのか、俺にまでちょくちょく生徒会に立候補しろってうるさいうるさい」
OH,MY,GOD! とばかりに奴はお手上げのポーズを取った。
へえ、と俺は目を丸くした。生徒会とカナイ――― いまいち俺の印象ではつながらないものなのだが。
「あれ?」
奴は不意にまだうどんが半分引っかかっていそうな箸を俺に向けた(するな!)。
「そういう所、お前猫みて。目、でかいし」
「え?」
「あれ、言われたことない?」
「―――あるけど」
ちなみにこの大食堂は、天井は高いし、実に――― 美術の教師によるとアールヌーボーだかアールデコだか言っていた――― 装飾も所々に残っていたりするような歴史のあるシロモノらしい。
だが長年のうどんやそば、カレーにカツ丼親子丼、と言った実に庶民的かつ馴染み深い香りや染みがこびりついているので、建てられた当初の優雅さなど、果たして何処へ消えたのだろうか?
そう問いたくなるくらいの場所になっている。
頭上からコーラス部やオーケストラの練習の声が聞こえてくる。優雅なBGMの中、ずるずる、と俺達はうどんをかきこんでいた。
カナイと食堂で会ったのは偶然だった。
なお、俺がここで食事をしていくことは多かった。自分の部屋に帰って一人で食べるよりは、ここで食べていく方が好きだったのだ。
夕方に何故学食が、と思われるかもしれないが、もともとクラブ活動が盛んな時期、こういった文化祭シーズンには、食堂も夕方まで営業されるらしい。食べ盛りの高校生である。あって困るということはない。
「何、今日はバンドの練習?」
ずるずる、と俺は天ぷらうどんをすする。傍らにはブリックパツクの甘ったるいコーヒーがある。食堂入り口に何台か並んだ黄色と赤と白の三色に彩られた自動販売機で買ったものだ。
いんや、とカナイはきつねうどんをすすりながら答えた。奴の所にはさらに甘い「フルーツ」牛乳のパックがあった。
「担任から呼び出し」
ったく、と奴は吐き出す様に言う。
「こんな時間までかよ」
「こんな時間、ってお前もいるじゃん。お前こそ何よ」
箸で指すな、と俺は目を細めた。
「俺はピアノ室」
あ、そうかと奴は納得してうなづく。
「何、お前んちってピアノ無いの? あんな上手いんだから、絶対あると思ってたけど」
「アプライトぐらいならあるよ。だけどここの音響って凄くいいからさ。ほら、この校舎古いだろ、鳴りがいいんだ。そういうとこで弾くと気持ちいいだろ?」
「そういうもん?」
「そういうもんだよ。カナイもバンドやろうってんだろ? 少しは音のことくらい考えろよ」
うーむ、と奴は少しだけ真剣な顔になる。俺は少々意外に思った。
「ところで何で呼び出し食らったんだよ。君、別に悪いことしたようには見えないけどさ」
「悪いのかよ! だから、バンドやるから」
「は?」
「サエナが言ったのは、そうそう間違いじゃねーなあ、全く」
さすがに俺も話が見えなかった。
「あのさカナイ、サエナって会長さんのことだよね」
「二人と居るかよ、そんな妙な名。何かさ、一応この学校、そのへんは寛大なように見せているんだけど、実のところ、結構せこいの」
「それって、バンドやると教師の心証悪くするって奴?」
何をいまどき、と言われそうだが、無い訳では無い。俺の郷里の進学校では未だそんな雰囲気があった。
「自由な校風が自慢の学校じゃないの?」
「まあね。だけど、有名私大の推薦とかだと、何か心証がどうとか何とか。自主性あるからいいじゃんなあ。けど難しくなるとか何とか」
「はあ」
「それであいつ、俺に今度の文化祭の申し込み、出させまい出させまいとして追っかけ回してたの。全くお節介なんだからさ」
「へえ。おねーさん代わりとしちゃ?」
そういう意味があったのか。
「姉貴っーか。何かさ、ウチとあいつんち、昔っから近いの。親父同士が仲がいいっていうか。ま、その程度の幼なじみだけどさ」
「あ、それでここに入ったんだ」
すると奴はひらひら、と手を振る。
「はずれ。ウチはもともと、親父も兄貴もここだったから、まあ別にそれは良かったの。あ――― って言うか、たぶん、お前が思ってるのと逆。俺は中高からの外部じゃないの」
「あ、もともと居たんだ」
「そ。小学校からここ。ここはそういう奴が大半でしょ。だから高校の外部なんて相当。お前すげーなあって素直に俺尊敬するもん。サエナもそう。あいつはお前と同じで、高校からの外部生」
「そりゃすごい」
思わず俺は自分のことを棚に上げてそう言っていた。それに気付いたのかどうなのか、奴はやや苦笑する。
「すごいだろ? そういう女だから、この学校で最初の女子生徒会長なんかにもなっちまう。いや、別になっちゃいけねって訳じゃないんだけどさ、皆面倒がってしなかっただけでさ。なのになりたいと言って、なっちまった。ついでに何を考えてるのか、俺にまでちょくちょく生徒会に立候補しろってうるさいうるさい」
OH,MY,GOD! とばかりに奴はお手上げのポーズを取った。
へえ、と俺は目を丸くした。生徒会とカナイ――― いまいち俺の印象ではつながらないものなのだが。
「あれ?」
奴は不意にまだうどんが半分引っかかっていそうな箸を俺に向けた(するな!)。
「そういう所、お前猫みて。目、でかいし」
「え?」
「あれ、言われたことない?」
「―――あるけど」
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